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患者にとっての最善を常に考え、その人らしく生きることを支えるための緩和ケア・ACPのあり方【#在宅医療研究会レポート(2020/1/22①)】

1月度の在宅医療研究会が大田区で開催され、2つのテーマで講演が行われました。

■講演
演題①「緩和ケアとACPを考える~緩和ケア認定看護師としてその人らしく生きることを支えるために~」
演者:東邦大学医療センター大森病院 緩和ケア認定看護師 清水 あさみ 様

演題②「緩和ケアとACPを考える」
演者:東邦大学医療センター大森病院 緩和ケアセンター 部長 中村 陽一 先生


演題①について、レポートをお届けします。

東邦大学医療センター大森病院の緩和ケア認定看護師である清水あさみさんは、緩和ケア支援チームの一員として日々、終末期の患者や家族と関わり、ACPの場面や緩和ケアに携わっています。今回はそんな清水さんから、ACPにおける看護師の役割・ACPの実際・ACPや緩和ケアにおける大切な考え方などについて、経験や事例を基に語って頂きました。


緩和ケア認定看護師とは

緩和ケア認定看護師は、緩和ケアについて専門的に学び、患者さんやその家族に質の高い緩和ケアを提供すること・がんなどの生命を脅かす病気における苦しみを和らげ、その人らしい人生を送れるお手伝いをする存在です。

清水さんが勤務する東邦大学医療センター大森病院(以下、大森病院)には4名の緩和ケア認定看護師がおり、それぞれ病棟でスタッフと共に日々緩和ケアを実践しています。


ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは?

ACPは、今後の治療・療養・患者・家族と医療従事者が患者自らの意向に基きあらかじめ話し合うプロセスのこと。

・本人と意向を確認したうえで、家族・友人と共に話し合うこと
・本人の同意のもと、話し合いの内容は記録され、定期的に見直されてケアにかかわる人々と共有されること
が望ましい状態です。

ACPで話し合う内容には、
・ご本人の気がかり
・重要な価値観やケアの目標
・病状や予後の理解
・今後の治療やケアに関する意向と実現の可能性
などが含まれます。


ACPの目的

ACPの目的は、患者や家族のエンド・オブ・ライフに関する希望が表現され、尊重されることです。

そうして患者や家族の希望を聞くことで、将来患者の意思決定能力が低下したときに、その意向が尊重されてその人が望むケアができること、本人が望まない治療が回避されること、その患者にとっての最善を家族・医療者がともに考えることにつながっていきます。


ACPを考える場面

ACPを考えるタイミングには、難治性の疾患があることを告げられたときや、治療効果が期待できなくなってきたときなどがあります。

そういった状況になったときに、「どのような治療を選択するか」「治療を継続するかどうか」「今後どのような生活を送るのか」「輸液、胃瘻、鎮静などの選択をどうするか」「どこでどのような最期を迎えるか」を考え話し合っていくことが必要となってきます。

ACPにおける看護師の役割
疾病の診断・告知から再発・進行、治療の中止、終末期の話し合いなどで、患者や家族は大きな選択や意思決定を求められる場面に何度も遭遇します。

そんなとき、看護師はどのプロセスにおいても、意向を汲みとりながらケアを提供する存在。継続的に患者の価値観やニーズを理解し、“患者にとっての最善”を常に考えることが重要となります。

その過程で本人の「価値観」「意向」「気がかりなこと」「譲れないこと」といった、本人の思い(ピース)を丁寧に集めて、その人の人生の物語をつないでいくことが、看護であり、ACPになっていくのではないか?と清水さんは語ります。

そこで大切にしたいことはQOL=生活・人生の質を考えること。QOLは人それぞれで違う、多元的で主観的な概念。自分のQOLと他人のQOLが違うことを念頭に置き、その人にとっての生活・人生の質を尊重していくことが重要です。


意思決定での看護師の役割

・患者・家族の情報ニーズや気がかりを把握し、医師や他の医療スタッフに伝える「代弁者」としての役割
・患者・家族に対し「情緒的サポート」を提供する役割
・患者・家族に対する「情報提供者」としての役割
・患者・家族の揺れ動く思いに添い続ける役割
・最終的に患者が決定したことを支持する役割

ACPの話し合いが行われる際、看護師は緊張した場を和らげる配慮をすること、患者・家族の理解度や認識を確認しながら聞きたいことが聞けているか確認すること、患者・家族の意向を医師に代弁すること、情緒的なサポート、情報の補足や追加、多職種チームとの情報交換などを行っていきます。

意思決定支援や生活支援には看護師だけではなく多職種が関わってきますが、看護師は患者・家族の思い、考え方、これまでの人生などを具体的に患者に聴き、その人らしさを引き出していきます。患者が納得のいく意思決定ができるよう共に考え、寄り添うコミュニケーションをしていくことが看護師の大切な役割となります。


ACPにつながる認定看護師の役割

大森病院では、緩和ケア支援チームとしての活動としてがんなどの生命を脅かす病気に罹患した患者・家族の苦痛緩和のために活動をしており、
・さまざまな身体面・精神面・症状の緩和
・再発や転移による不安、悲しみのサポート
・家族へのケア
・治療についての意思決定支援
・療養先についての相談 などを行っています。

大森病院では院内の専門看護師・認定看護師が自身の専門性(がん看護、糖尿病看護、ストーマなど)を生かす部門として、2016年3月より「看護外来」を開始。その中の「がん看護外来」では、がん告知の場への同席・意思決定の支援、症状の変化に伴う不安・悲しみなどへの精神的サポート、治療における副作用のケア、がんとともに生きていく中での問題へのサポートなどを行っています。

また、「夜間電話がん相談」として、毎週水曜日の17~21時まで、院内のがん関連の認定看護師が、がんについての電話相談に対応しています。


事例紹介①

30代の女性・乳がん。乳房の全摘出後、乳房再建術・化学療法治療を経て、術後2年で再発。主治医より、再建した乳房の摘出、化学療法・放射線治療を勧められたが「絶対に再建した乳房を失いたくない」と、乳房を残した状態での治療を希望。治療から半年後、乳房の腫脹は増悪していき、摘出についても何度も提案されたが「命の問題だけど、胸は残したい」という本人の希望に添い、治療・症状緩和を継続。最期は実家に戻り、治療開始から1年後に家族に見守られて亡くなったそうです。

この事例で大切になってくるのは
・患者さんはバッドニュースが続きつらい選択を迫られている、ということを理解すること
・その悲しみやつらさに寄り添い患者さんと向き合うこと
・向き合う中で関係を作り、その人を理解してから患者さんの希望や思いを聴き、受け止め、これからのこと一緒に考えていくこと
だと清水さんは語っていました。

乳房を摘出することで治癒の可能性が高くなるとしても、本人がそれを望まない場合にどうするか、なぜその選択をするのか、それで本人は納得・満足しているのか、本人にとって最善の意思決定ができるようなかかわりが大切になっていきます。


事例紹介②

70代の男性・大腸がんステージⅣ。大腸がんの手術後、化学療法を受けていたが効果がなくなり、治療は中止となっていた。症状の進行により入院。以前よりACPが行われ、医師・家族とも話し合い「苦しくないように」「最期は家で死にたい」と話されていた。家族も自宅での看取りを希望しており、退院・在宅ケアに向けた準備を進めていた。そんな中、あと数日で退院というときに突然、「そんなに病院から追い出したいのか」「俺は不安なんだ。病院にいるほうがずっと安心なんだ」「病院にいたほうが痛みもないし、つらくないんだ」と
本人が思いを吐露。その後、本人・家族・病院スタッフで再度話し合い、最期まで病院で過ごされたそうです。

この事例で大切なことは、
・終末期を迎える前から、終末期の過ごし方など決めていたとしても、患者の気持ちはゆれ動くということ。そのゆれ動く思いを受け止めながら、患者の希望や意思決定を支えること
・看護師は患者のアドボケーター(代弁者)として、患者の終末期に寄り添うこと
だと清水さんは語っていました。


まとめ

「ACPは自分の人生を“自分らしく生きる”ため、“生ききる”ために大切な準備。しかし。人生の最終段階にある人の苦しみや悲しみは計り知れません。そうした思いに耳を傾け、逃げずにそばで寄り添うことが何よりも大切です」と語る清水さん。

そして患者がつらさと直面するとき、家族、医療者、介護者などその人を支える人たちもつらさを抱えます。そうしたつらさをみんなで共有し、何度も話し合うこと、その“プロセス”が大切なのではないでしょうか?

ゆれ動く人の側で、その人らしい生き方・意思決定を支えていく。患者や家族、関わる人の心に寄り添い、患者にとっての最善を常に考え続ける…。そんな清水さんの深い思いやりが伝わってくる講義でした。

清水先生、ありがとうございました。


今後の開催予定

今後の予定につきましては下記リンクよりご確認ください。
医療職・介護職・福祉職の方であればどなたでもご参加いただけます。お気軽にお越しください。


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