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SNSで悩んだ時は仕事しろ

10代の頃、貴方には【こうなりたい】と思った大人は居ただろうか。
憧れ、という漠然とした感情ではなく、[この人のようにありたい]と明確に着地点が分かるような、そんな大人が、側にいただろうか。


10代の頃、某ゲームを通して親しく会話をするようになった人達が居た。
会話はチャットで、本名も顔も知らなかったが、当時田舎から都会の大学に出たばかりの当方にはその関係がとても楽であった。

知らない顔ばかりのキャンパスに、突然の自炊に家事、学科の先輩に誘われた物の馴染めず苦痛ばかり感じていたサークル。
そういう物が重なってしまい、ゲームとチャットを逃げ場にしていた。

そのチャットに仲間が集まるのは大体深夜から明け方にかけてで、年齢は10代から〜30代とバラツキがあった。
よくつるんでいたのはその中の5人で、1人は大学を休学している21歳の女性、今年大学卒業で就活中の女性、不動産会社で働く新卒の男性、当方と年齢が同じく18歳の男子大学生。

当初はログインしていたゲームをメインに会話をしていたが、徐々に好きなアニメや本の話をするにつれて、自分の趣味(コスプレやサバゲー、パチンコ等)についても話すようになり、気がつけば家族の話なんかもするようになっていた。

休学中の女性は家族との仲があまり良好ではなく、日中ゲームをしている事をよく思われていない為、家族が寝静まった深夜にログインしているのだという。
当方の家は父が筋金入りのオタクなので、ゲームのジャンルに口を出された事はあれど(大乱闘スマッシュブラザーズなんて一人でやるんじゃない。一人の時は一人でしか出来ないゲームをしなさい、ムジュラの仮面とか。等)ゲームをしている事で注意を受けた事は一度もなかった。

他のメンバーも家族に隠れてアニメを観ていたり、演劇サークルに入部したと誤魔化してコスプレをしたり、仕事だと嘘をついてコミケに行っていたり、というエピソードを持っており、当方は雷に打たれたようなショックを受けた。

【一般的に、親という生き物はアニメも漫画もゲームもプラモデルも小説も詳しくないのか。】

皆の話を聞いていると、オタクではないと思っていた母ですら『今回の担任、体型がゴッグみたいだったわね、服のセンスは旧ザクだけど』程度の事は言うので、当方の家庭が変わっている事にしっかりと直面した瞬間である。

なので家族の話になる度に『小森の家はいいね』と言われ、自分達の家族がどのくらい理解がないか、という話を聞く流れができてしまった。

両親には感謝しかないが、だからといって『恵まれた家庭の子』という扱いを受け、その役割を暗に求められるのは、どこか居心地が悪い。

それでも大学での居場所が見つけられない事と比例して、メンバーとどんどん親しくなりもっと深い話をするようにもなった。

精神的な病で病院に通っている、薬を多く飲んでしまう事がある、腕を傷つけてしまう事がある、会社を仮病で休んでしまった等、18歳の右も左も分からない子供はただただ話を聞くことしかできない上に『小森には分からないよ』と言われ、同仕様もない気持ちになる夜が増えた。

そうこうするうちに、メンバー全員でゲームをするというより、チャットで各々が愚痴や悩みを発表し、慰めるという図が出来上がった。

また、チャットだけではなくDMでも直接悩み相談を持ちかけられたり、ODで錯乱した長文の文章を受け取ったり、もっと悪いとメンバーの悪口を送られたりとチャットメンバーが自家中毒のような状態になりつつあった。

今ならなんとでも出来たのだが、その時は自分がDMを返さなければ自傷行為をしてしまうのではないか、と義務感にかられて返信をしていた。実際DMを送るのが遅れた事により、搬送されるほど薬大量に飲んだメンバーもいたのだ。


実はそのメンバーとは別に、[バトー]いうハンドルネームの男性とかなり親しくやり取りをし、チャットではなくDM で個別にやり取りをしていた。
内容はアニメと漫画とラノベの話で、家族の話や仕事の話等、プライベートな事は殆ど話さなかったが、作品から察するに10歳以上年上だったと思う。

その時、チャットメンバーとの関係に悩んでいた(というより、あの時はノイローゼになりかけていた)当方は初めてバトーにチャット仲間とのプライベートな相談をした。

珍しく時間が空いた後、バトーから

『小森氏は、働いた方が良い。バイトを探してみたら』

と返信が来た。
働かなくてもギリギリ生きていける程度の仕送りはあったので、入学して2ヶ月の間バイトを探すことさえしなかった。

『大学に居場所がないからチャットの事しか見えてないんだ。新しく何か始めろよ』

『新しくって言ったってゲームじゃ駄目だ、嫌になったらアカウント消して終わりだから。
教授とか先輩の紹介とか、簡単に逃げられない場所を作るんだよ』

『頭下げる事、人の話を聞く事、約束を守る事、それさえ真面目に出来れば居場所はできる。
現実で上手くやれない奴がSNSで上手くやれる訳ないんだよ

パソコンがまだ電話線に繋がってピーヒョロロ言ってる頃からチャットをしていた当方にはこれがガツンと来た。

嫌になったら逃げられる場所でしか話してこなかったかも知らない。受け入れてもらえると思った場所にしか行かなかったかもしれない。
オタクという単語に逃げていたのだろうか。



結構きちんとその言葉に刺された当方は、その週に先輩の紹介で中華料理屋でバイトをする事になった。
ずっと文化部だった当方にいきなり飲食はかなり(なんせバイトチーフがラグビー部のエースだ)きつかったが、頭を下げる事と人の話を聞く事と約束を守ることだけはなんとか死守した。

学校終わってすぐにバイトに駆け込んで、怒られながら仕事して23時過ぎに帰宅、風呂入って課題したらもう寝るしかないほどに疲れている。

DMが来ているのが分かっても返信が出来なかったり、チャットに誘われてもバイトで参加できなかったりする。

『私が辛くても、小森は心配しないんだね』
という内容を受け取った時は複雑な気持ちだった。
なんと返信して良いか分からず、チャットメンバーとの関係で悩んでいた事や新しくバイトを始めた事を悩みながら書いて送ってみた。
送った文章がそのまま返送された。ブロックされていたのである。
1人ではなく、全員から。

おお、と思った。
現実で上手くやれない奴がSNSで上手くやれる訳ないんだよ

まさに上手くやれなかった訳である。

もうバイトやめちゃおっかなという気持ちが浮かんだが、ここでやめるとまさにこの通りになってしまうので、半ばヤケクソで倒れるまでやってみようと決めた(後、この年の冬にコミケに誘われていた事も大きな理由となる)。

バイトを2ヶ月続けるあたりになると、なんとなく話せる人が出てくる。先にバイトに入っていた奴が同じ授業を受けていたり、同じサークルの奴だったりもする。
たまに先輩の家に呼ばれて酒飲んだりすると『あ、アニメ観てる人なんだね稲上晃画集見る?』等という濃い話が飛び出したりもした。


暫くしてからバトーにアルバイトをしている事、大学に居場所が出来た事、チャットの仲間からブロックされた事を報告した。

バトーからは『初手から飲食店なんてキツイ所行くなwww』と来た後

『人間関係で迷った時は仕事しろ。仕事と同じくらい丁寧に人間と接しろ。独り善がりになるなよ。』
と重ねて返信があった。

ゲームがサービス終了した後でも、この言葉をよく思い出す。

頭を下げる事と人の話を聞く事と約束を守ること

現実で上手くやれない奴がSNSで上手くやれる訳ないんだよ

10代の糞餓鬼にこの言葉が響くように伝えられた彼は何者だったのだろうか。
もし、自分がバトーと同じ立場にあった時、同じ言葉を同じくらい強く言える人間になりたいと思った。
まだ、言える自信はない。



余談

ただ、【現実で上手くやれない奴がSNSで上手くやれる訳がない】というのは当時の話であって、現代のSNSツールでは『いや、特にそんな事もないですよ』という声を聞く。割とよく聞く。なんなら最近も聞いた。
逆に言うと『現実が無理だったんで、ネットで仕事してます。快適ですよ』という友人も何人かいる。
後、どう頑張ってもコミュニケーション取れない人も(現実にもSNSにも)いるので、悠長な事言わずに『なんか変な人な気がする』と思ったら逃げましょう。

こうしてね、記事にしてみたものの、いつまでも自分の心に響いた事を馬鹿正直に自分の中で温めても良くないな、という自戒を込める事にしましょう。こうやって老害が作られていきますね。
せめて害にはならないようにしたいものです。

頭を(下げすぎると良くないので、適度に)下げる事と、人の話を(人によってはある程度)聞く事と、(時間とか契約内容とか納期とかクオリティとか)約束を守ること

という事を適切な場所で適切に言える大人になろうという目標の記事でした(薄い記事だな……)。

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