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観察して(観て)、評価して(診て)、ケアをする(看る)口腔ケア【#在宅医療研究会レポート(2019/2/20②)】

2月度の在宅医療研究会が開催され、2つのテーマで講演が行われました。

■講演①
演題:「なぜ口腔ケアは必要なのか」
演者: 荏原病院 歯科口腔外科 医長 長谷川 士朗先生
 
■講演②
演題:「観て、診て、看て、口の中!」
演者:荏原病院 看護部 主任 歯科衛生士 北澤 浩美先生
 
※今回は講演2についてレポートさせて頂きます。

テーマは「観て、診て、看て、口の中!」

登壇して頂いたのは、東京都保健医療公社 荏原病院の看護部主任・歯科衛生士である北澤 浩美先生です。

歯垢(プラーク)は、食べかすではなく「細菌」の塊。実は針先で採取できるわずかな歯垢の中には、1000億個もの細菌が付着しています。その細菌の量は便に匹敵し、必ず誰にでも存在するものです。
そんな中、歯や口腔を守り支える優秀な天然の”マウスリンス”が「唾液」です。
 
私たちの唾液には、驚くほど多くの作用があります。
・会話や飲み込みをスムーズにする円滑作用
・食べ物を溶かし、味覚を促進する溶解作用
・細菌や食べかすを胃へ送る洗浄作用
・酵素による消化作用
・歯・粘膜を感染から守る保護作用
・pHの維持を維持し再石灰化する緩衝作用
・病原微生物に抵抗する抗菌作用
 
「唾液」は私たちの口腔内を守る、生きるうえで欠かせないものだということが分かります。
 
そして、口の動きに欠かせないのが「舌」
 
「唾液」「舌」がうまく働かないとどうなるのか?
講義の中ではそれを体験するための【実習】が行われました。
① 舌を動かさずに水を飲む
② 舌を動かさずにお菓子を食べる
③ 舌を動かさずに自分の名前を言う
これを実践してみると、水を飲み込めずにむせたり、食べものが思うように飲み込めなかったり、発音が非常に困難だということが分かります。食べたものを「噛む」→「(口の奥に)送り込む」「飲み込む」ために、言葉を発するために、舌の動きは必要不可欠。
 
ですが患者さんは、疾患や口腔内の乾燥・汚れの付着により、口が思うように動かせなくなってしまいます。口が乾燥していては「食べられない」「しゃべれない」「呼吸もままならない」という状況ができてしまいます。
 
そこで大きな役割を果たすのが「口腔ケア」
北澤先生の講義では<観て、診て、看て>のステップで口腔の観察・ケアの方法がわかりやすく紹介されました。

<① 観て>

口腔内を観察するときには「必ず明るくして見ること」が鉄則です。
口の中は暗くてよく見えない「ブラックホール」です。明るくして見ないと、見ているつもりでも見逃してしまう部分が出てしまいます。
照明で明るくするだけでなく「ペンライト」を使用して口腔内を観察しましょう。
 
講義の中では、特に注目すべき歯の状態・事例が紹介されていました。
・連結した歯(ブリッジ)→ダミーの歯やつながった歯と歯の間に汚れがたまりやすい。
・歯の根だけが残った歯(残根歯)→溶けた歯の周りには細菌が繁殖しやすく、歯周病・炎症を起こしやすい。「歯がない」と言われても根っこが残ってないか確認する必要がある。
・離れ小島の歯(孤立歯)→歯の周囲を360度磨く必要がある。
・鋭利な歯→舌や歯肉や粘膜を傷つける原因になる。
 
歯が少ないからこそ、残った歯の周りには汚れ・細菌が付着しやすく、弊害を起こしやすい状態です。だからこそ、まずは歯・口腔内がどんな状態にあるのかをきちんと観察する必要があります。

<② 診て>

口腔の状態を評価する指標として【O-HAT(オーハット)】があります。
講義の中で、実際の事例(口腔内の写真)を見ながらスコア採点をする実践シミュレーションが行われました。
 
O-HATは「口唇」「舌」「歯肉・粘膜」「唾液」「残存歯」「義歯」「口腔清掃」「歯痛」をそれぞれの項目ごとに0=健全、1=やや不良、2=病的でスコアをつけていくもの。
その場で評価するだけでなく、チーム内での連携や必要な人に連携してくための指標となります。口腔内の状態・スコアによって、歯科受診の必要性を評価をしていきます。

<③看て>

北澤先生の講義の中では、口腔ケアの基本の手順とともに「10の鉄則」が紹介されました。
 
・鉄則1
口腔ケアを始める前に、唇が渇いていたら必ずジェルなどで保湿してから開口を促す。
(乾燥したまま開口すると、口唇・口角の裂傷が起こる原因になる)

・鉄則2
保湿ジェルはよく伸ばしてから使う。
(ジェルがダマになり、誤嚥や口腔トラブル・不快感の原因となる)

・鉄則3
義歯が入っていれば、外した状態で観察する。

・鉄則4
ペンライトで口腔内をよく見て評価する。
(3・4で口腔内をしっかり観察・評価してから口腔ケアを行う)

・鉄則5
スポンジブラシは使用前に湿らせ、よく水分を切ってから使用する。
(乾燥したブラシが口腔内に当たると痛い。粘膜を傷つける原因となる)

・鉄則6
スポンジブラシは、必ず奥から手前に動かす。
(手前からでは、汚れが口の奥に入り飲み込む恐れがある)

・鉄則7
歯磨き粉は、うがいができない人には使用しない。
(歯磨き粉の泡が流れ込み誤嚥の原因となる)

・鉄則8
歯があれば歯ブラシを使用する。
(歯が少なくても、スポンジブラシのみで代用はしない)

・鉄則9
噛まれる危険性があるため、指は絶対に歯列(歯の間)にまたがせない。

・鉄則10
歯ブラシと吸引管は、水分をよく切って「先端を上に」向ける。
(湿った部分を下にすると先端が乾燥せず、細菌が繁殖しやすいため)
 
ブラッシングのポイントには
「歯ブラシを小刻みに動かす」「歯と歯ぐきの境目、歯と歯の間、歯の裏側などを見逃さずに磨く」「粘膜を傷つけないようやさしく磨く」といったことがあるそう。
 
そして、歯ブラシやジェルで汚れが浮き上がってきたらスポンジブラシを使い、口蓋・舌・頬粘膜・口腔前庭の清掃をしていきます。粘膜の汚れは、保湿剤でからめて取るのも効果的です。
 
ここで大事なのは、一度のケアですべてを取り切ろうとしないこと。
患者さんの口の状態、全身状態に負荷がかかるときは、数回に分けて少しずつキレイにしていくことも大切です。

荏原病院の【口腔・嚥下ケアチーム(O-CAT)】

北澤先生がつとめる荏原病院では、多職種連携の【口腔・嚥下ケアチーム(O-CAT)】が結成されています。
歯科医師・耳鼻咽喉科医師・認定看護師・歯科衛生士・管理栄養士・理学療法士などが、お互いの専門性を武器にしながら不得意分野をカバーし合い、平等な関係のチームとして編成されているそうです。
 
院内には歯科口腔外科専門外来があり、さらにその中には「歯科治療恐怖症外来」という印象的な診療科の名称も。ここでは「歯科治療に対する恐怖心が強い方」や「嘔吐反射が強い(吐くリスクが高い)方」「心身の障害で治療の協力が難しい方」などを対象に、鎮静法を用いた歯科診療などを行っているそうです。
 
しっかりと口の中を観察して(観て)、評価して(診て)、ケアをする(看る)
そして、一人の目やケアではなく、多職種で連携し患者さんひとりひとりにとって最良の口腔ケアを探っていくことが大切です。
 
終始明るく話す北澤先生のお話しから、口腔ケアへの熱い想い・患者さんを思うあたたかい思いやりが伝わってきました。
 
北澤先生、ありがとうございました。

(番外編)ホウカンTOKYOの保険制度委員会の取り組み

今回の在宅医療研究会では、お二人の講義後にホウカンTOKYOの「保険制度委員会の取り組み」について、ホウカンTOKYO上池台の岡本優子さんから説明がありました。

「病院から在宅へ」が推進される社会の現状の中で、以前は40代以上がほとんどだった訪問看護ステーションに若手看護師が増えてきています。そんな中、ホウカンTOKYOスタッフは20代~30代の若手が多くなっています。「病院と在宅の制度の違い」をスタッフが理解し、地域連携や多職種連携・お客様への案内をスムーズに行えるよう委員会が発足されました。
 
保険制度委員会の目的
・スタッフ全員が保険制度を理解した上での訪問看護・訪問リハビリの提供
・スタッフの自己研鑽の一環としての勉強機会の提供
・スタッフが地域や在宅に関わる多職種の方々と共通認識を持って一緒に働くための知識の担保
・医療保険や介護保険のみならず公費関連の知識を強化、スタッフが対応できる範囲を拡大
 
ホウカンTOKYOの強みのひとつは、IT環境に強いこと。社内で採用している「動画配信システム」と連動し、保険制度についても各々が動画などを通して各自のペースで学習できる環境を用意しています。また、新入社員研修の必須項目として制度学習を追加すること、制度に関する社内問い合わせ窓口を統一し役職や経験年数に合わせて理解を深めていくことを目指しています。
 
最後に岡本さんからは「保険制度のことはホウカンTOKYOに聞けば大丈夫!と言っていだけるようなステーションを目指していきます」と力強く語られました。よりよい在宅サービスを提供していくことを目指して、ホウカンTOKYOではスタッフへの学習機会・体制の強化を図り「理解度の向上」から多職種連携・サービスの向上に努めたいとのことでした。


●今後の開催予定

今後の予定につきましては下記リンクよりご確認ください。
医療職・介護職・福祉職の方であればどなたでもご参加いただけます。お気軽にお越しください。


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