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『悪夢 -part1-』

(め … ろ … … …)

(… … やめ … ろ … …)

(やめろ… … …)

(やめろ!!!)

 飛び起きたとき、呼吸は乱れ、心臓はいまにも破裂しそうだった。

 暗闇に赤く浮かび上がる「03:47 AM」の光。着ていたものは汗でぐっしょりと濡れ、ベッドも湿っていた。

 うなされていた悪夢と汗を流すために、不快感と共にシャワーへと向かう。

キュッキュッキュッ。

 程よく熱いシャワーが、今までの不快感を吹き飛ばすようだった。だが、目を瞑るとフラッシュバックのように浮かび上がるあの夢。眉間にしわをよせ、顔をしかめながら少しだけシャワーを熱くする。

ーーーーー

 熱さに気を取られ悪夢を忘れたころ、シャワーからあがると、今度は乾いたシャツに袖を通す。着なれたシャツの柔らかい肌触りに、ホッとため息をついた。

 ベッドルームへと戻ると、ベッドの湿り具合を確認するために手を当てるが、またあの不快感がよみがえる。

 サイドテーブルの明かりを消し、携帯を手に取ると、快適な寝床を求めてリビングへと向かい、いつも座りなれている二人掛けのソファーに横になって天井を見つめる。

 すると一定のリズムを刻んでいる音の遠くから、鳥の鳴き声が聞こえているのに気が付いた。

『04:59 AM』

 使い込んだスマートフォンの画面に映し出される、購入当時からの壁紙と白い文字が、どれくらい悪夢に支配されていたかを教えてくれた。

 カーテンから少しだけ漏れる光、少しずつ騒がしくなる窓の外。

 彼は眠ることを諦めた。

=====

 職場に向かう足取りは、鉛のスーツを着て歩いているように感じられ、歩いても歩いてもたどり着かない、そんな気さえするほどで、職場につく頃には、ひとっ走りしたかのような疲労感に襲われていた。

 職場につくと、いつもの見慣れた顔が次から次へと視界に飛び込んでくる。消えかかったような声で朝の挨拶を済ませると、ロッカーへと向かい、手早く着替え自分の持ち場へと向かった。

 職場での評価はとても好評で、将来も期待されている。そんな思いに応えたい、その一心で仕事に打ち込む事で何かから逃げたかったのかもしれない。

 始業のベルが鳴ると、鉛のスーツを脱ぎ捨てるためにも、いつもより熱心に作業を始めるのであった。

=====

 仕事に打ち込むことで、今朝の悪夢の事は忘れられた。同じ部署の人たちと会話を交わし、冗談を言いながら時折笑顔を見せる。

 そうこうしていると、遠くの方でお昼を知らせるベルが鳴る。

もうランチの時間か。

 そう気がゆるんだ瞬間フラッシュバックのように今朝見た悪夢がよみがえり彼のアタマは、あっという間に支配された。

 その悪夢はアタマの中を支配する間、彼のココロも支配していく。強烈なフラッシュバックに抗うことは、難しかった。悪夢の力は、ひとりの力ではどうにもできなかった。

続く。

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