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『肝臓がん・膵臓がんってどんな病気? 最近の手術~ロボット手術など』【#在宅医療研究会 オンライン|8月度開催レポート】

本日は『肝臓がん・膵臓がんってどんな病気?最近の手術〜ロボット手術など』というテーマでご講演いただきます。
講師は国立がん研究センター中央病院で肝胆膵外科の医長をされている、伴大輔先生です。
本日は、肝胆膵外科の話を中心に、最新のロボット手術に関する話題についてもわかりやすくお話しくださる予定です。どうぞよろしくお願いします。
 
みなさま、こんにちは。本日お話しさせていただく、伴と申します。
まず、簡単に自己紹介をさせていただきます。
わたしは富山県の出身で、1999年に東京医科歯科大学を卒業後、同附属病院で外科を中心に、なかでも肝胆膵外科を専門としてきました。主に東京医科歯科大学や国立がんセンター中央病院で研鑽を積み、2020年4月から現在の職場におります。
 
さて、皆さんは肝胆膵外科についてご存知でしょうか?
肝胆膵とは、肝臓、胆道、膵臓を意味しています。このうち胆道は、胆のう、胆管(肝内胆管、肝外胆管、乳頭部)に分けられます。外科のうち、お腹の中の臓器を扱うのが、主に消化器外科になります。肝胆膵外科は、この消化器外科の一部です。肝胆膵外科では、肝胆膵の他に十二指腸、脾臓、後腹膜腫瘍なども扱うことがあります。消化器外科は、このほかにも胃外科、食道外科、大腸外科などに分けられることもあります。
 
さて日本におけるがんによる死亡者数の統計を見ると、男性は肺がん、女性は大腸がんがトップです。そのなかで膵臓がんをみると、男性では4位、女性では3位になっています。わたしが専門にさせていただいている膵臓がんと肝臓がんを合わせると、男女ともに相当な数の方が亡くなっているのが現状です。本日は、この肝臓と膵臓に生じるがんについて、お話しをさせていただきます。


1.  膵臓がんについて

1)  膵臓について

まず膵臓について説明します。
膵臓はお腹のなかで胃や腸の後ろにあり、頭部、体部、尾部に分けることができ、頭部は十二指腸につながっています。
 
膵臓は主に消化に必要となる分泌物を生成していますが、その機能には外分泌機能と内分泌機能があります。外分泌機能は、消化酵素である膵液を十二指腸に流しています。内分泌機能は主に血糖を下げるインスリンを産生しています。なお膵臓がんの多くは、膵管の細胞から発生することが知られています。

2)  膵臓がんの患者さんの具体例

膵臓がんの患者さんについて、なかなかイメージが湧きにくいかもしれませんので、外来に受診される膵臓がんの方が、どのような経過で診断、そして治療を受けていかれるか、一般的な流れをご紹介します。
 
なお外来で患者さんに、「あなたは膵臓がんです」とお伝えすると、非常にがっかりされ、絶望的になられます。ご家族の方は、治療法などについて、ネットを使って調べられます。ただネット上で紹介されている治療法には、正確ではないものもあり、なかにはとても怪しい治療法に誘導されることもあります。
 
具体的な例をご紹介します。
70歳の男性。主訴は腹痛です。
4ヶ月ほど前に、みぞおちのあたりから背部にかけて痛みが出てきたため、近くの内科を受診。胃薬を処方され「様子をみましょう」と言われました。1ヶ月後、まだ症状が続くために再度受診したところ、少し経過がおかしいので腹部超音波検査を行ったところ、膵頭部に腫瘍が見つかりました。そこで画像専門のクリニックにMRI検査を外注し、膵臓がん疑いとの診断を受けました。そこで近くの基幹病院の内科に紹介されます。ここまでで症状が出始めてからだいたい2ヶ月ほど経過しています。基幹病院ではさらに詳細な検査が必要とされ、CT検査やMRI検査が繰り返されました。ここでさらに1ヶ月ほどかかります。そしてやっぱり膵臓がんが疑われるので、「入院の上精査をしましょう」とのことで、超音波内視鏡検査、そして疑わしい細胞を直接採取する穿刺の検査も行われ、ようやく膵臓がんの確定診断がなされます。しかし入院した機関病院では手術対応ができないこともあり、治療のため国立がん研究センター中央病院へ紹介されます。ここまで最低でも3~4ヶ月を要していることが一般的です。
 
これが日本の現状です。膵臓がんの患者さんは、症状が出始めてから治療にアクセスできるまで、非常に時間を要してしまいます。この患者さんは、特に過去に胃がんの既往もあり、本人も含め、周囲の人も、症状から先に他の腹痛の可能性を考えてしまいました。そうでなくても、なかなか腹痛を訴える患者さんに、最初から膵臓がんを想起して検査を進めることがない、そのような特徴があります。
 
この患者さんは、がん研究センター病院に紹介を受けたあと、血液検査や画像検査を行いました。腫瘍マーカーは異常高値になっていました。またCT検査でも膵臓がんと診断され、、抗がん剤による治療を受けたのち、手術を受けられました。

3)  膵臓がんの種類

膵臓がんの種類についてご説明します。膵臓がんにはいくつかの種類があり、大きく分けて上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍に分けられます。詳しい説明は割愛しますが、膵臓がんの90%近くは上皮性腫瘍に含まれる浸潤性膵臓がんになります。ちなみに、スティーブ・ジョブスは膵臓がんで亡くなられていますが、彼の膵臓がんは神経内分泌腫瘍に属するもので、全く異なるタイプの膵臓がんです。

4)  膵臓がんの診断

膵臓がんの診断について、ご説明いたします。
(1)膵臓がんの症状、危険因子
膵臓がんの患者さんは、約9割が何らかの症状があって受診しておられます。その症状には、腹痛、背部痛、体重減少、黄疸などが含まれます。
 
ただ膵臓は痛みを感じませんので、がんができても症状が出にくいです。早期では症状が出にくく、進行して見つかることが多いがんです。事実、残念ながら多くの方は手術ができない状態で来られます。手術ができる方は30%程度しか居られません。
 
したがって、症状があれば疑って直ちに検査をすることが大切です。例えば、胆管に浸潤すると、閉塞性黄疸になります。十二指腸へ浸潤すると、腹痛、嘔吐がみられますし、周りの神経に浸潤すると、背部痛が起こります。これらの症状が出てくれば、膵臓がんを疑って早めに検査をすることが大切になります。
 
できるだけ早期に診断するためには、膵臓がんの家族歴がある方や、糖尿病を有する方は、症状が出れば積極的に膵臓がんを疑って検査を進めることが重要です。特に膵臓がんの家系の方は注意が必要です。近い家族の方に2人以上膵臓がんの方がおられる人は、定期的に詳しい検査を受けることをお勧めしています。また、糖尿病の患者さんは注意が必要です。特に新たに診断された糖尿病の患者さんの約1%は、膵臓がんを発症しています。また急激に悪化する糖尿病も、膵臓がんの危険因子だと言われています。
 
(2)腫瘍マーカー
膵臓がんには腫瘍マーカーと言う、血液検査で調べることができます。検診などで検査されていることがありますが、残念ながらこの腫瘍マーカーの正診率はさほど高くありません。
 
(3)画像検査
まず膵臓がんの画像診断は、超音波と造影CTでおこないます。加えて、いくつかの検査を組み合わせて行うことはありますが、診断に時間を費やしている暇はありません。
 
今のところ超音波検査が手頃で診断の精度も高いので、まず疑えば超音波検査をすることになります。
 
膵臓がんは、塊になるがんとは異なり、浸潤していくタイプのがんです。組織と組織の間に、がん細胞がじわっと広がっていきます。したがって、CT検査の写真もしっかりと目を凝らして画像を見ないと、見逃されてしまうことがあります。低吸収という少し黒くなった部分があり、そこから周辺の組織に広がっていくところがあります。よく膵臓がんの大きさを尋ねられることがありますが、膵臓がんはもやっと広がっていくタイプのがんですので、「〇〇cmです」と大きさを答えることは難しいことがあります。
MRIを撮ると、はっきりとがんが写っているわけではありませんが、胆のうや膵臓から十二指腸に流れる管が途絶している画像をみて、がん細胞によって管が圧迫され、管が途絶していると考えて、ここにがんがある、と診断できることもあります。
 
また、PET検査というものもありますが、残念ながらこの検査も感度はあまり良くありません。以前はPETと呼ばれる画像検査が多く行われたことがありました。しかしPET検査で分かるものは、通常のCT検査でもわかりますので、あまり有用な検査であるとは言えません。現在では、残念ながらPETを行う検診も推奨されていません。
 
(4)超音波内視鏡検査
膵臓がんは胃や大腸が邪魔をして、体表面から超音波をあてても見つかりにくい特徴があります。そのため、胃のなかから超音波内視鏡検査を行い、大腸の影響を受けずに評価をすることが試みられています。事実、胃カメラをしてみると、胃の中にがんが浸潤しているのが見えることもあります。
 
超音波内視鏡は膵臓がんを好感度で診断できるため、疑った場合は超音波内視鏡を行うことが推奨されています。超音波内視鏡は、内視鏡の先端に超音波のプローベが付いており、横に細い針も付いています。この機械を用いて、胃の中から病変を超音波で確認し、針を使って細胞を穿刺することもできます。現時点では、この超音波内視鏡が最も信頼できる検査方法になります。

5)  膵臓がんの治療

膵臓がんの治療方法について、ご説明いたします。
(1)化学療法
膵臓がんの治療のことについてお話しします。昔は診断がつくとすぐ手術を行っていましたが、あまり手術の成績が良くなりませんでした。そこで最近では、手術をする前に化学療法を行っています。膵臓がんは浸潤性がつよいため、最近は抗がん剤を使って小さながんを叩いておき、それから本丸であるがんの塊を手術で取るようにしています。
また術後、日常生活に戻ることができる状況になってから、術後の抗がん剤による治療を行います。手術をサンドィッチするように、術前と術後に化学療法を行います。術後の化学療法には約6ヶ月がかかります。術後の化学療法は、術前と比べて、力の弱い抗がん剤を用いますので、外来で通院しながら治療を受けていただくことができます。
 
抗がん剤の治療が終わった後も、がんの再発がないか、3ヶ月おきに5年ほど経過を観察します。経過観察中は、CTを撮影し、体の全身にがん細胞が増えてくることがないかを確認します。
 
膵臓がんは、目に見えないほど小さいがんが、体の様々なところに潜んでいて、術後半年や1年が経過してから大きくなってくることがあります。これを再発と言います。再発したとしても、抗がん剤で治療することはできるのですが、残念ながら再発したがんには、抗がん剤は十分に効くことはなく、完全にがん細胞が消えることはありません。したがって、抗がん剤によってがんの進行を食い止めることが治療の目的となります。
 
 
(2)手術療法
膵臓がんの手術について少し詳しくお話しします。膵臓がんの手術は、主に膵頭十二指腸切除術と呼ばれる手術と膵体尾部切除に分かれます。なお、膵臓がんの遠隔転移がある場合は手術適応になりません。また、小さながん細胞が腹膜のいたるところに広がってしまっている状態である腹膜播種(ふくまくはしゅ)も、見えるがんを切除したとしても、必ず目に見えないところに広がっているがん細胞が、その後大きくなってきてしまいますので、手術はできません。なお遠隔転移した膵臓がんは、抗がん剤に対する効果があまり期待できません。また腹膜播種のある状態の患者さんも、化学療法を行ったとしても、長く生きることは難しく、多くは半年以内にお亡くなりになってしまいます。
 
(a) 膵頭十二指腸切除術
膵頭十二指腸切除は、膵臓の右側を切除しますが、実際は膵臓だけを切除するわけではありません。というのも、膵臓と十二指腸は一体化しており、さらに胆管は膵臓の中を通りますので、膵臓を切除する際は、十二指腸と胆管も一緒に切除しなければなりません。膵臓と胆管、十二指腸を一括して切除しますので、膵頭十二指腸切除術と呼ばれています。
 
手術をした後は、再建と言って臓器を繋がなければなりません。膵臓からは、膵液が1日500ccほど出ていますし、胆汁も一日1リットルほど出てきています。このような消化液が消化管の中に入って、食物と混ぜ合わされなければなりません。それを実現するために、いくつかの再建方法が昔から考えられてきました。いろいろな方法がありましたが、最近はチャイルド法と呼ばれる方法にほぼ統一されるようになっています。何十年もかけて、一番安定した成績を出すことができる、このチャイルド法に統一されるようになってきています。
またがん細胞は周辺のリンパ節に転移しやすい傾向がありますので、膵臓がんのときに転移しやすいことがわかっている周辺のリンパ節も一緒に切除します。
 
通常は手術のための入院が2〜3週間ですが、手術が終わって、通常の生活に戻れるようになるまで、手術後1〜2ヶ月を必要とします。
 
(b) 膵体尾部切除術
膵臓の左側を切る、膵体尾部切除は単純です。膵体尾部切除は、消化管が関係しませんので、再建も必要ありません。術式としては、膵臓だけを切除する場合、周囲の血管も含めて切除をする場合、また近接する脾臓も含めて切除する場合など、状況に合わせて術式を選択しています。
 
(c) 低侵襲手術(腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術)
膵臓がんの治療の進歩は、抗がん剤の進歩に合わせて改善しています。また、手術による治療も進歩しています。何よりも最近の大きな進歩は、2010年位から急速に進歩している、低侵襲手術と言われる、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術の進歩です。以前は大きくお腹を開けないととできなかった手術が、最近は小さな穴をいくつか開けるだけで行えるようになっています。
 
まず腹腔鏡下手術では、お腹のなかを二酸化炭素のガスを使って膨らませます。その後お腹のなかの臓器をカメラで覗きながら、トロッカーと呼ばれる筒の中から、手術器具を挿入し、モニターを見ながら手術を行います。
腹腔鏡を用いて膵体尾部を切除する手術では、お腹の中をカメラで覗いて、高周波が流れるハサミを用いて病変を切除していきます。シーリングと呼ばれる、ハサミの真ん中でzipして中を切ると言う方法を用いて病変を切っていきます。画面で見ると大きく見えますが、実際はとても小さい病変です。2〜3ミリの血管は普通に切れます。さらに長いホッチキスを用いて、膵臓を縫いながら切ることも可能です。切除した臓器は、回収バックの中に入れておなかの中から外に出します。おへそのところに穴を開けていますが、この穴は大きく広がりますので、大きい臓器であっても、体の外に出すことができます。
 
この膵体尾部切除を腹腔鏡で行った場合、手術は3から5時間で終わり、翌日から水を飲むことができます。2日目から食事を開始します。大体7日目位で状態が良ければ、退院の相談をします。多くの方は10日目位までに退院をされています。ところが、もし開腹であれば、+1週間ぐらい入院期間が長くなっています。合併症は、腹腔鏡で手術をする方が少なくなっています。原因はよく分かりませんが、体の負担が少なく、回復が早いことが結局体力を温存できることが、合併症が少なくなっている理由ではないかと考えています。
 
ロボット支援下手術は、実は膵頭十二指腸切除でその威力を発揮します。ロボット支援下手術は、2012年に前立腺がんに対する治療で使われるようになりました。その後、胃や大腸、また肺の手術などに用いられるようになっています。膵臓の手術に導入されるようになったのは、つい最近で2020年からです。理由はいろいろありますが、その最大の理由は、ダヴィンチと呼ばれるロボット支援下手術で用いる機械の性能が、飛躍的に進歩したことが挙げられます。バージョンアップするごとに性能が上がってきており、一番難しい手術の部類に入る膵臓がんに対する手術にも用いられるようになりました。
 
ロボット支援下手術について紹介します。もともとこの機械は、ベトナム戦争の時に、アメリカ軍が負傷した兵士を遠隔から手術できるようにすることが目的で開発された機械です。未来から来たような機械です。日本の企業は、追従しようと頑張っていますが、今のところこのダヴィンチを超える機械は現れていません。
 
ロボット支援下手術では、ロボットを患者さんの体の近くに持っていき、術者はそこから少し離れたところで、コンソールと呼ばれる機械の中に入ります。術者の目の前には、3Dの空間が広がっており、手元の器具を操作すると、それに合わせて患者さんの近くにあるロボットが動く仕組みになっています。
 
このロボットの手は、人間の手よりも非常によく動きます。関節が多くあり、人間の手よりも細かい動きができます。なおかつ、手ぶれが補正されますので、全く手ぶれすることがありません。したがって、びっくりするぐらい安定した操作が可能となります。また数ミリ程度の大きさの病変も、とてもきれいに大きく拡大して見ることができます。さらに3Dですので、状況が非常にリアルに把握することができます。顕微鏡を用いて手術をするように、非常に微細な病変を確認することができます。以上より、人の手を用いて手術をするより、非常に安定して手術を行うことができます。ダヴィンチは、すでに人の体を超えた操作性を確保できていると考えています。
 
このダヴィンチを用いて膵頭十二指腸切除を行うと、手術の時間はおよそ6時間前後、手術後およそ2週間で退院について相談することが一般的です。
 
膵臓がんは、予後が非常に悪い、厳しいがんではありますが、化学療法と手術の組み合わせにより、予後は飛躍的に改善しています。また、低侵襲手術(腹腔鏡下やロボット支援下)を用いることにより、手術のあり方は様変わりしました。

6)  膵臓がんの予後

膵臓がんは予後が悪いと認識されていますが、どれ程度悪いのかについてご説明します。
膵臓は周辺にいくつもの血管がありますので、浸潤した膵臓がんは血液に乗って全身に広がりやすい特徴があります。また放射線も効きづらく、抗がん剤も効きにくいという特徴があります。これががんの王様と言われる所以です。
 
同じ消化器がんの胃がんと結腸がんの罹患数と死亡数の年次推移をご紹介します。1970年代からこの2つのがんの罹患数と死亡数を見たところ、両方とも年々罹患する人は増えています。ところが胃がんの死亡者数は全然増えていません。つまり、かかる人は増えていますが、同時に治っている人も増えていると言うことです。結腸がんは死亡する方も増えてはいますが、実はその割合は全然増えていません。つまり、一定の治療効果はあると言えるかと思います。ところが、膵臓がんを見ると、罹患数と死亡数がほぼ一致しています。つまり、膵臓がんにかかると、ほぼ全ての人がなくなっていると言う現実があります。
 
膵臓がんの患者さんの予後をステージ別に見てみると、ステージ4と言われる遠隔転移のある患者さんは、その予後が非常に悪くなっています。ステージ1と言われる早期のがんであれば、ステージ4よりも予後は良いのですが、他の種類のがんに比べると予後は悪くなっています。例えば、乳がんや胃がんであれば、早期で発見されると90%以上が生存しておられますが、膵臓がんの5年生存率が約50%で、予後が悪いことがお分かりいただけるかと思います。
 
切除できない膵臓がんの予後も非常に悪くなっています。切除できない膵臓がんであれば、半年後には約半分の方がなくなっておられます。抗がん剤が効いたとしても、一年以上生存をすることは難しくなっています。
 
ただ最新の統計を見ると、確かに2010年ぐらいまでは、膵臓がんにかかる人と死亡する人の数にはほとんど違いはありませんが、その後徐々に差が開き始めています。つまりかかっても治る人がほんの少しですが増えてきています。実際、使える抗がん剤の種類が増えてきたこともあり、膵臓がんにかかっても治る人が珍しくはなくなってきています。私たちの施設のデーターでは、術後5年の生存率は、2000年代から比較すると、以前は20%近くであった5年生存率は、最近では50%近くに改善しています。かつては、なかなか長期生存が望めなかった膵臓がんですが、徐々に予後は改善してきているといえます。まだまだ満足できる数ではありませんが、かつての絶望的な状況に比べると、治る見込みも出てきたと言えるかと思います。
 
なお膵臓がんにかかる人は年々増加しています。20年前に比べると、ほぼ倍といってもいいほど患者さんの数は増えています。2003年には年間20,000人だった膵臓がんの患者さんの数は、2020年には40,000人を超えてしまっています。膵臓がんは高齢化に伴うがんですので、当然増えるのは仕方がないことですが、高齢化のスピード以上に膵臓がんの患者さんが増えています。ただその理由はよく解りません。
 
これまでの話をまとめると、膵臓がんは手術可能な場合で生存率の中央値が3年、手術ができない場合の生存期間の中央値が半年前後です。外科手術ができる患者さんのみが、長期生存が期待でき、5年生存率が40から60%になっています。ただ外来受診時に手術ができる人は、全体の約3割しか居られません。また膵臓がんの治療成績は、手術前後に抗がん剤を用いた治療をすることで飛躍的に改善されています。
 

2.  肝臓がんについて

時間が足りなくなってしまっていましたので、簡単に肝臓がんについてご説明します。

1)  肝臓がんの種類

肝臓がんは大きく分けると原発性肝臓がんと転移性肝臓がんに分けられます。このうち圧倒的多数は原発性肝臓がんである肝細胞がんと呼ばれるものです。
 
肝細胞がんは、これまでベースにB型肝炎やC型肝炎、またアルコール性肝炎が原因となっているものが多くを占めていました。しかし最近その様相が変わってきています。昔は、黄疸や肝硬変の症状が見られる、いかにも肝臓が悪い患者さんが多く見られましたが、最近肝機能が悪くなさそうな人に肝細胞がんが見られるようになっています。
 
最近C型肝炎はウイルス使用をすることによってほぼ撲滅されていますし、B型肝炎についてもかなりコントロールされています。また、昔あった輸血から起こる肝炎と言うのもほぼ撲滅されています。
 
その結果、予想されていたように肝細胞がんに罹患する患者さんの数は、徐々に減ってきています。しかし、不思議なことですが、nonB nonCと呼ばれる、B型肝炎でもC型でもないウイルス性肝炎が増えてきています。また理由はよくわかっていませんが、脂肪肝がベースにあって発症する肝細胞がんの方も増えてきています。糖尿病から来る肝細胞がんも増えているのではないかと言われています。
 
なお肝臓がんは、正常な肝臓に炎症が繰り返し起こることで発症していきます。その結果慢性肝炎となり、そこから肝細胞がん、また同時に肝硬変も併発します。

2)  肝臓がんの治療

肝臓がんの治療のところまで少し話を飛ばします。
肝臓がんの手術をする際の基本的な考え方があります。肝臓は部分的に取る時と大きく広い範囲を取る時があります。ただ取れば良いと言うだけではなく、とった後に残される肝臓の機能も考えて、適切な切除範囲を決めていきます。
 
(1)肝動脈塞栓術
また、肝細胞がんの治療には、手術以外にもいくつかの方法があります。例えば、肝臓を栄養する血管の中に細いカテーテルを入れて、肝細胞を直接攻撃する治療を行うことがあります。これは肝動脈塞栓術と呼ばれている非常に有効な治療法ですが、その効果は限定的です。残念ながら完全に肝細胞がんを消すことは難しいのですが、7割位までは押さえ込むことが可能です。したがって、例えば肝臓内に10個や20個の病変がある方に対しては、肝動脈塞栓術を併用して、肝細胞がんを押さえ込む治療法を選択することもあります。
 
その他にも薬物療法などの治療法もありますが、どのような治療法を選択するかは、肝臓の機能、肝細胞がんの数や大きさなどを照らし合わせて決めていきます。
 
(2)ラジオ波焼却療法
小さいがんであれば、ラジオ波焼却療法が非常に有用です。肝細胞がんに直接針を刺し、高周波のラジオ波を流して、がん細胞を焼ききる治療法です。
 
(3)手術療法
最近、肝細胞がんの手術療法も大きく進歩しています。以前のように、大きくお腹を切ることが少なくなってきています。昔の手術では、ベンツ切開と呼ばれる、車のベンツのマークのように、三方向に伸びる形でお腹を大きく切ることが一般的でした。そして大きくお腹を開けて、直接病変を見ながら、肝臓の手術をしていました。
 
ただこのような手術はとても難易度が高く、1970年代では15%近くの方が、肝臓がん切除後に亡くなっておられました。そのため肝臓の手術は、とても危険だと認識されていましたが、2000年代に入って、その死亡率は1%以下に減少しています。そして開腹手術が、最近は腹腔鏡下の手術に置き換わってきています。腹腔鏡を用いると、小さな領域を大きく拡大して見ることができますので、以前は大きく切り取っていたような術式も、細く小さく切って進めるといった方法に変わってきています。細い脈管を確認しながら、少しずつ手術を進めるようになっています。出血量も極端に少なくなっており、腹腔鏡で手術をすると100から200mL程度しか出血しません。
実は腹腔鏡の手術は、太った方にも適した手術方です。お腹周りが大きい人でも、肝臓の周りには脂肪がありません。したがって容易に肝臓にアプローチすることができます。また比較的大きな肝細胞がんにも腹腔鏡は適しています。
したがって、膵臓がんと同じように、肝臓がんに対しても、腹腔鏡の手術はとても適していると言えるかと思います。現在ではかなり幅広い状況で、腹腔鏡で手術を行うことができるようになっています。ただし、胆道再建や血行再建が必要なときには、腹腔鏡の手術は非適応としています。このように、最新の医療技術も組み合わせながら、肝臓や膵臓の手術を行っております。
 
以上最後少し駆け足になりましたが、膵臓がんのことを中心にお話しさせていただきました。ご清聴ありがとうございました。

3.質疑応答

Q. 神経内分泌腫瘍で、胆管閉塞になっている患者さんがおられます。いまひとつ病態がよくわからないのですが、具体的にどこから発生するがんなのか、また治療はどのように行われるのか教えて頂けるでしょうか?
A. 神経内分泌腫瘍は非常に多彩です。種類が非常にたくさんありますので、どのようなタイプの神経内分泌腫瘍によって状況は大きく変わります。したがって、今の情報だけでは詳しくご説明することはできないのですが、神経内分泌腫瘍で胆管閉塞が起こる、つまり胆管に腫瘍が浸潤することは極めて稀です。したがって、通常の神経内分泌腫瘍ではなく、特殊なタイプのものではないかと思います。それに対する治療法ですが、もし切除できるタイプのものであれば切除したほうがいいです。ただし、多発しているようであれば、薬物治療が原則となります。ただ、薬物の種類は、腫瘍のタイプをみないと分かりませんので、一概には言えません。なお神経内分泌腫瘍は、膵臓の中の神経内分泌細胞から発生します。したがって、膵臓から発生し腫瘍が胆管を閉塞させた、ということです。

Q. 糖尿病のある方で、膵臓に嚢胞があるので、定期的に見ていきましょうと言われている方がおられます。この嚢胞は癌化することがあるのでしょうか?またどのようなことに注意して観察していけば良いのでしょうか?
A. 嚢胞が癌化することはあります。嚢胞性疾患と呼ばれる疾患の中に様々なタイプがあります。そのタイプによってリスク分類しています。リスクが低いものは放置していても良いのですが、中リスクのものは定期的な観察が必要です。おそらく診療してる医師は、そのリスク分類を参考にして患者さんのフォローをしておられるのではないかと思います。フォローの際は、画像検査としてMRIが一番良いのですが、MRIはアクセスに時間がかかること、また検査の時間も長く、ご高齢の方には負担にもなります。したがって、腹部の超音波検査を同じ施設で継続して受けるというのが一番現実的ではないかと思います。

Q. 膵臓がんに対する薬物療法の成績が良くなっているとのことでしたが、副作用の面での変化はございますか?
A. 抗がん剤が進歩したことで、副作用の強さに変化があったかと言うと、一概には言えません。抗がん剤の種類によって、出現する副作用に違いがあるからです。ただ最近は、治療を受けている患者さんが、仕事など日常生活を維持しながら、治療も受けることができるように考慮されていることが一般的です。抗がん剤治療と言うと、入院して、髪の毛が抜け、洗面器を抱えて吐いている、と言う副作用をイメージする方がおられるかもしれませんが、最近そのようなことはありません。基本的には外来通院で行われるものがほとんどです。

今後の予定につきましては下記リンクよりご確認ください。
医療職・介護職・福祉職の方であればどなたでもご参加いただけます。


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