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消えたへそ


私は、雷が鳴るとテンションが上がる子どもだった。
そんな時「雷様がへそとるから隠して」と言われていたが、
(こんなヘソなんてものをとって何の意味があるんだろう。佃煮にでもしてくれてやる)
なんて思っていた。


しかし、今はどうだろう。


このつんつるてんなお腹。


私のへそは本当に無くなってしまった。






原因は、
妊娠してお腹が膨れたことによるものである。



あれだけ無関心だったへそ。
お腹の膨らみとともに、
日に日にお腹の中心にあった小さな凹みが無くなり、平になるさまはとても不思議だ。


こうして、
私はヘソ無し人間となった。

だけど、いざなくなると寂しいもんだ。




まず見た目からして違和感しかない。
お腹の中心にへそがないとなんだか締まらない。自分のお腹なのに、自分のものだと認識できない違和感。いわゆる錯乱状態に陥るのだ。




次に、不安もある。
へその裏側には胃や腸などの臓器をつつんでいる腹膜とつながっていて、その腹膜には痛みを感じる神経が多く存在するそうだ。
今回、へそが平らになる事で、そのようなデリケートな部分が露わになってしまう。




最後に、心なしか体幹が掴みづらい。
もちろんお腹が大きくなったことにより、バランスは取りづらくなっているのだが、それだけではない気がする。
体幹を取る時には、ヘソ部分に力を入れてまっすぐ立つのだが、その指標となるヘソが無いためぐらぐらしてしまう。



このように、私のへそは、
お腹の見た目から、臓器を守る機能、体幹を使う日々の生活まで
あらゆる面で必要な体の一部だったのだ。


こんな不便な思いから、
今まで当たり前に存在していたへそが、当たり前ではなかったことに気づく。



富、名声、才能、美貌、健康、5体満足
、、
これらを持ってる人は、その価値がどれほどすばらしいものかわからないという。
失って初めてその価値に気づける。
持ってない人の方が、その真の価値について理解してるだなんて、、、
なんて皮肉な話なんだろう。



へそに価値を見出せなかった私は
へそに泣くのだ。




でも、
もう少ししたら、
私のもとに再びやってきてくれるだろうか。
今度会えたなら、私はへそを無下に扱うことはしないだろう。
特別なクリームも塗って保湿してあげるし、
お腹を出して冷やすなんてもってのほか!
雷が鳴った時でもしっかり抑えて守ってあげよう。


もしも、再び、戻ってきてくれたなら、
「おかえり」と声をかけるつもりだ。