一人暮らし半年目、ついにヤツを仕留める
時刻は20時前。
いつものように在宅勤務を終え、だらだらとYouTubeを見漁っていた折、ヤツと遭遇したのだった。
視界の隅を素早く駆け抜けていく、楕円形のシルエット。
「い る」
誰に報告するわけでもないのに、はっきりと声に出していた。
Gがいるのだ。
ぱっと見5cmくらいはあっただろうか。これまでの人生で見かけたヤツのなかでも、大きい方であることは明らかだ。
私が退治しないかぎり、ヤツは我が物顔でこの部屋を駆け回り続ける。
必ず仕留めなければならない。モタモタしてはいられない。
一人暮らし3日目に買っておいた殺虫スプレーを握りしめ(3日目の私グッジョブ)椅子から立ち上がる。
そこからは、考える前に体が動いていた、としかいいようがない。
腰を落とした体勢で、一度本棚の裏に隠れたヤツを待ち伏せる。出てきたタイミングを見計らい、至近距離でスプレーを浴びせかける。
今度は「やる!」という言葉が口をついて出る。
さっきから2文字しか喋れていない。
脳のリソースがヤツを仕留めることに割かれてしまい、まともな言語を操れなくなっている。
「おら」
シューー
「おら」
シューー
怒りに満ちた私の掛け声とスプレーの音だけが部屋を支配する。
幸いスプレーはヤツの体に直撃した。
先ほどまで棚の周りを駆けずり回っていたヤツは、その場でじたばたと藻掻くばかりになった。追撃だとばかりに間近でスプレーを噴射する。
ヤツは徐々に動きを弱めていき、ぴくぴくと時折身じろぐだけになり、ついには完全にひっくり返った状態で静止した。
「やっ、た………」
死骸から後ずさりながら、私は肩で息をしていた。
スプレー缶を握りしめたままの右手はわずかに震えていた。
震えが少し治まってから、母にLINEをした。
「やりました」
「Gを仕留めました」
数分後、母からは
「頼もしくなって」
と返信があった。
その後ちりとりを使って死骸を回収し、アパート敷地内のごみ捨て場へと持っていった(24時間ごみ出しOKの物件でよかった…)。
人生で初めてのひとりG退治だった。
日頃から虫対策をしていたのに遭遇してしまったのは残念でならないが、今はG退治できた自分を存分に褒めたい。
ハエや蛾で大騒ぎしていた実家暮らし時代に比べれば、確実に進歩しているのだから。
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