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見えない広告が見えた!PARTⅠ 悪魔のささやき サブリミナル広告とは?

   

戦慄!! サブリミの恐怖

「キャー!(女性のかすかな悲鳴)」

あなたの隣に這い寄る企業広告

この世界では、われわれ消費者が気がつかないところで「サブリミナル効果」を悪用した広告宣伝、というものが広く行われていて、われわれは企業と広告代理店に思うがままに操られ、まるで催眠術をかけられたように商品やサービスに金を払いまくっている……という説がある。
「信じられない」「まさか、そんなことがっ!」
と驚く人は意外と少なく、
「聞いたことあるけど」「それがどうかした?」
というのが普通の反応だろうか。

サブリミナル効果というのは、意識されないくらいの小さな視覚聴覚の刺激でも、人間は潜在意識でそれを知覚している現象のこと。
これを使えば、人々に気づかれないうちに、ある印象を植え付けたり、メッセージをすり込むことができるかもしれない。
そんな便利なものがあるなら、ぜひ試してみたいと考える企業の宣伝担当がいてもおかしくはない。
元お笑い芸人、関暁夫せきあきお出演の人気特番『やりすぎ都市伝説』や、ベストセラーとなった『Mr.都市伝説・関暁夫の都市伝説』シリーズで、実際にサブリミナル効果を利用したと思われる広告の具体例が紹介され、知った人もいるだろう。

サブリミナル効果を用いた広告宣伝が、わが国で最初に注目されたのは、80年代の終わりから90年代はじめにかけてだった。
サブリミナル広告の様々な手法を暴き出したウィルソン・ブライアン・キイの一連の著作『メディア・セックス』『メディア・レイプ』『潜在意識の誘惑』(いずれもリブロポート刊)が翻訳、出版されたことがきっかけとなり、その真偽、是非をめぐってマスコミや論壇でずいぶん話題になっていた。

サブリミナル広告のやり方は、絵や文字や写真、音声、映像などを駆使して無数にあると言ってもいい。
映像に1コマだけ購入させたい商品の写真を紛れ込ませるとか、
ウィスキーの広告でグラスの中の氷にドクロ男性器がそれとなく描かれていたり、
クラッカーの表面の模様もよくよく見ると「SEX」と書かれていたり、
あるロックバンドのメンバーが死んだ、という噂を流し、その後発売したレコードのラストで
私はポールを埋葬した」と低い声でかすかにつぶやいてみたり……
(この曲、郷愁を感じさせるいいメロディーだと思っていたが、改めて聴いてみると不気味である。ミュージックビデオも見てみたが、映像のラストで暗闇の向こうへ並んで去っていく四人の後ろ姿と、暗闇によく映える死に装束を思わせる真っ白いズボンをはいたポールが何かを蹴ろうとして2回もコケるシーンが映っていた。これも演出だとすれば完璧すぎる)

サブリミナル広告に「」と「」が頻出するのは、週刊誌の見出しと同じ理由なのだろう。
本当に宣伝効果があるのかどうかは別として、よくもまあ、こんな手を思いつくなあ、と感心してしまう。

私も当時、日本の雑誌の広告などでもサブリミナルが仕掛けられていないか、気になって探してみたことがある。
例えば、ある月刊誌で見つけた清涼飲料水の広告ページの写真。
ペットボトルから飛び散った水しぶきが何となく怪しかった。
じっと見ていると「男性器」のように見えなくもないが、先の尖っているものなら何でもそう見えないこともないので、はっきりとは言えない。
何冊か雑誌をめくって調べてみたが「これは間違いなくやってる!」という広告は発見できなかった。

ただ一点だけ、書店のレジ袋に買った本と一緒に放り込まれていた結婚相談所チラシは明らかに怪しかった。
そこには、結婚の素晴らしさを表現したロマンチックなコピーと、その会社のマッチングシステムの説明のほかに、テーブルを挟んで向かい合うおしゃれな男と女のイラストが描かれていた。

よく見ると――
女性の両腕が「」の字に曲がっている。
テーブルの脚の隙間が「」になっている。
男性の組んだ足が「」だ。
思い違いかもしれないので、友人に見せるとやはり「SEX」の文字が見えるという。
結婚=SEX
露骨なサブリミナルである。
(手元に現物がないので、もしかしてイラストの男性と女性は逆の位置だったかもしれないが、男性が「S」で女性が「X」だったとしてもSEXはSEXそうあれは間違いなくS・E・Xだった)

ちなみに、チラシの会社は30年後の現在、業界最大手にまで成長している。
(社の現在のロゴマークもよく見ると
ZXe」→「SXe」→「SEX」になっている。
この企業が結婚の本番いや本質をSEXだと理解していることは疑う余地もない。性交見ずして結婚と言うなかれ、ということだろうか)

結局、自分で見つけることができたのはこれだけだが、各社ばれない範囲でいろいろやっているのではなかろうか、とは想像できた。

衝 撃 映 像!!

「そして誰も見なくなった」

(CM)―本編①―(CMまたぎ)―本編①+②―(またCMまたぎ)―本編②+次週予告―(またまたCMまたぎ)―次週予告+次の番組の番宣―(CM)     (…これはひどい)(…CMの多さに衝撃!)(…こんなCMだらけのテレビ、誰が見てるんだ?)(あ、おれでした…)

かつて催眠術がミステリー小説やサスペンス映画に頻繁に登場した時代があった。
サブリミナル効果も新奇なアイデアとしてフィクションの世界でよく使われるようになった。
世界的な超人気ドラマ『刑事コロンボ』シリーズの一作、心理学者が殺人のトリックにサブリミナル効果を用いる「意識の下の映像」(1973)が特に有名だ。当時、NHKで放映され、これを見て「サブリミナル」という言葉を知った人も多かっただろう。
SFドラマ『マックス・ヘッドルーム』(1987)では、情報を超圧縮したテレビCMに視聴者の神経が耐え切れず、人体が爆発するシーンがショッキングだった。
エイリアンがサブリミナル広告で地球人を洗脳、誰にも気づかれないまま支配していたのは、B級SF映画の傑作、ジョン・カーペンター監督の『ゼイリブ』(1988)。

日本でも、宮部みやべみゆきのミステリー小説『魔術はささやく』(1989)ほか作中にサブリミナル効果が登場する作品がけっこうあった。
中でも相原あいはらコージ、竹熊健太郎たけくまけんたろうのマンガ『サルでも描けるまんが教室』(通称:サルまん。「ビッグコミックスピリッツ」連載は1989~1991)で、読者の人気を得る作画上のテクニックとして(もちろんギャグとして)サブリミナルを扱っていたのは秀逸だった。

こうしてサブリミナル効果は、多くの作品のネタに使われたため、催眠術と同じようにあっという間に飽きられてしまった感がある。
現実の世界で注目されたのも、95年のオウム真理教事件の報道の中でサブリミナルと疑われる映像が流れて多少騒がれたのが最後だろうか。

そもそもサブリミナル効果は、人の知覚の現象としては存在しても、それを利用した広告宣伝が有効かどうかは怪しいものとされていた。
サブリミナル効果が有名になる元となった実験が、実験者の証言でヤラセだったと早くに判明していたからだ。
(映画館で上映中に「コーラ飲め」「ポップコーン食え」と書いたスライドを見えない速さで二重写しにするとそれらの売り上げが何十パーセントか上がったとするもの。実験は1957年にされたことになっていたが、1962年に嘘だったと告白)

それでも、人の心を操る技術という点が非常に魅力的なため、前述の番組や書籍の中で一種の都市伝説として生き残り、新たな信奉者を生み出し続けているのだろう。

現在、学問の世界でもサブリミナル効果を使った広告宣伝については、まったく意味がないことはないのだろうが、よくわからない部分も多いので鋭意研究中、ということになっているようだ。

では、仕掛ける側は、どう考えているのだろうか。

視聴者が通常、感知し得ない方法によって、なんらかのメッセージの伝達を意図する手法(いわゆるサブリミナル的表現手法)は、公正とはいえず、放送に適さない。

日本民間放送連盟 [放送基準 8章 表現上の配慮(59)]

昨今でもテレビ番組の内容とは直接関係のない人物や商品が一瞬だけ画面に映り込んで、それを見つけた人が
「サブリミナルだ!」とテレビ局にクレームを入れたり、
BPO(放送倫理・番組向上機構)にご注進して軽く問題になることがある。
視聴者に発見されるレベルのものは本当に偶然映ったか、単なるミスか、気まぐれなクリエイターのお遊びに違いない。
もし本気でやるとすれば、まさにサブリミナル的に簡単には覚られないような高度な技術で粛々とやっているはずだから。

しかし、もはやそんな話でもないのかもしれない。
数あるサブスクのどれに金を払おうか悩んでいる、現代の賢明な消費者にとって、サブリミなんかにいちいち騙されている暇はないのだ。
機器の発達でテレビはCMスキップ、CMカットが当たり前。発行部数の減少で新聞、雑誌など紙媒体の広告も、風前の灯火である。
サブリミナルがその効果を最大限に発揮できる、放送や印刷物で同じ情報を同時に大量にばらまく時代が終わり、広告宣伝の主戦場はネットの世界へ移っている。
AIが勝手に収集した情報から、その人の属性や趣味、嗜好を分析、最適化した広告を、ピンポイントにダイレクトに発信するものへと進化しつつある。
(AIが勝手にサブリミナル的な手法を学んで、その人に最適化した「男性器」や「SEX」を送り届けていないか一物の、いや一抹の不安はある)

広告が今、狙っているのはわれわれの潜在意識ではない。
ただの意識だ。
われわれはターゲティング広告ステルスマーケティングに日常的にさらされている。
見えているのにわからない、見える広告にこそ気をつけなければならない。
(つづく)



特報

次回予告

「見えない広告が見えた!PARTⅡ」

ステマの達人・I島Hロシ


これからお話しするのは、ある大物ベテランアナウンサーについてである。
この人物は、底抜けに明るく人柄もよく、涙もろい人情家だが、実は政財界、特に医療分野に深い人脈を持つ、かなりのやり手だ。
日本有数の人気を誇るMCであり、長寿ラジオ番組のパーソナリティーであり、バラエティーに富んだ講演活動で日本中を飛び回る一方、中堅芸能プロダクションの会長をも務めている……(2023年6月配信予定)



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