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『焦らなくていいからね』

「本日は、お越しいただいてありがとうございます」

「皆さんに、お会いできることをとっても楽しみにしていたんです」

 それは、一昨年のことだった。

(心理学体験セミナーかぁ…)

 ちょうど、以前勤めていた会社を鬱でやめたジョセフの目に止まったのは、ネットの広告だった。

「怪しいけど、ちょっと気になるなぁ…」

「体験で大したお金もかからないし、変な勧誘してきたらさっさと帰ればいいか」

 そういって気軽に申し込んだセミナーだった。

「体験とはいえ、こうして心理学に興味を持って、来てくださった皆様にすぐに使える知識をプレゼントします」

「それは…」

ーーー

 ジョセフは、ハッと我に返ると焦ってしまう原因がわかった。

(なるほど!こうやって影響を受けるんだ!)

(ってことは…)

 記憶を頼りに工夫してみると、ジョセフは見違えるように落ち着きミスが減ったのだ。

(こういうことだったのか…)

ーーー

「それは…『否定的なコトバをやめて、肯定的に表現する』ということです。」

「よく言われるのが、『ゾウをイメージしないでください。』と言われたとき、アナタはまっさきに何を思い浮かべましたか?」

 もちろん、ジョセフはゾウを思い浮かべた。

「ゾウを思い浮かべた人は手を上げて?」

 講師の問いかけにジョセフが手を上げながら部屋を見渡すと、他の参加者全員が手を上げていてホッとした。

「ありがとうございます。」

「このように『〜〜しないで』とか『〜〜してはいけない』といわれると、人は無意識にやってしまうのです。」

「もちろん、我々は学ぶことができますから『やらないで』といわれたらやらないこともできます。」

「ですが基本的には、脳は否定的な表現が理解できないのです。」

 その時は、そうなんだと簡単に相槌を打つ程度だった。

「だから皆さんには、是非表現を変えてほしいのです。」

「『急がないで』を『ゆっくりでいいよ』『走らないで』を『歩いてね』に。」

ーーー

 それに気づいてからジョセフは、コトバを変えるようになった。

 否定的な表現をやめ、肯定的な表現になるよう努力し、他人に対しても、自分に対しても肯定的であるよう努めた。

 おかげでジョセフは、コトバで自分や他人へ知らぬ間にパワーを与えられる人になったのだった。

ーーーーー

コトバとは不思議なもので、人を動かす力があるようです。

そしてそれは、自分から他人へ。他人から自分へ。

さらには、自分から自分へ。

もし、自分の使うコトバが否定的なものだとしたら。

もし、自分の使うコトバが肯定的なものだとしたら。

どのような影響が起こるのでしょうか。

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