![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141087392/rectangle_large_type_2_b4b8ffa156d79c4b0d8907787638014b.png?width=1200)
ひとひらの願い
ひとひらの願い
文 umi no oto
絵 hoho
🌸毎年訪れる桜の花が咲く頃は
まるで人の一生をみているよう
生と死は廻ることを想う。。。
ひとひらのしだれ桜の花びらと
少女の小さなお話。
桜のつぼみがほころびはじめ
今年もまた春がやって来ました。
春の訪れに人たちの心もほころんで
「やっと春が来たね。」
「きれいに咲きはじめたね。」
桜の道を行く人たちの声が聞こえます。
そして立ちどまってそれぞれの思いで
桜の木を見上げるのです。
その桜の道のおわりにある
丘をのぼったところに
大きな一本のしだれ桜の木が
立っています。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141087457/picture_pc_25df3733ef87d761ed78a58061c5b0bc.png?width=1200)
毎年丘の上のしだれ桜の花が
咲きはじめると
一人の少女が毎日毎日
そのしだれ桜の木を見上げにやってきます。
それはまるで逢いたい人に
会いに来たかのように
しばらくそこで時を過ごすのです。
その少女は生まれつきの重い病気で
ほかの子どもたちと同じように
思いっきり駆けまわったり
遊んだりすることが出来ません。
もしかしたら大人になるまで
生きていられるかどうかもわかりません。
少女は昨年の春が終わるころから
今年の春が来るまでにあったことを
春の訪れとともにしだれ桜の木に
話をするのをとても心待ちにしているのです。
少女は毎日毎日一年分の話を
少しずつしだれ桜に話します。
しだれ桜は少女の話を聞くのがとても楽しみで
春の風に枝をそよがせながら話に合わせて
心地よくハミングします。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141087477/picture_pc_81e7447ab3d7d347045961d82c85a091.png?width=1200)
少女が一年の中で
一番幸せな季節です。
時は過ぎてゆきしだれ桜の花が散りはじめると
しだいに少女の元気がなくなってきました。
「もうすぐお別れ・・・。さみしくなるわ。
まだまだ話したいことは
たくさんあるのに。」
少女が丘をおりて
ふもとの川のほとりに置いてある
自転車に乗ろうとした時
川を流れるひとひらのしだれ桜の花びらに
気がつきました。
その川は少し遠くの海につながっています。
少女はひとひらのしだれ桜の花びらに
言いました。
「私これから大急ぎで海へ行くから
きっとそこで待っていて。
そこでゆっくりお別れがしたいの。
お願い。」
そう言うと少女は海へ向かいました。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141087495/picture_pc_0d45cee4a59ea5a9f6e742c6d592874d.png?width=1200)
こわれそうな心臓をバクバクさせながら
一生懸命に自転車をこぎました。
海に着くと浜辺には
たくさんの海藻が打ち上げられていました。
でもしだれ桜の花びらは見つかりません。
少女が「会えなかった・・・。」と
大きくため息をついたとき
波が海藻をそっとなでました。
その中からひとひらのしだれ桜の
花びらが・・・
少し疲れたようでしたが
にっこり微笑んでいました。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141087502/picture_pc_3a1d6f2836cf62793dfa03d46a18929e.png?width=1200)
少女はうれしくてうれしくて
ひとひらのしだれ桜の花びらを
そっと手のひらにのせました。
「また会えてうれしい。私の願いを
叶えてくれて本当にありがとう。
今度は私があなたの願いを
叶えてあげたいわ。」
少女がそう言うと
ひとひらのしだれ桜の花びらは言いました。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141087514/picture_pc_f33b6bb208f1e5cdecdea6dc8b248a98.png?width=1200)
「もしも願いが叶うなら
波の音にのせた月の子守り歌を
聞きながら眠りたい。」
少女は
「わかったわ。一緒に夜が来るのを
待ちましょう。」
そう言うと
少女とひとひらのしだれ桜の花びらは
海をながめながら夜が来るのを待ちました。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141087581/picture_pc_6b53c3d2b5b3d60c9a5448a0c6b99ca2.png?width=1200)
イメージ写真
「輝く道」ひらさん
やがて辺りが暗くなってきました。
今夜は空気が澄んでいて
三日月がとてもきれいに輝いています。
夜の海に月のゆりかごがゆらゆらと
浮かびます。
月は波の音にのせて優しく歌いはじめます。
少女はその月のゆりかごに
そっとひとひらのしだれ桜の花びらを
浮かべました。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141087611/picture_pc_03a268b20ee5eabaed99b1f4cb80d710.png?width=1200)
「願いを叶えてくれて本当にうれしい。
ありがとう。」
ひとひらのしだれ桜の花びらはそう言うと
月のゆりかごにゆられながら静かに眠ります。
波の音にのせた月の子守り歌が
夜の浜辺に響き渡ります。
「これで本当にお別れ。さようなら。」
すると・・・
夜空に輝く月が言いました。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141087625/picture_pc_4d76dbbc2edbb1680138a60b4ff98b03.png?width=1200)
「あなたの一生の一巡りのなかで
桜の花の季節は
何度巡ってくるのでしょう。」
少女は言いました。
「そうだわ。ひとひらのしだれ桜の花びらが
つながって出来た首飾りが
私の生きていた時間。
きっと長い長い首飾りが出来るわ。
だってまだまだ話したいことが
たくさんたくさんあるもの。
逢えて本当にうれしかった。
来年もきっとここで逢いましょう。」
「さようなら。またね。」
また来る年の春の訪れと
桜の木を見上げるあなたの笑顔を
心待ちにして・・・。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141087655/picture_pc_a723fd498c127258e52c0801454219d8.png?width=1200)
おわり
この物語は
以前umi no otoさんが作られたものです。
その物語に私の絵を乗せることを
選んでくださいました。
umi no otoさん
素敵な物語に
私の絵を選んでくださり
ありがとうございました。
そして、初めに私のnoteで公開することを
快く許してくださり感謝しています。
otoさんの優しい物語に
絵を思い浮かべるひとときは
とても幸せな時間でした。
otoさんの想いが
より多くの方に届きますように🍀
otoさんの想いの詰まったページです。
こちらもぜひご覧ください。
2023年9月12日、umi no otoさんこと森本紫文さんは、たくさんの大切な宝物を私たちに残して永眠されました。
安らかに休まれますよう
心よりお祈りいたします。
noteでの、かけがえのないこの出逢いに
感謝しております。
*
そしてもうお一人、
noteで素晴らしい写真を投稿されている
ひらさん。
以前公開された夕暮れの海の写真「輝く道」を見て
心を掴まれ、ひらさんにお願いをして
夜を待つ少女の海シーンの
モデルにさせていただきました。
ひらさん
本当にありがとうございました。
これからも心を動かされる素晴らしい作品を
楽しみにしております🌸
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?