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噺家としての気骨を見た【立川談春 芸歴40周年独演会】_2024年5月19日

私は子供の頃から落語が大好きで、SNSにはあまりUPしていないものの、ホール落語を中心に、寄席にも割りとちょくちょく行かせていただいています。

昨日は、「芸歴40周年特別企画 立川談春独演会~これから~」を聴いてきました。


有楽町マリオンのエレベーターで11階まで昇ると、エレベーターホールの先に何やら人だかりが。
背丈ほどのパネルの前に若い女性たちが列をなし、順番にパネルと一緒に写真を撮っている。

「嘘でしょ!? 確かに談春さんのファン層は若いけど、落語がこんなに女子人気があるの?」

よく見てみると、朝日ホールの正面のホールで、男性アイドル(?)数名が「アニソン」のコンサートを開いていたようです。
そっちね! ビックリしたぁ!(笑)。

さて、開演すると前座を立てずにいきなり談春さんが登場、噺のほうも幕を開けます。

■ニセモノ坊主のテキトー葬儀、「萬金丹」

まずは、旅の途中で山奥の寺に居ついた江戸っ子2人組が、僧侶の留守中にお布施をせしめようと、禁止されていた葬式を勝手に請け負って適当に乗り切ってしまう「萬金丹」。
僧侶の部屋で見つけた薬袋を、戒名と偽って渡し、疑問を抱く喪主を上手いこと言いくるめてしまいます。

■方言が聞き取れない江戸っ子と、江戸弁が早口で聞き取れない百べえの”すれ違い”喜劇、「百川(ももかわ)」

続く「百川(ももかわ)」は、かつて実在した料亭百川から作家に持ち込まれ、落語に仕立て直した実話!
今年3月に行われた落語協会100周年の記念興行では、「百」にちなんだ噺が高座にかけられていて、新宿末広亭の夜席では日替わりでトリが「百川」を演じていました。

内容は、気性の荒い河岸の連中の座敷に、百川の新人奉公人百べえ(ひゃくべえ)が御用を聞きにいくも、きつい方言訛りのせいで江戸っ子たちは百べえの言葉を聞きとれず、かたや百べえは早口にまくし立てる江戸弁が聞き取れず、会話がちぐはぐに。すれ違ったまま、てんやわんやの喜劇に発展!
朴訥としていて、どこかのんきな百べえがなんともユーモラスな噺です。

休憩を挟んで、後半は「慶安太平記より 宇都ノ谷峠(うつのやとうげ)」。

現在の東京都港区の増上寺から京都の総本山・知恩院まで、300両という大金を命掛けで守りながら届けた上に、10日で往復しなければならない、伝達(でんたつ)という僧侶と、旅先で絡まれる悪党との噺。

ロードムービーのような物語がいよいよ佳境へ!---と言ったところで「続きは明日!」と、講談の構成をサゲにして笑わせます。

(もとは講談の「宇津ノ谷峠」とのことで、番組表で「津」が「都」になっているのは、落語なのであえて変えたのかもしれません)

■落語界初の人間国宝・五代目柳家小さんの孫弟子の気骨

私が「しみじみ、いい落語を聞いたなぁ」と思うのは、登場人物によって噺家さんの声はもちろん、骨格を含めた姿形まで別人に見えてしまい、誰の落語を聞いたのか視覚的に思い出せないときです。

談春さんもまさにそうで、「百川」の百べえは、栗まんじゅうのような輪郭で、大きな前歯を出して笑う素朴なたたずまいがなんとも愛らしかったですし、
ニセモノ僧侶の江戸っ子たちは、日に焼けたやんちゃな若者二人が、それぞれ体格も顔立ちも違って目に浮かびました。「宇都ノ谷峠」もそうです。

我が家には長くテレビがないので、談春さんがテレビ俳優をしていることを知らなかったのですが、同席した友達は「談春さん=俳優」という印象のほうが強いそう。

「人(にん)が違って見えるのは、俳優として演技指導を受けた結果なんかじゃなくて、生粋の噺家としての血によって表ににじみ出るもののはず。ここって、同じようでも微妙に違うんだよなぁ」

なんておこがましくも思っていたところ、談春さんが噺の枕で
”自分は落語界初の人間国宝・五代目柳家小さんの孫弟子である”ことをしっかり言葉にされていて、噺家としても気骨を痛感しました。
やっぱ、そうこなくっちゃ!

(俳優さんをバカにしているわけではありません。私は噺家を尊敬していて、大好きなのです。誤解なく、また、ご容赦ください)

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