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ここに映画があるから7 『タクシー運転手 約束は海を越えて』

※ネタバレあり。
2024年12月。不意に韓国で戒厳令が発令されて、一夜のうちに取り消された。狐につままれたようだった。韓国で「戒厳令」と聞いただけで、1980年の光州事件が思い起こされる。

日本人のわたしでも、それを知るようになったのは、2017年製作のこの韓国映画のおかげだ。

作中では、ソン・ガンホ演じるソウルのタクシー運転手マンソプが、10万ウォンという大金を目当てに、ドイツ人記者ピーターを乗せて検問をかいくぐり戒厳令下の光州に潜入する。

このタクシー運転手・マンソプの人物造形が見事なのだ。彼は幼い娘がいるシングルファーザーで家賃を払えないほど貧しいが、大金に釣られてよくわからないまま光州に行くことになる。

普段の彼は、学生のデモをみかけると「学生はそんなことしてないで、大学に行って勉強しろ!」といい、「この国はいい国だよ」と政府を肯定する。名もなき庶民の代表のような人物である。現金でずる賢くもあり、義侠心に富む感激屋でもある。

そんな彼が戒厳令下の光州で目にするのは、報道(テレビや新聞)で知るのとは真逆の、市民に対する軍部の暴力と弾圧である。その事実を全世界に発信するため撮影記録を持ち帰るというピーターとマンソプは行動を共にし、カメラを没収しようとする軍部とカーチェイスまでしながらソウルへと戻る。(あのカーチェイスはもちろん事実ではないだろう)

映画を観ているわたしたちは、マンソプという愛すべき人物に寄り添ううちに、その視点に立って光州事件をみることになる。マンソプが知るようにわたしたちも、光州事件の真相を発見し、共闘する気持ちになる。

実際、このタクシー運転手キム・サボク(映画の中ではマンソプと名乗っている)は実在したが、人物像はかなり異なる。映画制作時には、キム・サボクの行方がわからなかったからだ。そこに映画の自由が生まれ、マンソプという人間味あふれる人物が登場した。

感情移入できる人物像を通じて、韓国の近代史を歴史の高みから見下ろすのではなく、身をかがめ弾を避ける市民の目線で受け取ることができた。

2024年12月の「戒厳令」という事態に、多くの韓国市民が立ち上がってデモに詰めかけるのは当然だろう、その怒りは、なかなか収まらないに違いない。

韓国では、他にも同じくソン・ガンホ主演の
『弁護人』
『1987年、ある闘いの真実』
『ソウルの春』など、
独裁政治から、ソウルの春を経て、民主化を求める民衆蜂起の弾圧(光州事件)に至る歴史がエンタメ性も備えて映画化されて、大ヒットしているし、海外でも上映されている。

そこで描かれているのは、民主化を希求して弾圧され続けてきた歴史である。

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