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なぜ血圧を下げる必要があるのか?高血圧と適切に向き合うための「家庭血圧」の測り方【#在宅医療研究会オンライン|11月度開催レポート】

毎月オンラインで開催している「在宅医療研究会オンライン」、11月度のレポートをお届けします。

講演:家庭血圧: 正しく測って、適切に使おう
演者:帝京大学医学部 衛生学公衆衛生学講座 准教授 浅山敬先生

65歳以上の高齢者が30%近くにのぼり、少子高齢化が進み高齢者が増え続けている日本。平均寿命が延びていく一方、健康寿命と平均寿命(何かしらの障害を持ちながら生活する期間)の差は年々広がっています。その病気や障害の最大の原因となるのが「高血圧」。今回の講義では、そんな「高血圧」とは何なのか、何のために血圧を下げるのか、家庭での測り方などについて、浅山先生より語っていただきました。

高血圧とは

高血圧とは「安静状態での血圧が、慢性的に正常値より高い・下がらない状態」のこと。高血圧になると血管に常に負担がかかるため、血管の内壁が傷ついたり、柔軟性がなくなって固くなったりして、動脈硬化を起こしやすくなります。

現在、外来や検診における測定での高血圧の基準は「収縮期血圧 140mmHg以上、かつ/または拡張期血圧 90mmHg以上」とされています。一方、家庭での血圧測定(朝、寝る前)の基準は「収縮期血圧135mmHg以上、かつ/または拡張期血圧85mmHg」となっています。外来よりも家庭での血圧が高いと予後が悪く、病気との関連性が高いといわれています。

高血圧の人口

日本の高血圧人口は推計で4300万人いるとされています。ざっくりいうと“大人の半数が高血圧”ということ。そのうち治療を受けているのは半数、つまり半数は未治療ということになります。そして、治療を受けている人の中でも「治療中・コントロール良好」という人はさらに約半数(1200万人)で全体の1/4に留まり、残りの半数は「治療中・コントロール不良」となっています。
それでも、「未治療・認知なし」が50%以上いるといわれていた一昔前に比べると高血圧は改善してきており、そうなった背景に家庭血圧(家で血圧測定ができるようになったこと)の普及があります。

高血圧の問題点/治療目標

高血圧の最大の問題は、自覚症状がないことです。通常、収縮期血圧が極めて高い状態(200mmHgを超える高値など)にならない限り、頭痛などの不調は起こりません。高血圧を治療して改善したあとに「あのときの不調は、高血圧によるものだったのか」と気づく方も中にはいるものの、多くの場合、自覚症状はほとんど現れません。高血圧の怖さは、合併症。気づかないからこそ進行していき、脳卒中、大動脈瘤、狭心症、心筋梗塞、心不全、腎不全、認知症などの合併症につながることです。そのため、高血圧の治療は「血圧の値を下げればよい」というものではなく、「合併症を起こさないこと」が重要な目標となります。

血圧の測定方法(それぞれの定義や特徴)

日本の臨床実地では、大きく分けて3つの血圧測定方法が使われています。

<診察室血圧>
・標準、確立された測定方法
・多くのエビデンスがある
・測定条件が不定(定まりにくい)
・測定回数が少なくなる(検診時のみ、受診時のみなど)
・白衣高血圧が起こる(※後述)
<家庭血圧>
・本人が家庭で自己測定した血圧のこと
・何度も測定ができ、日間変動の記録などができる
・自宅で落ち着いた環境で、測定条件を揃えやすく、偏りが入りにくい(再現性が高い)
<自由行動下血圧>
・ホルター心電図実施時など、24時間モニター時などに測定
・日内変動の記録・夜間血圧の測定などが可能
・測定に負担がかかり、結果判定までに時間がかかる

家庭血圧は、医療機関ではなく個人が“勝手に測る”値のため、以前は信頼性が低いのではないかといわれていた時期もありましたが、この10~20年ほどで「むしろ家庭血圧のほうがきちんと測れる」「信頼性が高い」といわれるようになり、家庭血圧の測定が普及してきました。

白衣高血圧

白衣高血圧(白衣現象、白衣効果)とは、医者・看護師など医療者の前、あるいは診察室などの特別な環境で通常より血圧が上がってしまう現象のことをいいます。それを回避するため、最近では医療者がいない場所で一人で測ってもらう方法も実施されていますが、それでも不慣れな環境で測定する影響は残るとされています。
白衣高血圧があっても、診察室外血圧(家庭血圧)が正常域であれば問題ないのではないかといわれています。ですが、診察室外血圧が低くても、そこには夜間血圧が高いのに見逃されている可能性や、何年も経って徐々に血圧が上昇している可能性もあります。白衣高血圧だから大丈夫と考えるのではなく、定期的な外来血圧・家庭血圧の測定を行うといった、注意深い経過観察が大切です。

仮面高血圧

一方、外来血圧ではなく家庭血圧の方が高い場合を仮面高血圧といいます。仮面高血圧になる因子には、早朝高血圧ではアルコール・喫煙・寒冷・起立性高血圧、昼間高血圧では精神的・身体的ストレス、夜間高血圧では心不全や腎不全などによる循環血液量の増加・自律神経障害・睡眠時無呼吸症候群・抑うつ状態などが挙げられます。
「仮面高血圧」は文字通り測らないと分からないために見逃されてしまいがちですが、循環器疾患リスクが2倍以上になるといわれており多くのリスクがあるため、家庭血圧の測定による早期の発見や対処が重要となります。

家庭血圧測定の方法・条件・評価(日本血圧学会 2014年ガイドライン)

<測定装置>
・上腕カフ/オシロメトリック法(※血圧の間接測定法の一種)

<測定環境>
・静かで適当な室温の環境
・原則として背もたれつきの椅子に脚を組まず、座って1~2分の安静後
・会話を交わさない環境
・測定前に喫煙・飲酒・カフェインの摂取は行わない
・カフ位置を心臓の高さに維持できる環境

<測定条件>
〇必須条件
1)朝(起床後)1時間以内
・排尿後(尿意が血圧を上げるため)
・朝の服薬前
・朝食前
・座位1~2分安静後

2)晩(就寝前)
・座位1~2分安静後

〇追加条件
・指示により、夕食前、晩の服薬前、入浴前、飲酒前などの条件下で測定。
 (その他適宜、自覚症状のあるとき、休日昼間・深夜睡眠時など)

朝の血圧測定の基本は、食事・内服、家事などの前、排尿の後、座位安静後に測定を行うこと。ヨーロッパの基準では座位5分安静後の測定を基準とするところもあるそうですが、現実的に難しいため、少なくとも1分(できれば2分)は安静にした後に測定することが推奨されています。また、夜は測定状況が変動しやすいため、測定したときの条件・状況をその都度記録しておくことが大切です。

家庭血圧測定で大事なこと

・測定した値はすべて記録する
・一機会に1回以上(ガイドライン上は2回以上)測定する
・長期間、継続的に測定を続ける

家庭血圧測定で起こりがちなことは「自分に都合のいい値だけを記録に残す」「1回の測定値が高いために2・3回目だけを記録する」など、患者自身が記録する内容を選別してしまうことです。適切に治療・血圧コントロールを行っていくためには、一機会に1回以上測定すること、すべての測定値を記録すること、できるだけ長期間測定し続けることが大切です。

家庭血圧の測り方(基本の確認)

<血圧計の操作>
・電源を押す(電池がないときは入れる。ボタンを押すとすぐ測定が始まる機種もある)
・ゴム管をつなぐ(つなぎ口を間違えないように注意、管が絡まらないようにする)

<測定時の留意点>
・原則として左手(利き腕の反対)に巻く(利き手でも構わないが、一度は左右差を確認する)
・指先~手首に力を入れないようにする(力が入ると値が不安定になるため)
・肘から手の甲までを机につけて力を抜くと良い(腕を宙に浮かせる必要はない)
・ゴム管は下向きにする(一般に、外来・聴診血圧計と上下が反対なので注意する)
・センサー部分を内側に、上腕動脈付近に合わせる
・肘が半分くらいは無理なく曲げられるように腕帯を巻く
・机と腕の間に、ゴム管や腕帯を挟まないように注意する
・1~2分の安静時間を取ったあとに測定する
・測定後は必ず記録する

<上腕式家庭血圧計:腕帯(カフ)装着のポイント>
・できれば半袖(薄手のシャツはOK)で巻く(※着衣による影響:自動血圧計では、薄地のセーターまでは許容範囲)
・ぴったり巻く(斜め巻きOK)
・正しいマーク位置を確認する
・肘は台の上に置く

血圧測定の精度は腕帯の巻き方に左右されます。多少条件に合わない巻き方をしていても測定は可能ですが、測定精度・信頼性が下がってくるため、正しい装着方法・測定方法に沿った測定を行うことが大切です。

不整脈と血圧測定

不整脈がある場合に、血圧測定値はどう変動するのかについて、日本血圧学会の高血圧治療ガイドライン2019にてまとめられています。

<聴診法>
期外収縮があると、収縮期血圧・拡張期血圧の聴診時に大きな読み取り誤差が生じる。
特に心房細動・高頻度の期外収縮では、正確な血圧測定は事実上不可能とされる。

<自動血圧計(オシロメトリック法)>
不整脈(心房細動、期外収縮)の影響を平均化して血圧を計算しているので、聴診法よりも平均的な値が得られる。ただし、徐脈性不整脈では、測定値は相対的に不正確となる。

不整脈がある場合、いずれの方法にしても、測定値は信頼が乏しく不安定になります。そのため「聴診法でも自動血圧計でも、3回以上繰り返し測定し、その平均値を用いる(しかない)」といわれています。

家庭血圧計の選び方(上腕、手首、指)

血圧計には、上腕用・手首用・指用があります。

<上腕用>
・標準的に推奨されるもの

<手首用>
・推奨されてはいないが、状況次第で使用されるもの

<指用>
・現在は使用を推奨されていない

基本的には、上腕用の血圧測定計の使用が推奨されます。上腕での測定は、測定条件を整えやすく、圧迫する動脈が1本(上腕動脈のみ)のため値が安定しやすくなります。
一方、手首用は、2本の動脈(橈骨動脈・尺骨動脈)があり動脈の完全圧迫が難しい・波形を捉えづらいこと、測定条件が維持しづらいことなどから推奨はされていませんが、状況次第(上腕が太く測りづらい人や寝たきり患者、緊急時の測定、旅行時の携帯用など)に推奨・適応されています。可能であれば、上腕用・手首用両方で測定を行い、測定値の差を確認したうえで使用する血圧計を選ぶことが望ましいとされます。
指用は、値が不安定となり信頼性が低いとされており、現在は血圧計メーカーでも使用を推奨していないそうです。

紹介:アームイン血圧計での測定方法

・素肌もしくは薄手の服で測定(上着や厚手のシャツは脱ぐか、まくっておく)
・腕を奥まで差し込む(奥に付く位置まで肘を出し、機械のくぼみに肘を乗せる)
・前腕や手首で測らないよう注意する
・腕帯の中心を心臓と同じ高さに合わせる
・腕の力を抜いて、手のひらは上向きにする
・背もたれにもたれてリラックスし、1~2分安静にする(前のめりなど、身体に無理な姿勢をとらない)
・足を組まずに両足を床につける
・測定中は身体を動かさず、会話をしない

検診会場などに設置されている「アームイン血圧計」。他の血圧計と同様に、姿勢によって値が変動するため、測定条件を整えて測ることが大切です。

日本高血圧学会が推奨する医用血圧計/家庭血圧計

医療機関においては、国内で正式に販売認証されている上腕式の医用電子血圧計が推奨されています。家庭血圧計は、上腕カフ式で、日本国内で正式に販売されているものの使用が推奨されます。

成人の血圧の分類(基準値)まとめ

<診察室血圧>
収縮期血圧 / 拡張期血圧
正常血圧    <120 かつ <80
正常高値血圧   120~129 かつ <80
高値血圧     130~139 かつ/または 80~89
I度高血圧    140~159 かつ/または 90~99
II度高血圧      160~179 かつ/または 100~109
III度高血圧    ≧180 かつ/または ≧110
<家庭血圧>
収縮期血圧 / 拡張期血圧
正常血圧    <115 かつ <75
正常高値血圧   115~124 かつ <75
高値血圧     125~134 かつ/または 75~84
I度高血圧       135~144 かつ/または 85~89
II度高血圧      145~159 かつ/または 90~99
III度高血圧    ≧160 かつ/または ≧100

診察室血圧に基づく高血圧は「収縮期血圧 140mmHg以上、かつ/または拡張期血圧 90mmHg以上」、家庭血圧に基づく高血圧は「収縮期血圧135mmHg以上、かつ/または拡張期血圧85mmHg」で、分類上診察室血圧と家庭血圧の高血圧基準にはそれぞれ5mmHgの差があります。高血圧に当てはまらなくても、高値血圧・正常高値血圧にも注意が必要です。正しく血圧を測り、高血圧を見逃さないことが大切です。

終わりに

高血圧には自覚症状がほとんどありませんが、将来の病気のリスクとなります。重篤な合併症を起こせば死に至ります。予防に努めること、高血圧になっても早期発見・治療により合併症を起こさないこと、合併症をできるだけ軽くできること、再発を起こさないことが重要となります。対象者にとっての予後を考えて、血圧に目を向けていくことが大切です。

Q&A

Q:高齢者にとって入浴可能な血圧のボーダーラインとは?
A:証拠・明確な基準がないのが現状。低い場合、110台などであれば問題ない。入浴の時間帯として多い夜は、一日の間でも血圧が高めとなる。血圧の値は長期的な影響によるものため、入浴する時点で普段の血圧よりよほど高くなければ問題ないのではないか。ただし、Ⅲ度高血圧(収縮期180以上、拡張期110以上)の場合はハイリスクとなるため避けることが望ましい。数値だけではなく、普段からの血圧・変化を見ていくことが大切。
Q:(上腕血圧計と手首血圧計での測定値の差の話より)手首のほうが上腕より、心臓から遠い分、測定値が高く出ると思っていた。
A:血圧は、心臓と同じ高さで測ると、全身どの部位で測っても同程度の値になる。血圧に影響するのは、心臓からの距離ではなく高さの問題。また、血管の流れにより血圧の変動があり、血管が細い部位では血圧が下がるために、手首の血圧は低く出る傾向がある。
Q:降圧剤を飲んでいた患者が、血圧が正常になり薬を飲まなくなる事例はどれくらいあるのか?
A:降圧剤を飲まなければならなくなるシチュエーションは千差万別。塩分や体重のコントロールを行うことで血圧が下がる患者はおり、内服不要となることはある。内服の中断は、医師や患者の状況により変わる。降圧薬は種類も多く、薬を組み合わせ、内服回数を徐々に減らすなどして減薬していく。内服をゼロにするかは、その人の予後の予測により判断する。完全に内服をやめられる人もいるが、事例として多くはない。内服が最初に始まる時点で、合併症のリスクが高いことを十分に患者に説明しておく必要がある。
Q:高血圧・肥満の患者への運動療法はイメージがしやすいが、高血圧・やせ型の場合の運動療法は、どの程度推奨されるのか?在宅で女性の患者では、外に出たがらない・訓練や歩行もあまりしない人もいるが、運動を促していっていいのか?
A:心機能や関節可動域を保つための運動は必要。肥満でも痩せている人でも、運動療法に関する考え方はそれほど変わらない(推奨される)。(外に出ない・運動をしない患者でも)家の中でできる運動の促しなどはすべき。運動療法を行ううえで、血圧管理は大事。降圧剤で血圧をしっかりコントロールしながら運動をやっていくことが望ましい。ただし、他の治療との兼ね合いで、降圧剤が飲めない・血圧を下げられない場合などは内容を要検討。
Q:高血圧と狭心症がある患者で、塩分制限をしていて血圧が100~90台まで下がった方がいる。その患者が訪問診療で「塩分より糖質制限を」と助言を受けていた。塩分制限と糖質制限、血圧の関係性はどうなのか?
A:糖質制限は減量につながり、体重が減ることで血圧も下がりやすい。5kg減量すると血圧が2~3mmHg下がったなどの事例もある。血圧コントロールに関しては、薬で下げる方法も体質改善で下げる方法もあるが、厳しい食事制限がかえって患者のQOLを下げてしまう場合には、薬でのコントロールを主にしたほうが良い場合もある。本人の生活や望みに合わせて様々なアプローチを行っていくことが大切。

浅山先生が講義の中で繰り返し伝えていたのは、高血圧の予防・治療の目的が「合併症の予防」であるということ。目の前の目標は血圧を下げることですが、その目的は合併症を起こさないこと(健康寿命やQOLを保つこと)にあります。「なぜ血圧を下げる必要があるのか?」その目的を理解し、それぞれに合った治療や生活を続けていけることが大切なのではないでしょうか。浅山先生、ありがとうございました。

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