ベールの向こう側の世界
私は、奈良県が大好きです。
といっても、住んだことはありません。滋賀県に住んでいた頃に、ちょくちょく訪れていただけです。
奈良は、仏像にしても、神社仏閣にしても、旧き良き日本の知恵や文化が集まった所です。
そして、それらは奈良の豊かな自然と共存しており、昔の人々は森羅万象の中に神を見出だしていたことに気付きます。
災害、飢饉、疫病、自然の中に生じるそれらを沈め、五穀豊穣、子孫繁栄、天下安寧を神々に祈念するために作られた芸術の数々には目を見張るものがあります。
今でも街並みや自然、日本の伝統的な技術や文化が色濃く残されています。
例えば、私の身近な好きなものでいうと、中川政七商店さんは、日本の伝統を活かした長く使える良い日用品を販売されています。
その反面、不思議なちょっと怖いところだと思います。
以前、私の妹が吉野山に登るため、吉野駅から歩いて向かったところ、優しそうなおばあさんがご自分の民家の前で声を掛けてきたそうです。
「どこいくのかね?」
「吉野山に行きます」
「帰りは、ここに泊まんなさい。ご飯も用意しておくから、必ず戻ってきなさい」
不審に思った妹は、帰りもそこを通ったものの、おばあさんが現れなかったので、すたこらさっさと通りすぎ帰ったそうですが、後から調べてもその民家に該当する場所がどこにもないと言います。
妹は平気そうでしたが、私はふと、包丁を砥ながら手ぐすねを引いて待っている山姥の姿を想像し、ゾッとしました。
さて、実はあまり詳しくは知らないベールに覆われた奈良ですが、池澤夏樹さんが書かれた「ワカタケル」という本を読んでみました。
ワカタケルは、あまり評判のいい大王ではありませんが、かつて奈良に都があったときに、どんな文化であったか、そしてどんな儀式が行われているのか、一部今の天皇制に通ずるものも描かれています。
古事記とかは非常に読みにくいのですが、こちらはすらすら読めるように描かれています。
イザナギ、イザナミの国造りに象徴される子孫繁栄の行為が本当に濃すぎるくらい描かれており、世継ぎ問題が本小説の大きな核です。
そして、その世継ぎ問題の中で、大王に求められる資質を追求する中、日本という国を象徴し、率いてきたのは、女性の力に大きく頼ってきたところもあったのではないかということが描かれています。
女性はただ、子を産み育てて男性に仕えるという役割を担うものではない。霊力や知性のある女性が武力だけに頼らず日本を繁栄させてきたのではないか、ということを壮大なスケールで問う小説です。
男性、女性、どちらの力が良いわけではなく、状況に応じて使い分け、双方が補いあわなければ、国が存続していかないことがこのワカタケルの問題で気付かされました。
奈良に行きたい、行きたいと願う私ですが、まだまだ当分先になりそうです。
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