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中南米旅日記 1989 その①

30年あまり前になりますが、南米のパラグアイという国でボランティアをしていたとき、中南米の諸国を旅した思い出を残していました。
少しリメイクして、イラストとともに綴っていけたらと思います。

おもしろい出来事
*メキシコの「スーパー」マン*


メキシコ人の話すスペイン語はとてもわかりやすくて、省略形がなく発音も正確です。少なくともパラグアイよりはわかりやすい標準的な発音です。

さてメキシコ仕込みのスペイン語の先生にも教わりましたが、「サルー!」の習慣は、日本とは大きく違うスペイン語圏の特徴と思います。
「乾杯!」も「サルー!」ですが、それとは違います。
「ハックション!!」というくしゃみ鼻水、鼻詰まりに「かかったかな?」と思ったら「サルーッ!」の一言が飛んできます。
全く見ず知らずの通りすがりの人にでも、誰にでも、自分の周りのくしゃみの聞こえる範囲内の人にならすべて、「サルー!(健康に気をつけて)」と言ってあげる習慣なのです。
私も地下鉄で、エレベーターで、レストランで、公園で、全然知らない通りすがりの人に何回となく言われました。
そして返す言葉は「グラシアス。(ありがとう)」なのです。

ある日、街の大きなスーパーで・・・。
2、3点の品物を手にして私はレジに並びました。
私の前には男の人が一人順番を待っていました。
レジ台に座る(海外ではよく座ってレジ打ちをしています。)男性店員はどうやら新前の様子。
横に立つベテラン女性の指導を受け、ゆっくりと値段を打ち込んでいます。
待っている人は、そのトロさにイライラしています。
順調に値段が打ち込まれている様子を見て、ベテラン女性はその場を離れていきました。
ベテランさんが去ってすぐ、新前君は早くも問題にぶつかり、横にある備え付けブザーでベテランさんを呼びます。
彼女が来るまでの間、新前君は悔しそうに首をうなだれ、可哀想なくらい。
一方、私の前で順番を待つおじさんはイライラMAX。
ベテラン女性が来ると問題はあっという間に解決し、お一人様清算終了。
「やっとか」という表情の私の前の男性は、品物を新米君に差し出します。新前君はおどおどと品物の値段を打ち込み始めました。
おっと、またしても失敗か?
悔しそうな表情で再びブザーを押す新前君。
お客のおじさんは「またなのか?!」という顔で、わざとらしい大きなため息。
私はかつて自分がアルバイトでのレジ経験をした時を思い返していました。
新米君の悔しさがわからなくもなく、イライラよりも同情が先に立ってしまいます。
それにしてもよく間違える新前君です。そそっかしいのか物覚えが悪いのか、こちらまで手に力が入ります。
駆け付けたベテランさんの指導には、素直にうなずきながらキーを打つものの、彼の手はおどおどしていて、今にも失敗しそうなのです。
前傾姿勢になってレジ台を凝視するその目は真剣そのもので気の毒なほどでした。

そんなとき、私は突然のくしゃみにおそわれました。「ハックションっ!!」
すると、お客のおじさんでもなくベテランさんでもない、トロくさい新前君がレジ台に目をくぎ付けにして前傾姿勢のまま、真剣な顔つきで表情一つ変えずに「サルー!」
「・・・・・。」私は、「グラシアス」も忘れて、あっけにとられていました。
彼は歯をくいしばってレジに向かっていました。手は震え、人差し指一本打法で真剣に値段を打ち込み続けます。
しかし、やがて私の番がやっとめぐってきたその時も、やはり新前君はしっかり値段を間違えて悔しがりながらブザーを押すのでした。
「サルー!」はいつどんなときにでも、メキシコ人の大切な挨拶なのです。
たとえ緊張と苦境に立たされたその瞬間であっても。

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