見出し画像

Facebookは、なぜロングテールのSMBをメインターゲットにせざるを得ないのか。

最近TwitterやFacebookの決算発表を受けて、SNSの老舗であるFacebookのビジネス戦略について、少し考えて見ましたので、ここにブログ化します。

コロナの影響により一部の広告主から広告出向が減ったり、米国ではGeorge Floyd氏が亡くなったことに端を発する社会問題によりナショナルブランドのSNS広告のボイコットが起きるなど、広告ビジネスを主な収入源としているSNSに影響が及んでおります。しかし、面白いことにTwitterは第2四半期の売上が前年同期比で20%減だった反面、Facebookについては、11%増と伸び率は鈍化したかもしれませんが、Twitterほどの影響を受けていない状況です。

なぜFacebookが大きな影響を受けていないかというと、絶え間ないFacebookのSmall to Medium Business(SMB)へのフォーカスが主な要因として挙げられます。実に広告事業一つとっても、Facebookで広告出稿を行っている広告主はかなりロングテールで、その数は800万もいます。また、プロダクトやサービスの観点からもこのSMBの顧客をしっかりサポートする体制を築いているところから、SMBへの執念が感じ取れます。

このブログでは、なぜFacebookがそうせざるを得ないのかを少し紹介をしていけたらと思います。

① 広告収入の安定化の観点

Facebookの売上の源泉はSMB

Facebookの売上の内訳を見ると、なんと98.3%が広告収入に頼っており、その広告収入には、季節性に加えて、広告予算自体がそもそも変動しやすい事のが事実ですから、Facebookのみならず、広告でマネタイズをしているビジネスは、最大限安定化する必要があります。その中で、多くの広告収入を一部の大手広告主に依存してしまうのは、そもそも広告主の広告予算の不安定性の観点からも、事業を継続して上で、大きな不透明性を抱えてしまうわけです。また、特に大手の広告主の広告予算の多くの部分が、テレビコマーシャルに配分されている現状もありますので、なおさら広告主の裾野を広げ、デジタルシフトが起きているSMB層を巻き込むのはとても重要な戦略だったと思います。実際、ある調査によると、SMBにおいては、ソーシャルやオンラインの広告出稿がその他チャンネルを圧倒的に上回っており、Facebookにとっては、収益の安定性の観点から、見逃せないセグメントのはずです。

画像1

実際に、Facebookの売上の中で、大手広告主が占める広告収入を見てみると、トップ100の広告主から2019年1年間の収入は、約64億ドル程度と、全体の697億ドルと比べて、10%にも満たないのが現実です。その反面、Deutsche Bankの調査によると、76%売上がFacebook Adsを使って広告を投稿しているSMBから来ているとのことです。

広告主のボイコットによる売上への影響

Floyd氏の死を起点に、SNS上のヘイトスピーチや誤報などの懸念から、Disney、Unilever、Starbucks、Ford、Verizonなどをはじめとする、ナショナルブランドから、SNS広告出稿のボイコットが起き、Facebook上の広告も止める運びになりましたが、ボイコットに参加したナショナルブランド8社からなる一か月の売上寄与分は、57百万ドルに過ぎず、Facebookの売上高の規模からすると大きなインパクトとは言えないと思います。実際、Mark Zuckerberg本人から、社員向けに発したコメントからも、ボイコットによる影響を微々たるものだというのが良く分かります。「微々たる収益に対する脅威のために、会社のポリシーやアプローチを変更するつもりはありません」と彼自身述べています。

コロナによる広告売上への影響

また、コロナ禍において一部の広告主からの出稿が減ったことで、CPMが下る傾向にありましたが、下がったCPMがかえってチャンスとなった広告主も存在しており、出稿量を増やすことになりました。結果、CPMの急激な低下を防ぐことができ、これもまた多くの広告主が存在するエコシステムを作って初めて可能になります。例えば、Facebookなしでは存在し得ないD2C企業などは、今回を機にユニリーバのような大規模なコングロマリットから顧客を奪うため、低CPMを最大限利用して広告出稿を増やす動きをすると思われます。実際、EC関連アプリのCPAはコロナ禍において著しく低下していました。媒体のCPMが低下し、相対的にCPAが低下したクライアントからすれば、出稿量を増やせば増やすほど安価なCPAで顧客獲得が行えたのです。オークション全般で有利になったのは全オーディエンスが対象となりやすいエンタメ系のクライアント(電子書籍/ゲーム系)も同様で、出稿を増やしたのではないかと思います。このような観点からも、SMBというロングテールの広告主を多く持つことは、Facebookにはとても重要だったと思います。

画像8

画像9

Facebook AdsとFANはSMBにとってメリット

広告出稿用に使えるツールである、Facebook Adsの機能の使いやすさや、Facebook Audience Networkなどを提供して自社に留まらない拡張配信の機会を提供することで、SMBのカスタマーエクスペリエンス向上に取り組んできているところからも同社のSMB領域への思いがよく伝わってきます。

②「アグリゲーター VS プラットフォーム」の観点

アグリゲーターとプラットフォーム

FacebookがSMBに執着しているもう一つの理由は、同社も現在のアグリゲーターとしてのポジション から脱却し、App StoreやAndroidのようなプラットフォームになろうとしているところにあると思います。決済とコマースの領域において積極的に機能・サービス展開をしているのが、このプラットフォームへの変革を図っている証拠と思います。

ここで、少しアグリゲーターとプラットフォームの違いを少し話しておきたいと思います。人それぞれこの二つに関する定義が異なりますし、文脈によっても定義が異なってきますので、あくまでもこのNoteの中での分け方として認識いただければと思います。

まず、プラットフォームですが、エコシステムが構築される基盤のことで、プラットフォームの最も代表的で古くから存在する例は、Windowsだと思います。 Windowsは、PC用のオペレーティングシステム、開発者向けのAPIセット、エンドユーザー向けのユーザーインターフェイスを提供し、3つのグループすべてにメリットをもたらしました。開発者は、Windowsプラットフォームのおかげで、エンドユーザーにとって役立つアプリケーションを開発することができましたし、ユーザーはそれを使うことで便益を得ました。スマホ時代になっては、App StoreやGoogle Playなどが登場し、アプリの開発から、決済機能まで一つのプラットフォームで提供するというビジネスを展開することに至りました。ただ、この便利さと引き換えに、これらプラットフォームは、各プラットフォームにかかわるステークホルダーをプラットフォームの中に閉じ込めてしまうことで収益の最大を図ります。開発者がユーザーにリーチしたい場合は別のオペレーティングシステム用のアプリケーションを作成できませんし、人気のあるアプリケーションを使用したい場合、ユーザーは別のプラットフォームを選択することができなくなります。Amazonや楽天もある意味同じような仕組みを利用していると言えます。

画像4

一方で、アグリゲーターは、ユーザーを大量に収集し、ユーザーへのアクセスを活用してサプライヤーから収益を引き出すという事業展開をしております。Facebookはその代表例で例であり、前述のプラットフォームとは異なりFacebookは、今までエンドユーザーやコンテンツプロバイダー・パブリッシャーに不可欠な存在ではありません。サードパーティのコンテンツを機能させる「Facebook API」みたいなものはなく、ユーザーがそのコンテンツに直接アクセスするための場所やリンクがあるのみです。決済やFacebook Shopsが存在しなかった過去には、単純に広告出稿による売上に依存するしかありませんでした。その結果、Facebookは長年プロットフォームからの規制リスク/手数料30%で、相対的に不利なゲームを強いられて来ました。そのためFacebookはプラットフォームのポジションを手に入れたいと考えているに間違いありません。

画像5

前述したプラットフォーム化していくというFacebookの戦略で大前提になるものが、SMBの参加です。Facebook Shopsのようなeコマースの領域では、参加者多いエコシステムを作り、取引の数と金額を増やすということも重要ですが、取り扱い商品種類数(SKU)の拡大も重要になるため、例えばNIKEやAdidasだけが出店しても、すべてのユーザーニーズに応えることができません。中高校生向けにはミズノといった国産ブランドの方が刺さったりというケースもあるので、SKUを増やすことには大きな価値があります。そうなると、SMBからの出店を増やし、SKUのカバレッジが広がった方が、プラットフォームとしてはより価値が大きくなっていきます。また、こうした事業者がより多く参加することで「ベゾスの紙ナプキン」に知られるような価格競争が発生し、ユーザーはよりリーズナブルな価格で商品を購入できるため消費者の需要が高まり、諸費者の需要が高まることでまた出店者が増加する、、という循環構造を作ることができます。

Facebook ShopsとFacebook Pay

では、SMBを参加させるためにFacebookはどのような機能を提供しているのでしょうか。Facebookが広告以外に注力しているのは、Facebook ShopsとFacebook Payがあります。Facebook Shopsは、FacebookやInstagramから出店できるECショップのことで、いわゆるShopifyのようなECサイトの出店に特化したサービスになります。実際、最大手のShopifyとも提携し、ShopifyのストアをそのままFacebook Shopsに出店できる連携機能も存在しています。決済の領域でもFacebook Payをリリースし、Facebook内店舗での決済やゲーム、イベントチケットでの支払いに対応していたりと、FacebookでECサイトを出店すれば、店舗側でEC出店準備にかかる負担がほぼないレベルの機能を充実させています。

画像7

画像6

これらの事業は前述した広告事業ともシナジーがあり、FacebookやInstagram、WhatsApp内広告から店舗への送客はもちろん、Instagramでのライブコマースや店舗Facebookコミュニティの形成、既存顧客やカート落ちユーザーへのリテンションといったマーケ施策への連携が可能なため、Facebookに出店するだけで顧客獲得~購買/決済のような一気通貫したサポートを受けることができます。

事例ーD2CのValue Chain

このように、FacebookはSMBを少しずつ、でも着実に同社の「プラットフォーム」に巻き込んでいると思います。D2CのValue Chainを例にどのようにプラットフォーム化が進んでいるかを、下記の通りBefore/Afterで示してみました。決済や販売のみならず、どのような商品を作れば売れるのか、どのようなユーザーニーズがあるかなど、R&Dの機能までFacebook上で把握できるになってきています。

画像2

画像3

とあるアナリストの概算によると、Facebookは世界のeコマース(中国を除く)の約50%に対応できるというデータが出てきています。仮に、Facebook Shopsを本格的に普及させeコマースの市場規模に対して0.5%~5%のシェア率をとり、110億ドル~1,050憶ドルのGMVを創出した場合、それに5%ほどの売上手数料をかけたとすると、5億ドル~53億ドルの売上を作り出すポテンシャルがあるとのことです。
これはあくまでShopsだけの話で、相性の良い決済機能のマージン獲得に成功すれば、さらに大きな収益源を作り出すことができます。

最後に

Facebookは、SMBを徹底的に巻き込みながら事業を展開していくことで、このように不景気でも影響を受けにくいビジネスの確立、そして単なるメディアからプラットフォームへの進化を成し遂げてきました。もちろんナショナルブランドを獲得することで、大きな売り上げの成長を短期で狙うというのも、事業の成長の仕方だと思います。しかし、今回のFacebookの事例は、SMBなどのロングテールを幅広く取り込むエコシステムを作ることが、事業の安定化や強硬なエコシステム作りにどれほど重要な役割をはたしているか、再確認させてくれた良い事例と思います。


*Special thanks to...

本Noteは、YJキャピタルで、メディア部門スペシャリストとして、投資活動を旺盛に行っている、山下純平キャピタリストのサポートをいただいて完成したNoteでございます。ヤフーの広告部門での経験もあり、メディア領域での深いインサイトを持っていますので、起業家や投資家の方はいつでも彼にもご相談いただければと思います。https://twitter.com/JP_YJC


他にいろいろ書いています:




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?