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セラピスト1年生

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ミシマ社運営「ミシマガジン」のリニューアルに伴い、2010年当時に書かせていただいた連載「セラピスト1年生」が削除されましたので、ここにアップすることにしました。ライターをやりな…
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記事一覧

第1回 デラシネ的生活がやめられない(2010.01.06更新)

第1回 デラシネ的生活がやめられない(2010.01.06更新)

ミシマ社運営「ミシマガジン」のリニューアルに伴い、2010年当時に書かせていただいた連載「セラピスト1年生」が削除されましたので、ここにアップすることにしました。ライターをやりながら副業としてマッサージ稼業が成り立つかどうか、トライして挫折した(笑)日々を綴っております。

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 2009年のGW明け。
 その報せは激震とともにやってきて、約50人のフリーランスをいきなり路頭に迷い込

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第2回 銀座という最高峰で(2010.01.13更新)

第2回 銀座という最高峰で(2010.01.13更新)

 ホステスという仕事が好き、というと、驚かれる人も多いと思う。
 しかし、うちは小学3年生で両親が離婚したのち、母親がホステスとして女手一つで3人の子どもを育ててくれたので、その仕事は尊敬すべき対象なのだ。
 実際、中学生のころから母の勤めていたクラブのお客様に家族ともども食事に招待されたり(オジサマたちはみな優しかった!)、その店のクリスマスパーティチケット、通称「パー券」を(お客様が)私と妹と

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第3回   「相思相愛」を探して(2010.01.20更新)

第3回   「相思相愛」を探して(2010.01.20更新)

 しかし、銀座はそんなに甘くはなかった。

 まず、リーマンショック以降、銀座のクラブはどこもえらく大変で、実に600軒が店を閉めたという。銀座ホステス8年目の友人によれば、閉めた店がすべて外看板の電気を消すと、街全体がたいへん寂しく暗くなるので、看板の電気を消さないところがたくさんあるそうだ。
 次に私の年齢(笑)。なにしろ38歳である、ヘルプで働ける年齢ではない。そして既存客はというと、赤坂時

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第4回 何かを始めるのに遅すぎるということはない(2010.01.27更新)

第4回 何かを始めるのに遅すぎるということはない(2010.01.27更新)

「<相思相愛>かどうか?」というのは、わりと正しい道へと導いてくれる感覚だと思う。そういう自分の勘、嗅覚を信じることが、ときに最上の選択につながるのだ。(もちろん毎回成功というわけではないのだが。)

「ホステスじゃない、アロマセラピーマッサージだ」とわかったその夜から、私はまたすぐに行動を開始した。
 実は「アロマセラピーマッサージ」は急に思い立ったわけではない。20代半ばからいつかこの世界で

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第5回 自らの命も助く(2010.02.17更新)

第5回 自らの命も助く(2010.02.17更新)

 採用していただいた会社Bは、アロマセラピーマッサージがメニューにあるサロンを持っているが、現在セラピストの募集はないとのこと。そこで、ボディケアとリフレクソロジーがメインの別のサロンに配属される形で、いよいよ研修が始まった。

 まずはオリエンテーションに参加する。
 北は北海道・青森あたりから南は沖縄・九州あたりまでまんべんなく受講者が来ており、その数約50名が会場のパイプ椅子に並んだ

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第6回 久しぶりの「クラスメイト」(2010.02.24更新)

第6回 久しぶりの「クラスメイト」(2010.02.24更新)

 翌日からリフレクソロジー研修が始まった。

 クラスメイトは35名ほど。半分はボディケア研修2週間を終えてきた研修生で、もう半分が私と同じ新規の研修生である。つまり前者はクラスメイトでありながら先輩でもあるわけで、研修所内のわからないことはいろいろ教えてもらえる。
 また地方から出てきている人は、研修所の階上にある宿泊施設に泊まることができる。通いで来ている人は10名ほどで、残りはみんなこの研修

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第7回 食べられないキットカット(2010.03.03更新)

第7回 食べられないキットカット(2010.03.03更新)

 研修1週間目に、最初の中間実技試験が行われた。

 内容は「お客様ご案内→リフレクソロジー20分コース→お見送り」である。クラスメイトが2つのグループに分かれ、前半にセラピスト役をやったグループが、後半はお客様役を演じる。
 チェックされる項目は、笑顔、言葉遣い、手順、リフレクソロジーをお客様と会話しながら20分以内に終えることなど。
 この中間実技試験にパスできないと、翌日からスタートする一期

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第8回 去る者、見送る者(2010.03.10更新)

第8回 去る者、見送る者(2010.03.10更新)

 研修2週目に入った。
 ここからは学科よりも実技中心の日々。中間試験前に一通り教わっていたリフレクソロジー40分コースを「お客様と会話しながら施術できるレベル」まであげていく。さらに、ハンドリフレクソロジー20分&40分コースも学ぶ。

 ある日のこと、補習時間にそれまで組んだことのないユウカちゃんというコが「よかったらお相手してもらえませんか?」と声をかけてきた。私は「よろこんで」と、お客様役

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第9回 愛しい日々(2010.03.17更新)

第9回 愛しい日々(2010.03.17更新)

 いよいよリフレクソロジー最終実技試験当日を迎えた。

 試験前にメッセージつきのキットカットを持った1期下の研修生が教室になだれこんできて、「頑張ってくださいね!」「きっと大丈夫です!」と渡してくれた。
 私はキョウコさんや、前日お客様役を担当してくれた女の子や、ほかにも数人から計6個ほどもらった。験担ぎに1つくらい食べたかったが、そのあとでもう一度歯磨きしなきゃいけないのでやめた。クラスメイト

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第10回 自分の手から離したときに(2010.03.24更新)

第10回 自分の手から離したときに(2010.03.24更新)

 2日間の休みを挟んで、ボディケア研修が始まった。

 クラスは、35人でスタート。そのうちの約半分が、リフレクソロジーを一緒に合格した仲間であり、残りの半分が前日にオリエンテーションを終えたばかりの新人研修生だ。
 私はこのクラスの班長をすることになった。
 
 この会社の研修システムはよくできているなあと思うことがたくさんあったのだが、この班長選出もその1つだった。
 クラスは常に2週間の研修

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第11回 50代のチャレンジャー(2010.04.07更新)

第11回 50代のチャレンジャー(2010.04.07更新)

 3日目までに足と腰、背中の施術を習った。
 ほとんど素人の自分でも、習った施術を補習時間にクラスメイトの体を借りて丁寧に行うと、気持ちいいらしくて寝てしまう。まあ、みんな慢性的な睡眠不足なので、当たり前と言えば当たり前なのだが、相手が寝るのは単純に嬉しかった。

 と同時に、このころあたりから親指の痛みが激しくなってきた。
 「指作り」といって、親指の腹を寝せて、指を立てたとき、第一関節が外側に

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第12回 子犬なふたり(2010.04.21更新)

第12回 子犬なふたり(2010.04.21更新)

 ボディケアの研修中に、仲良くなった女の子と男の子がいる。リフレクロジーのときから一緒のクラスメイト、北海道出身の18歳シイちゃんと、広島出身の20歳ワンちゃんだ。

 シイちゃんはシオリという名前で、自分のことも「シイ」と呼ぶ。
 ワンちゃんは立派な名前があるのだけど、研修が始まって数日後、シイちゃんが彼に「なんか捨てられた子犬みたいだねー」と言って、それでニックネームが「ワンちゃん」になってし

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第13回 不穏な前夜(2010.06.02更新)

第13回 不穏な前夜(2010.06.02更新)

 ボディケア最終実技試験が終わった。

 第11回「愛しい日々」に書いてある一日──つまり2班に分かれ、10時半より試験があり、16時に合格発表があり、夜に近所の居酒屋で合格祝いをする──を丁寧になぞるような一日だった。
 1つだけ違うことがあるとするなら、合格発表後に翌々日から5日間続く店舗研修のための事前準備が17時から2時間あったこと。(ちなみにまたもや全員合格! この期は総勢100名のうち

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第14回 抗争勃発(2010.06.16更新)

第14回 抗争勃発(2010.06.16更新)

 翌々日から店舗研修が始まる予定だったのだが、ここで残念なことが起きた。
 打ち上げを終えて帰宅した翌朝、体の節々が痛いなあと思ったら、発熱していた。
 久しぶりの38℃超え。疲労が溜まっていたのだろう。とりあえず一日寝ていれば大丈夫だろうと思いきや、夕方に、ボディケア研修で副班長をしていた大阪出身の男の子がインフルエンザと診断されたという連絡が入った。

 そして副班長とよくつるんでいた長崎出身

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