エピソード1 プロローグ
幻想的な朧月が、花序の枝の先端に出で、大地を目指し垂れ下げ咲き誇る藤の華達をより幻想的に魅せている・・・
そんな夜にわたしはその「青年」と出会った。
咲き乱れる白藤棚の下でその青年は、美しく艶やかな長い銀髪を風に揺らしながら、藤色の瞳でわたしの視線を射止める。
スラっとした長身に、陶器のような白い肌に流れる銀髪が妖しい色気を醸し出し魅了する。その姿はまるで白藤の神のように神秘的だった。
息をのむほどのその神々しい程の美しさは、人外の存在だとわたしに告げる。
だが、薄っすらと狂気を感じさせるそのガラスの様な淡い紫の瞳の奥に、どことなく懐かしさを感じたのは何故なのか。
ふっと胸の奥がザワつく。何かを思い出しそうで、そうでない感覚・・・・。苛立ちと焦燥感。
長く短い沈黙の中、不意に強い風が二人の間を吹き抜けた瞬間、仄かな甘みを感じさせる香りと共に白藤の花びらが雪のように濃く舞い散ると、その青年の姿は視界から消え去っていた。
まるで幻覚でも視ていたかのように・・・・。
その不思議な出会いから3年。成人を迎え刻(とき)と共に記憶の中から忘れ去られていた頃、近くで起きたとある事件をきっかけにまた思い出す事となる。
季節は5月。
田舎では有るが、そこそこ名の知れた神社の横に隣接した広大な白藤棚の元に、酷く切り付けられたような跡のあるご遺体が寝かされていたらしい・・・・。
と言う、噂好きのご近所さんからの情報を聴いた。
その情報では、ご遺体はまるで藤の華で「弔う」ような形でその場に寝かされていたように見えたらしい・・・が、噂と言うものは所詮噂の範疇を越えないもの。本人の主観が邪魔するものだから実際はわからない。
ただ、これが通り魔的な犯罪ならば一人暮らしの自分も警戒するに越した事は無い。
色々と対策を考えながら歩いていると、後ろの方からわたしの名前を呼ぶ声が聴こえてきた。
「おーい。沙~羅!」
― この軽~い呼び声は・・・・
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