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『社会的排除と法システム』(橋場典子)が第23回日本法社会学会・学会奨励賞(著書部門)を受賞しました

北海道大学出版会

 この度、関西学院大学 法学部 橋場典子 准教授のご著作『社会的排除と法システム』(2021)が第23回日本法社会学会・学会奨励賞(著書部門)を受賞されました。おめでとうございます。
 橋場先生より「受賞の言葉」をご寄稿いただきましたので、同書の書影、目次とともに掲載します。

 このたび、北海道大学出版会から上梓した拙著(2021)『社会的排除と法システム』が、日本法社会学会の学会奨励賞(著書部門)を受賞しました。拙著が学会の栄誉ある賞を授与されたのは、ひとえに北海道大学出版会の皆様のお力添えのおかげです。出版のプロである北海道大学出版会の皆様、特に拙著の主担当になってくださった竹中英俊先生に、心からの感謝を申し上げます。

 本書は、法システムが原理的に内在する排除性に着目し,市民が法システムへアクセスを試みる際の根源的な阻害要因とその克服方策について理論的・実証的に検討したものです。具体的には、法システムや法専門職に対してしばしば向けられる躊躇や拒絶、不信に着目し、それらを克服ないし緩和するための方策について信頼研究や自己肯定感を足掛かりにして理論的・実証的な考察を行いました。

 本著は三部構成をとっております。第I部の「現代社会における排除」(第1~2章)では現代社会における社会的排除の実相に焦点を当て分析を行い、第II部「法教育という逆説」(第3~4章)では法教育実践が逆説的に示唆する排除性、すなわち実践への参加の強制や教育システム自体からの疎外状態にある人々を等閑視する傾向があるのではないかという点について批判的に考察しました。第III部「システム・信頼・属人性」(第5~7章)では、信頼研究等の理論分析や司法ソーシャルワーク活動等の調査分析を通して、システムへのアクセス阻害要因を克服するためのメカニズム、すなわち法システムへのアクセスを可能にするための属人的信頼や自己肯定感の意味と課題を指摘しました。

 本書で検討・考察したこれら一連の理論的・実証的分析の結果、人々がシステムにコミットしてもよいと思えるためには、当事者たちに関わる第三者(専門職含)らの属人的要素(態度、熱意、人柄等)が実際には重要な位置を占めている点、当事者自身の内的要素すなわち他者や自己に対する肯定的意識がシステム活用の際に背中を押す基盤となる点、が明らかになりました。

 本書を執筆する背景には、法はその価値として自由や平等をうたっているにもかかわらず、実際のところ形式的権利付与に留まり、実質的不平等状態を看過しているのではないかという著者の素朴な問題関心がありました。不十分ではありますが、本書の執筆を通して、ある程度当初の問題関心に対する現時点での応答ができたと思っております。

 今回北海道大学出版会から博士論文をベースとした単著を出版していただく過程で、出版することの社会的意義やある種の怖さについても考える契機を頂きました。出版の過程で得ることができたこれらの経験は、今後の研究者人生で大きな糧となるものです。

 これらをしっかりと自覚しつつ、今回の学会奨励賞受賞を機にさらに気を引き締めて、これからも真摯に研究活動に励む所存です。

 心強く的確な御助言を与えていただき、貴重な経験をさせてくださった北海道大学出版会の皆様方に、心からの感謝を申し上げます。ありがとうございました。


目次
はしがき
序 章 本書の問題設定とその意義
 第1節 問題の所在
 第2節 本書の目的・構成
第I部 現代社会における排除
第1章 現代日本社会の実相
 はじめに
 第1節 社会的排除状態第2節 日本社会の構造転換
第2章 社会的排除と社会的包摂
 はじめに
 第1節 社会的排除概念の発生と背景
 第2節 貧困概念と社会的排除概念
 第3節 複合的排除状態
第II部 法教育という逆説
第3章 法教育の射程
 はじめに
 第1節 法教育と法普及活動
 第2節 アメリカにおける法教育
 第3節 日本における法教育
 第4節 法教育にみる市民と国家の関係性
第4章 社会システムが内包する排除性
 はじめに
 第1節 実践の場に由来する排除性と「参加」の強制
 第2節 システム自体からの排除と排除状態の内面化
 第3節 排除状態の連動性
 第4節 学校外「法教育」実践の可能性
 第5節 現代社会への応答と法教育
第III部 システム・信頼・属人性
第5章 社会的包摂と信頼―属人的信頼から制度的信頼へ
 はじめに
 第1節 「システム信頼」への信頼―ルーマン、ギデンズを中心に
 第2節 関係の拡張機能としての信頼概念―信頼と互酬性
 第3節 「システム自体への信頼」の発生メカニズム
 第4節 架け橋としての実践者の媒介機能
 第5節 システム作動要因としての肯定的アイデンティティ
 第6節 システムへのコミットメント基盤としての「信頼」「自己肯定
 感」 ―心理的側面におけるアクセス阻害要因を緩和するために
第6章 システム作動要因としての属人性
 第1節 法拒絶の実態―内面化された自己疎外と司法アクセスへの困難性
 第2節 法システム活用意欲の発生―「情報の把握」から「活用」への経
 緯
 第3節 人的信頼とシステム信頼との関連
 第4節 社会資源の一つとしての法律専門職認識―実践者の媒介機能
 第5節 一般性と属人性の相克
第7章 現代社会における「法」の応答性
 はじめに
 第1節 求められる法律専門職像の変化
 第2節 司法アクセスを可能にするもの―公益弁護活動の分析を中心に
 第3節 社会資源としての法システム
終  章 現代社会において「法」が果たす役割とは
参考文献
あとがき
索  引

日本型生活保障を支えてきた社会構造が大きく転換した今日、法は社会的弱者をいかにして包摂できるのか。法システムからの疎外状態を克服するには何が必要とされているのか。法システムが作動するための構造と心理の二つの要因に注目し、現代社会において法が果たす役割を考察する。
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