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平和ボケな日本へ。ナイーブなスイスも、コロナウイルスで現実に直面しています。


平和ボケな日本へ、

春の日差しも日ごとに暖かくなりつつあります。今ごろ桜が満開であろう日本はお元気でしょうか?

わたしは今、チューリッヒ都市部の自宅キッチンでこの手紙を書いています。スイスの春は、晴れたと思えばすぐ雨模様になって、1時間後にはまた太陽が姿を現すような気まぐれ野郎なんだけど、今年の春はどうやらスイス国民の味方についているみたいで、今のところ2週間半続いての晴天です。穏やかな陽の光が差し込むわたしたちのキッチンテーブルでは、普段会社で働く夫が険しい顔で、オフィスから持ち出したバカでかいPCスクリーンで仕事をしているよ。


このことを伝えたかどうか覚えてないけど、もう一度書くね。重複していたらごめんなさい。

実は2月25日に、スイスで初めてのコロナウイルス症例が出たの。感染者は、イタリアに隣接する南スイスの州・ティチーノ州に住む70歳の男性。彼は2月15日、ミラノ近郊のイベントに参加したみたいで、スイスに帰国後、呼吸器系の症状が出たことから自宅待機していたそうなんだけど、24日に医療機関を受診したら陽性だと判明したんだって。彼はその後どうなったかわからないけど、「ティチーノ州の医療機関内で隔離措置の上、治療を受け容態は比較的安定」と報道されていたよ。

そこからじわじわと、でも勢いが収まることなく感染者数は増えていて、4月2日時点では累計18,267人の感染者数が確認されているの。毎日1,000人前後の感染者が追加で確認されていて、残念ながらこのコロナウイルスの勢力は収束している状況ではないみたい。もちろん、懸命な治療の甲斐があって完治した患者はたくさんいるけど、同時点で死亡者数は432人と報告されています。人口約840万人と小さな国ながら、日本武道館が収容できる観客数よりも多い国民がこの病原体に犯されてしまったと思うと、もう他人事には感じられなくなってしまったよ。


アルプス山脈に囲まれ、緑豊かで安全な国だからか、スイスはかなりナイーブな一面があるけど、いざというときはズンズンと動き出すんだ。このようなコロナウイルスのパンデミックのようにね。

スイス政府は2月末、1000人以上のイベントの禁止措置を発表したし、3月16日には会見を開いて、「4月19日まで、全国の飲食店やバー、ショップ、映画館や美術館を含めた各娯楽施設、美容院やサロンの閉店」命令を出したの。ようは、スーパーなどの食料店、医療機関、銀行、郵便局、ガソリンスタンド以外の施設は開けてはならないという規則だね。国民も不要な外出は避けるよう求められていて、5人以上での外出は禁止、2m以上の距離を保たなければいけないんだ。街には蛍光イエローのベストを着たパトロール隊が巡回しているし、逆らうと約1万円の罰金だって。

だから夫とわたしは、自宅で仕事をしているの。
彼の家族や友人たち、同僚、わたしの友人たちもみんな、ルールに従って自宅で仕事しながら待機している事態です。
      


3月17日から始まったロックダウンと自宅待機は、夫と24時間一緒に過ごせるというちょっとしたハネムーン気分がある反面、自分の日常的な行動に制限がかけられている異様な感触があるのが正直なところ。

たとえばスーパーへの買い出し。
今までは「腐らせたくないから」という理由で、その日使う食材だけをスーパーで買っていたけど、今では可能な限りスーパーに行く回数を減らすようにしているよ。自宅待機命令が出た直後は、悪事態に怯えた国民は買い溜めに走ったせいで、日持ちするパスタや缶詰、小麦粉、パンを焼くための酵母菌は連日品切れ。その分、お米とか中華麺は売れ残っていたから、日本人のわたしとしてはラッキーだったけど。「やっぱりスイス人はパスタが好きなんだな」って国民の食事メニューを垣間見た気がして、思わずふっと笑っちゃった。そうそう、トイレットペーパーは特に品切れが続いて、3週間以上たった今ではようやく補充されるようになったけど、近所のスーパーでは「一人1パックまで」と張り紙が貼られているよ。買い占めた人たちったら……トイレットペーパーを使い切っちゃって、本当にお尻を拭かなければならない人たちはどうしたんだろう……。

スーパーの入口には2m間隔でテープが床に貼られていて、さらには消毒してくれるスタッフが1名立っているの。消毒を済ますとカードを渡されるんだけど、これは店内に何人のお客さんがいるのかをカウントするためなんだって。

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最近では、食材や商品を直接手で触らないようビニール袋が設置されるようになって、使い終わったものはその場で捨てるようになったんだ。無駄なゴミやプラスチックを作り出さない「 Zero Waste (ゼロ・ウェイスト)」生活をしているわたしにとっては心痛いけど……こればかりは仕方ないよね。

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郵便局も、券売機の使用はずいぶん前から中止しているし、商品も全部撤去されていて、DIY感満載のパーテーションでなんとか対応しているよ。

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通常だったらこの時期はウィンタースポーツシーズンの佳境で、週末はチューリッヒの人たちは郊外に出かけているはずなの。街内に残っている人たちはブランチ文化もあって、カフェやレストランに出かけてはどこも満席だったけど、今は自家製ブランチを自宅で嗜むしかしかなさそうだね。もう3週間以上中心街に行っていないから様子はわからないが、きっと閑散としたゴーストタウンのようになっていると思う。

スイスは日本に負けないくらい平和ボケだけど、そんなのほほんとした国でさえ、今現実に直面しています。やっぱり、神経質になっているスイス人は多いよ。


こないだスーパーに行ったら、ある老婦がスタッフに必要以上の手消毒を求めていて、スタッフと口論になっているの目撃しちゃった。スタッフはそのあと、後ろに立っていたわたしに愚痴をこぼしたのーー「今こうやってスーパーで買い物ができるだけでも、ハッピーだと思わないといけないのに、そこまで文句を言わなくても……」ってね。本当は労いに肩をさすってあげたかったけど、それさえできないのが心もとないや。

インスタグラム上でも、外で日向ぼっこをしているカップルや、身体を動かしている人たちの様子を室内から撮影して、「この時になんで外に出ているの? ありえない!」というキャプション付きの写真・動画がわりと多く投稿されていて、拡散されているのを見かけたし。お互い支え合わなければならないのに、どうして後ろ指を差すようなことをするのかね……心が蝕まれる気がして、インスタグラムのアプリをスマートフォン上から消去しちゃった。


仕事に影響が出ている人たちも、やっぱりいるよ。
フリーランス・イラストレーターの友人は、カフェや飲食店のクライアントが多い関係で仕事が激減しちゃったみたい。デザイン会社に務める違う友人は、このご時世だから会社の経営が右肩下がりで、人件費削減でクビになっちゃったし。日本の三越に値する百貨店Jelmoli(イェルモーリ)でマネージャーを務める親友も、もちろん約1ヶ月間仕事なし。人と触れ合うために生まれてきたような人で、心から楽しんで勤めていたから、こないだテレビ電話をしたら「早く復帰したくて仕方がない」と嘆いていた。


ロックダウン3週目が終わりそうな今日。日々に変わり映えがなくて、この生活が退屈で仕方がない。スイス国民もそろそろこの毎日に飽き飽きしているんじゃないかな。

ここはやっぱり能天気さが滲み出ちゃうのか、ただ単にじっとしていられないからなのか、わたしの近所は平日夕方とか週末にもなると、近隣住人たちがうじゃうじゃ出歩いているよ。村のお祭りが開催されているのかっていうくらいにね。

それに、普段ランニングしていなさそうな人たちもランニングしている姿をよく見かけるようになった。アディダスのスタン・スミスを履いている者、ニットを着ている者、何ならジーパン履いちゃっている者もいるから、普段からランニングしていないのだろうなってよくわかる。「いやいや、ここは自宅待機って言われているんだからそうしようよ?」と思う反面、やっぱり新鮮な空気と太陽光、健康のためにも身体を動かさないといけないから、許されている活動範囲でベストを尽くしているのも、ナイーブながら真面目で勤勉なスイス人らしい感じです。わたしは、いつもお世話になっているヨガの先生とGoogle Meetで週2日、練習に励んでいるので精一杯だけど……。



この生活があと3週間も続くと思うと、少々気が重くなっちゃうけど、スイスにいる人々は同じような気持ちで、また自由な生活を待ちわびています。今自分ができることは自宅待機だし、ひとりひとりの努力によって日常に戻れるとなれば、退屈ながら頑張ろうと思えるよ。


書き忘れていた、わたしは元気です。
夫も、彼の家族も友人も今のところ、みんな元気にお家の中で暮らしています。


平和ボケな日本も、大変な現実に直面していることだと思います。心身ともにめげそうなことではあるけど、ここは外出を避けて、ひとりひとりを支え合ってくださいね。

1日でも早く、気軽に日本へ帰国できる日が来るといいな。


アリサ

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