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蕎麦とIHと私

蕎麦打ちが趣味の隣人がいる。

時々、打ち立ての蕎麦をくださる。


蕎麦好きの私としては、この上なく嬉しい。


ただ、知らなかった。

手打ちの蕎麦を茹でるにはコツが必要だという事を。


隣人から初めて蕎麦をいただいた時にスーパーで買う乾麺や茹で麺などと同じ要領で茹でたら、ブチブチと切れ、ザルにあげてしばらくすると蕎麦どうしがくっついて団子のようになってしまった。


私はこの現象を、隣人の蕎麦打ちが未熟だからだと思った。


団子のようになった蕎麦を、それならとくるくると丸め、すいとんにして食べた。


蕎麦すいとんは小さい塊でもずっしりと中身がつまっていて、一粒で満腹になる忍者飯のようだった。


隣人は一〜ニヶ月に一度ほどの頻度で蕎麦をくださる。

打ち立ての蕎麦をいただいては忍者飯を作る、というルーティンが続いた。


蕎麦すいとんを一度に食べきれず、冷凍庫に着々と蕎麦団子を積み上げていたある日、やっと私は気がついた。


「打ち立ての蕎麦の茹で方は、スーパーの蕎麦の茹で方とは少し違うのかもしれない」


スマホで調べてみたら、やはりそうだった。


手打ちの蕎麦はちぎれやすい為、グラグラに煮立てたたっぷりの湯で少量ずつ麺をそっと踊らせるように短時間茹で、流水で何度か洗ってからザルにあげ食すと書いてあった。


今まで私は自宅のIHの非力な熱量で生ぬるい湯に大量の蕎麦を一度にぶち込んでいた。


おのれの雑さが原因だったのに、隣人の蕎麦打ちの腕を軽んじていた私はなんて馬鹿だったのだろう!


ごめんー、ごめんね、隣人。


蕎麦をすいとんにしていた事は隣人に言ってなかったので、心の中でこっそり土下座しただけで次に進む。


ネットに書いてある通りにやってみた。


非力なマイIHコンロで辛抱強く湯を沸かす。

途中で眠くなるほど時間がかかったが、

初めて蕎麦の形状を保ち茹で上げることが出来た。


私は小躍りして喜んだ。


茹でたての蕎麦はとても美味で、ペロリと一人前の蕎麦が胃袋に吸い込まれていった。


残りは4束。

隣人はいつも5束ずつくれるのだ。


打ち立ての蕎麦は冷蔵庫で三日ともたない。

以前ぼんやりとしまっておいて三日目にツーンとした臭いにしてしまってからは、用心している。

さっさと茹でるか冷凍するかどちらかを選ばなくてはならないのだ。


私はもう一束を再び長い時間をかけて茹でた。


今度は茹で上げたものをザルにあげたあと、タッパーに入れて冷蔵庫で保存し、翌日食べることにした。


残りは3束。


疲れてきたので考えるのは翌日にして、寝ることにした。


「なんとか美味しく食べきりたいものだ…」


ウトウトした私の脳裏に、だいぶ前に居酒屋で食べた蕎麦のパリパリ揚げが浮かんだ。


これだ、と私は思った。


翌日、残りの蕎麦を油で揚げてみた。


思ったとおりに美味しく出来上がった!


こんもりとしたパリパリ揚げのでかい山が三つほど出来た。


揚げながらつまみ食いしていたら少量で満足してしまい余ってしまったが、油で揚げたんだから日持ちはするだろう。


今パリパリ揚げは我が家で一番でかいジップロックにパンパンに収まり、台所の片隅に鎮座している。


明日は適当にあんを作り、あんかけかた焼きそばにして食べよう。


昔隣人が蕎麦打ちを趣味にしていると聞いた時には蕎麦のおすそ分けを夢見ていたのに、いざそうなってみると手打ち蕎麦を美味しく食すハードルの高さに驚くばかりである。


しょぼいIHで手打ち蕎麦をなんとかする旅はきっとまだまだ続くのである。


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