イクスカーション#4
あの日ね、
『僕は客席にいて開演前のステージを前に座ってた。
ただの会社の関係者として、そして君達の先輩として、呼ばれたんだ。』
下の子達がどんなステージをするか見てやって欲しいの。
それから終わったらあの子達にアドバイスしてやってくれって上司から頼まれてね。
と、上司の真似をしながら話す彼の物真似が毎回上達しているなと感心して心の中でくすっと笑ってしまう。
『後輩って言っても親しいなんて言えた関係性でもないし
初めましての初対面の子達ばかりなのに、なんで俺なんかがって思ったんだよ。
でもね…今はこう思うんだ。』
『_あの時、神様か何かが俺をその場所へ導いた。
_きっと引き寄せられたんだな。』
と言葉を具に紡ぎながら彼は柔らかく笑う。
『これから何が起こるかも、これから出逢う奇跡さえも知らない俺は
用意された席に座って、液晶画面をぼんやり眺めながら退屈を紛らわせてたよ。』
彼がちらりとこちらを見て、瞬きを一つ。
私は変わらず彼の横顔を眺める。
彼は再び天井へと目を戻し、
いつの間にかうとうとして何分経ったか分からないところ、開演のブザーに呼び覚まされ顔を上げるとようやく幕があがったこと
オープニングでは次々と出演者が出てきて明るさ全開のミュージカルソングで会場を沸き立てていたがカラフルな照明が眩しすぎてよく分からなかったこと
一応舞台を踏む先輩としての経験上、そんなど派手なオープニングはあっけなく終わったことで心持ちがよく分からなくなってしまい、続けてのソロコーナに戸惑い全然内容が入ってこなかったこと
それらを彼は話し続けた。
隣で私は可笑しいと笑いながら涙を拭う。
『_その時だよ。
君が出てきた。
君が歌い出して踊り出したとき
僕の世界は止まったんだ。』
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