徒然w 第一段

「逆子」
 と、捻は言った。
 逆子?と僕は馬鹿みたいにオウム返しした。
 そう、逆子。と、捻は歌うように言った。

 私は逆子だったらしい、と無駄に得意げな奴。
「だから?」
 苛立ち、反応してしまったのが拙かった。
 喜々としてくるりと振り向いて近づいてきた奴の顔が僕の視界を埋める。
「逆子っていうのはな、この状態で生まれてくるんだよ。」
 顔を背け興味のないアピールをした僕は、捻によっていきなり立たされた。
「これが、逆の子の状態なんだ。」
 捻はさも誇らしげに宣言した。
 怒りの眼差しを向けるがすでに奴の視線はそれている。
 ――付き合ってられるか。
 どかりと腰を下ろすと、すかさず奴はが人差し指を立てて突きつけてきた。
「天と言えば皆が皆、こう指差すだろう?」
 もう完全に無視を決め込むことにした僕に気づかず、奴は絞り出すような声で続ける。
「…逆子だろうが…差すところは同じだ!」
 やけに苦しそうなのは、おそらく逆さでも向いているからだろう。捻の体内では文字通り上を下への大騒ぎだ。かわいそうに。
 僕は捻の体内細胞にはなりたくないと心の底から思った。

「上にあるものを天というのか?下にあるものが地か?」
 否、と息苦しさから解放された捻が荒い呼吸の合間から声を絞り出す。
「天と地は存在だ。存在が先で概念は後だろう。だから天が”上”、地が”下”。天が上、地が下ならば。」
 捻は、ふぅ、と大きく息を吐いた。
「ならば、人間にとって、原始、上と下の定義は逆なのだ。」
 頭が下、足が上、それが本来の姿じゃあ、ないのか?上が偉い、下が低級だなんて概念はどこから生まれる?
 なぁ、と奴が迫る。

 反応しなければ面倒くさいので、恩師が言った言葉を引用して返す。
「人は、人に育てられなきゃ人には成れないんだよ。人間にとっての定義は、成人したときの状態で確定するんだ」
 ほう、と捻が顔の半分を歪めた。
「人間に育てられなければ人に成れないなら、おまえは人には成れんな。」
 苛苛苛!と捻は笑った。

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