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世界を変えることはできるのか

※本noteは、読書感想文です。記載している本は、ファンタジーで、死も生の一環で、死を悪や穢らわしいものとしてとらえずに描かれています。それが前提として描かれたファンタジーの感想であるため、一部不適切な表現がある場合がありますが、ご了承下さい。

小学生の時分に1巻目を読んで心が震えたファンタジーを、ようやく長い時をかけて3巻全て読了することが叶った。

それは、スーザン・プライスにより書かれた、ゴーストシリーズである。

3巻目は、ゴーストダンスという。

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1巻目と2巻目のについては、以下のnoteで紹介させて頂いたので、興味を持たれた方は、ご覧いただければ幸いである。

1巻目と2巻目は、圧倒的な知力と技術を持つ古代神話のような魔法使いや魔女が描かれていた。

3巻目は、がらっと舞台が変わって近代になっており、俗世が描かれるが、1巻目と同様、残虐な皇帝は変わらない。大きく変化を遂げているのが、資本主義が到来していることだ。モノにより栄華を極めることが全てになっている。そのため、皇帝の私腹を肥やすために、ますます多くの奴隷が投入され、搾取が行われるようになっており、生物の乱獲や森林伐採等の環境破壊が進んでいる。しかし、人間は破滅に向かっていることに全く気付いていない。

そして、致命的ともいえる変化が、目に見えぬ存在や力を信じず、畏れを知らない世界になっている、ということだ。例え、天使や悪魔でもあるかのような力を目の前にしても、絶対的に信じることができるものはカネやモノであり、今さえ満たされていればそれで良いのである。そして、このファンタジーの最大のテーマである死者の世界ですら、存在を知っているものはなく、死後に行き場がなく、皆さ迷う世界に変わっている。

本作で主人公である見習い魔法使いであるシンジビスは、破滅に向かう世界をなんとか救いたいと感じ、行動に移す。しかしながら、1巻目や2巻目の魔法使いに比べると、その力も衰退しており、圧倒的な強さを持っていないのである。

これは、今の日本にも通じるものがあるのではないだろうか。古代神話では光と闇、両方を持ち合わせた圧倒的な力を持つ神々が描かれる。その力は、残虐さが際立つほどである。だからこそ、昔の人々の多く(いつの時代であれ、全てはあり得ないと思う)は、自然の中に神々を見出だし、時には穏やかで包み込んでくれて、時には荒ぶる神々になる存在を畏れ敬っていたのではないだろうか。だが、現在は経済が何よりも優先される。もう、そこには神はいない。

東日本大震災についても、もちろん復興することは大事だが、圧倒的な自然の力を目前にして、日本は大きく変わっただろうか。例えば原発問題だが、原発事故も、原発の今後についても、未だ解決していない。結局のところ、今の社会は現状維持には力を注げるが、大きな変革は望まないのだと思う。

このファンタジーは、果たして、偉大な力は世界を破滅から救えるのか、という観点から描かれる。

結果として、シンジビスは、世界を変えることはできなかった。滅びることのない、新たな自分が望む世界を作ったのだ。

現代もそうだ。社会を変えることはできない。その一方で、変革を望んだ方々が、例えば東日本大震災後、現代の文明にできるだけ頼らない自給自足の生活を始めた、という話も伺うようになった。

私は、このファンタジーの子ども騙しでないラストに圧倒された。この現世は破滅するであろう。しかし、広い意味での世界(本ファンタジーは、死後の世界も生の一環である)は決して破滅したりしない。だとしたら、気付くまで、墜ちてゆくしかないのだ、そして気付いたら、自分の中や外に新しい聖域や生活を作り上げていくしかないのだ、と教えてくれるすごいファンタジーである。結局、個人レベルでの変革しかできないのである。

このままで良いのか、と悩んでおられる方々に是非、多くの問題を抱え悩める今だからこそ、本ゴーストシリーズを読んで頂きたいと思う。

最後に、私が少女だった頃からの願いを叶えて下さった、金原瑞人さん、サウザンブックスさん、そして多くの方々にこの場をお借りして、お礼申し上げます。

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