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【読書記録】「手づくりのアジール(青木真兵 著)」③

【読書記録】「手づくりのアジール(青木真兵 著)」②

「ホームカミングデーというのがありますが、あれはきっと仕事や生活がうまくいってない人には参加しにくいものだと思うので*3。」

*3 大学や校友会が卒業生との関係強化を目的に主催する、卒業生やその家族、元教員を招いてのイベント。

青木真兵『手づくりのアジールー「土着の知」が生まれるところ』

 「対話1 逃げ延びるという選択」では、アジールとしての大学が語られている。アジールとしての意味を内包していた大学が、産業化・会社化していく中で、近年始まった「ホームカミングデー」。それは、アジール性を体現していた大学人を無意識的に排除することにも繋がりがねない。
 
 私の大学院のホームカミングデーでも、毎年卒業生が講演を行うが、社会的にある程度名が知れた企業、あるいは大学のポストに就いていないと呼ばれない。実のところ、講演者を決める大学の研究者や事務も肩書などはそれほど意味がないことは分かっている(はずだ)が、現在の大学が置かれている社会的ポジションを踏まえた最適な落としどころを考えると、肩書は重要である。

 私は勝手に観光創造専攻に最も愛校心がある人間だと自負しているが、それは大学の公式な同窓コミュニティーとは綺麗には符合しない。卒業直後は、オフィシャルな幹事や繋ぎ役を引き受けたこともある。ただ、同窓会in東京では、自己紹介でそれぞれの肩書や「キャリア」がお披露目されるのが嫌だった。むしろ、私が好きなのは、オフィシャルな入試説明会in東京が終わった後、先生方と同窓生有志でノリで東京新幹線から伊香保温泉に行くような旅が好きだった。そのような幹事なら喜んで引き受ける。

 「うちの大学院も社会のいろんな分野で活躍し始めている。あっ、もちろん山崎も含めて。」

 先日、大学院の先生と飲んでいるとき、私を気遣ってくれた先生の発言があった。「社会的に活躍するとは一体何なのだろう」。そんなことを考える余裕もない社会人時代だった。今も社会に片足を突っ込んで、日々の生計を立てているが、現在は自分が地に足をつけて、健康であるための研究やそれが実現できる場づくりに最も重きを置いている。

 それが「homeport-北20条にあるもう一つの母校(港)-」と題したライフワークだ。思えば、自分の人生とは母校(地元)をつくりつづける時間そのもので、死んでも続いていくものだと思う。

 先日、「第2回homeport ゼミ合宿 in 熊本」を開催した。通常の大学院での研究を休んで、この合宿に参加した人がいた。この日のためにお金を貯め、有休をとり、はるばる熊本にやってきた人がいた。熊本では、私の中高時代の仲間が迎えてくれた。そこでは、音楽家兼医者の同い年の熊本人との出会いがあった。彼は音楽が人生の軸にあることを、集まった人に迷わず告げた。それは音楽と医療を貫いた生命的なものであるように思った。

 私は、合宿終了後、Xにこう呟いた。

社会人的なキャリアが途絶えたとしても、生命のキャリアは途絶えるはずがない。それを勘違いしないようにしたい。熊本ゼミ合宿の収穫。

 青木真兵さんは、対談1をこう締めくくっている。

此岸で疲れた人が戻ってこられる場所になればと思っているので。みんながいつでも出ていけて、戻ってこられる。戻ってきた人を自然と受け入れられるような社会を作っていきたいですね。

青木真兵『手づくりのアジールー「土着の知」が生まれるところ』

 homeportも、誰もが戻って来られる場所でありたいし、自分自身がつらいときは、homeport的な誰かに頼れる場所でありたい。そのために、誰もが本来持っているhomeport的な部分を引き出し、柔らかくきたえていく場所がhomeportなのだと思う。


「ルチャ・リブロを読み直す」第2回読書会
課題図書:青木真兵(2021)『手づくりのアジールー「土着の知」が生まれるところ』晶文社
第2回:「対話1 逃げ延びるという選択 柏木清吾×青木真兵×青木海青子」(P37-66)
2024年5月27日(月)20:00~22:00
会場:homeport(北20条)or オンライン
どなたでも参加可能です。参加希望の方は下記までご連絡ください。
tourismusic.station@gmail.com

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