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GAFAM決算に学ぶ「最新のITトレンド」:2つの共通点

米国のテックジャイアント「GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)」5社の決算発表(2021年4~6月期、発表は7月下旬)が先日ありました。

今期のGAFAMの平均成長率は40%であり、これはNASDAQ 100というIndexに含まれる米国の高成長企業の売上年間平均成長率の12%(2003年から計測)を大幅に上回っています。GAFAMの決算発表から各事業の数字の持つ意味を読み解けば、世界の「ITトレンド」が見えるといっても過言ではありません。

今回の決算発表では、2つの大きなトレンドが見えました。

1つ目は、「Eコマースの急進」とその周辺領域への波及効果です。Eコマースの巨人Amazonに限らず、Googleの業績にも影響が見られます。

2つ目は、グローバルに進む「DX化」とその領域の具体化です。今やBtoBには欠かせない存在となったMicrosoftの決算を見ると、まだグローバルにはクラウド化の余地が大きく残されていることがよくわかります。

まずは、各社の財務状況を以下の通り表に簡単にまとめてみました。参考にしながら、本noteをお読みいただければと思います。

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今期(2021年4~6月期)の特徴は、全般的にデジタル広告から多くの収益を得ている、GoogleとFacebookの成長が目立ちます。これは昨年コロナの影響で抑えられていた広告主の予算が大きく復活していることが寄与していると考えられます。 

またAmazonが他社よりマージンが比較的に低くなっておりますが、ビジネスモデルが他社とは異なり物流関連費用や販売している商品の原価がコストに含まれることに起因します。

では、GAFAM各社の決算発表の内容を一緒に詳しく見ていきましょう。

Google:小売りのオンラインシフトの推進により“爆速”成長

Googleの広告売上高は504億4,000万ドル(約5兆5500億円)で、前年度と比較して69%の増加となりました。これは、広告支出が最も速いペースで増加している市場状況の表れだと思います。 Twitterも広告の売上高が74%増加しましているとのことですので、市場全体がかなり加熱してきていると言えます。

その中で、特に注目しておきたいのが、リテール(小売)部門です。決算発表時に言及がありましたが、今四半期で最大となった広告セクターで、その成長に圧倒的に貢献したのはリテールです。

コロナの影響により、Eコマースの購入や食品のオンライン注文が加速しました。さらに、広告主ではないブランドを「ショッピング・タブ」に掲載することにより、掲載件数が増加することでタブの“情報価値”が高まりました。それが売上に貢献したことが背景にあるそうです。

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(米国EC化率の推移)

コンサルティング会社のMcKinsey & Co.が行った最近の調査によると、消費者の7割近くが、「店舗での受け取り」を目的としたオンラインショッピングを継続する意向を示しています。こうしたリサーチからも、コロナ状況下により消費者がオンラインへ移行していることが伺えます。

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(コロナ禍で、利用率が増加したサービスのタイプ)

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(コロナによる消費者の買物習慣の変化に関する企業予想)

Googleの動画事業であるYouTubeの収益は、昨年比83%増の70億ドル(約7,700億円程度)超となり、動画サブスクリプションの最大手「Netflix」の四半期収益73.4億ドル(約8,060億円程度)に迫る勢いです。動画における広告モデルのポテンシャルの大きさを感じます。

特に、急成長している短編動画サービス「TikTok」に対抗した「YouTubeショート」は、サービス開始直後の2021年3月に65億回再生されて垂直立ち上げに成功しました。その後も伸び続け、決算発表があった4か月後の7月には150億回以上再生されていることが明かされています。

Amazon: Eコマースの流通は落ち着きを見せるが、クラウド事業の収益化が加速する

Amazonの売上高は、前年同期比27%増の1,130億8,000万ドル(約12.4兆円)となりました。前年度の同時期、2020年第2四半期の41%増と比較すると、大きく減速しています。この減速について、Amazonは「コロナの真っ只中だった前年度に急成長の後に、少し需要が落ち着いているところに起因する」と発表しています。

特にEコマース(物販)事業は、売上の3分の2を占める成熟市場である北米(アメリカとカナダ)での成長率の減速が顕著です。同じくEコマースが主力の「楽天」の決算発表でも、日本国内のEコマース売上が減速しており(前四半期成長率27%から今四半期23%へ)、今後も成熟市場での成長率は少し落ち着きを見せるだろうと予測できます。

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(アマゾンの北米にける売上高と成長率)

今四半期のクラウド事業(AWS)の売上高成長率は、前四半期の32%から37%へと加速し、13億ドル(約1,430億円)増となりました。

これまでの主力だったIT企業やスタートアップの利用だけではなく、他のエンタープライズ企業のクラウドへの移行や、政府機関や教育・研究機関などの顧客層が大きく拡大したことにより、収益の伸びが加速したと報告されています。例えば、アメリカでは国家安全保障局と1兆円程度の契約を締結、日本でも去年から各省庁でのAWS導入が決まったというのが記憶に新しいところだと思います。

さらに、コロナの影響により、Eコマースやリモートワークなどのデジタルシフトが顕著となりました。また、オンラインゲームやビデオストリーミングなどの「エンターテインメント・プラットフォーム」をサポートするクラウドへの需要が加速し、クラウドサービス市場自体が大きく成長を見せました。

下記のグラフは、イギリスのある大学で781人を対象に行った「ゲームプレイの頻度」に関するサーベイです。結果を見るとコロナ前後で明らかにプレイ頻度が上昇していることが分かります。こうした調査からもコロナ状況下におけるゲームの高い需要が読み取れます。

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(ゲームプレイの頻度に関するサーベイ)

また、リサーチ会社のGartnerは、世界のパブリック・クラウドサービスに対する支出は、2019年の2,426億ドル(約26.6兆円)から2025年には6,921億ドル(約75.9兆円)に急増すると予想しています。年間平均成長率(CAGR)に換算すると16.1%となり、今後もAmazonのAWSをはじめとするパブリック・クラウドサービス市場は急拡大することになりそうです。

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(パブリッククラウドの市場規模に関する予想)

Facebook:広告事業への依存から脱却し、独自のウォールドガーデン構築によりユーザーの囲い込みを図る

Facebookの売上高は56%増の290億8,000万ドル(約3.2兆円程度)となりました。

Facebookは、他のGAFAM企業とは少し異なり、大部分の売上を広告事業に依存しています。今四半期も順調に成長しているように見えますが、そのほとんどが広告1件あたりの平均価格の上昇によるものであり、決算発表では「広告の総配信数は、さほど増加していない」と同社は述べています。

そして、2021年度の今後の成長も「主に広告価格の上昇によってもたらされる」と予想しています。

最大のリスクはAppleのiOSアップデートです。サードパーティ製アプリによるユーザーの行動追跡を、ユーザーが「拒否する設定」をすることが可能になりました。つまり、これまで広告単価を押し上げる一つの要因となっていた“広告ターゲティング”の取り組み自体が逆風にさらされることになっています。

実際に、同社は「今年の後半より、多くの人がiPhoneやiPadのiOSをアップデートするため、前四半期よりも広告事業が大きな影響を受ける可能性がある」と決算発表で述べています。

おそらく、こうした“広告ターゲティング”へ逆風を恐れ、Facebookは自社プラットフォーム内のユーザーの滞在時間や利用シーンを増やすべく、クリエイター向けのエコシステムを構築し、さらにEコマースを強化しています。

こうしたユーザーとのエンゲージメントを高めるための努力がさまざまな施策から垣間見ることができます。例えば、2021年7月に「FacebookやInstagramでコンテンツを作成するクリエイターへ報酬を提供するプログラムに対して、2022年までに10億ドル(約1,100億円)以上を投じる」と発表しました。

同じように、クリエイター自身がニュースレターを配信できるようにするプラットフォーム「Bulletin」を開始、さらに音声SNS「Clubhouse」に対抗して2021年6月に「ライブオーディオルーム」を米国からスタートしました。同サービスでは、発言者や参加者(リスナー)が主催者団体などに寄付したり、参加者が発言者に“投げ銭”を送ったりできる仕組みを導入しています。

ライバルとなるのは、同じく手厚いクリエイター支援を発表しているTikTokやYouTubeです。Facebookは自社のプラットフォームに優秀なクリエイターを囲い込み、エンターテイメント性を高める各施策によってユーザーを囲い込むことで、ライバルへ対抗することを試みています。

さらに、中長期的なゴールとして、モバイルインターネットの次世代プラットフォームとして、他の人々とコミュニケーションや経験の共有ができるオープンな仮想環境(VR)である「メタバース・プラットフォーム構想」を発表しました。こうしたことからも、Facebookは「大きな岐路に立たされているのではないか」と考えられます。

Apple:デバイスが成長ドライバーとなり、サブスクリプションビジネスが加速

今四半期のAppleの決算において、注目すべきはiPhoneを中心としたiOSデバイスの販売が拡大していることです。前年度と比較して、iPhoneの売上高は50%増の396億ドル(約4.3兆円)になりました。これは前年度の成長率36%と比べても飛躍的な成長だと思います。

決算発表において、Apple CEOのティム・クックは「この成功は、古いiPhoneをアップグレードする(買い換える)人だけでなく、Androidを使っていたユーザーが初めてiPhoneを購入したことによるものだ」と述べています。

さらに、iPhoneほどの成長を成し遂げられなかったものの、MacとiPadの購入者の3分の2が、その製品を初めて購入したというデータが明らかにされました。Apple Watchの場合、この割合は85%という高い数字になるそうです。

その背景としては、MacとiPadにおいて、Apple独自のM1チップ(CPU)が新しく採用されたことがあるのではないかと予想します。同チップにより、デバイスの性能が大きく向上し、ユーザーからも驚きをもって受け入れられました。

同じくApple Watchは、コロナ禍であらゆる活動がオンラインにシフトし、多くの消費者がスマートウォッチを使って健康やフィットネスをモニターしたいというニーズが登場したことが好影響を与えたのだと想像します。新たなニーズに対して、圧倒的なマーケットシェアを誇るApple Watch(55%マーケットシェア)が選ばれているのだと思います。

こうしたiOSデバイス販売の好調により広がるユーザーベースを背景に、コロナ禍によるエンターテイメントのデジタルシフトの影響が加わり、App Store経由のサブスクリプション有料会員数の成長が引き続き順調に推移しています。有料会員数は7億人に達したとのことです。前四半期比だけでも4,000万人が増加しており、前年同期が3,500万人だったことと比較しても、有料会員数の増加は加速中です。

Microsoft:オフィス業務のDXが加速し、Office製品を軸にしたアップセルが好調

今四半期のMicrosoft業績は、継続的なデジタル・トランスフォーメーション(DX)の恩恵を大きく受けています。Office Commercial製品及びクラウドサービスは前年同期比20%増となりました。

同社は、顧客がオンプレミス型からクラウド型のサービスに移行し続けていることを理由として上げており、Office 365の売上高はアカウント数の伸びと共に好調に推移しました。ユーザー1人当たりの売上高も増加しており、結果として成長率は前四半期22%に対して、今四半期は25%へと増加しました。ご存じの通り、Microsoftは近年ビジネスのSaaS化に大成功しており、売上成長を安定的に維持できるようになりました。

決算説明会で、同社の経営陣は「引き続きアップセルの機会があり、この傾向が続くだろう」と予想しております。実際、リサーチ会社のGartnerの推計によると、MicrosoftのOfficeスイートとOffice 365のクラウド型オフィスソフトウェアの市場シェアは87.5%と寡占の状況です。この既存顧客をベースに、同プロダクトのアップセル、その他プロダクトのクロスセルにより売上を拡大できることは、他社にはないMicrosoftが強みを有するところだと思います。

なお、マーケティングやCRM、カスタマー サポートなどのビジネスソリューションを提供するDynamicsというプロダクトラインも成長が加速しております。

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(マイクロソフトのプロダクト・サービスごとの売上成長率)

その他の事業では、デジタル広告市場の回復にともなって検索広告の収益が53%増加しました。また、LinkedIn事業の広告収益も46%の成長を示しました。好調の理由は、冒頭でも触れましたが、経済状況の改善と労働市場の回復にともない広告市場が改善していることにあると考えられます。

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(マイクロソフトのサーチ広告(Bing)の売上高の成長率推移)

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(マイクロソフトのLinkedInの売上高の成長率推移)

最後に

最後に“まとめ”です。Appleのサブスクリプションビジネス拡大やFacebookのウォールドガーデン化など、いくつか興味深いトレンドは存在していますが、GAFAM全体に大きく共通するトレンドは2つだと思います。

1つ目は、小売りオンラインシフトの躍進です。Amazonなどの垂直統合型のプラットフォームは少し落ち着きを見せるものの、Googleの業績が示すようにブランドや小売り業者が独自にデジタル広告を活用し、オンラインでの事業を積極的に展開しています。

その結果、AmazonのAWSやMicrosoftのAzureなどのクラウドサービス利用が拡大しました。米国のEC化率は2020年4~6月に16.1%にまで急増しており、日本でも2020年に8%超と急成長しました。2021年もさらなる増加が予想されており、まさにこのトレンドを象徴するかのように、各社の業績が進捗しています。

Amazonや楽天のようなEコマースのプラットフォームは着実な成長を見せていますが、一方でブランドや小売りが独自でEコマース化を進める新たなD2Cの流れが登場しています。例えば、日本でもBASEやStoresなどEコマース支援サービスの急成長が注目を集めております。

以上の状況を踏まえると、今後は「集客」「接客」「物流」「返品(リターン)」「マーケティング」「マーチャンダイジング」など、機能ごとにブランドや小売りのEC化を支援する具体的なアプリケーションが活躍していくのではないと思います。

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(経済産業省 国内物販EC化率調査)

2つ目は、グローバルに進む「DX化」とその領域の具体化です。全般的にクラウド化が進むなか、政府機関、教育・研究機関など比較的DXが遅れていた領域まで、DX化の大きな一歩とも言えるクラウド化が進んでいるようです。言い換えれば、IT化・DX化のための基盤が整えられているとも言えます。

前述の通り、コロナの影響により顧客や従業員の活動がオンラインに急激にシフトしていったことにより、Microsoftの事務関連ソフトウェアやビジネスソリューション(マーケティングツール、CRM、カスタマー サポートなど)の販売は躍進しました。今後は、これまで遅れていたセクターにもアプリケーションやソリューションの導入が進んでいくのではないかと個人的には予想しています。

以上、GAFAMの決算発表から見える「世界のITトレンド」を解説しました。まさに今、インターネット領域で何が起きているか、あらためて“コアなITトレンド”を実感することができたのではないでしょうか。

本noteを執筆した私(Hogil Doh:都 虎吉)は、これまで国内を代表するITカンパニーである楽天でM&A業務や企業投資を経験し、同じく世界市場で競争するZホールディングスに移りました。IT企業の立場からGAFAMの決算発表を分析することを通じて、より鮮明かつ具体的にITトレンドの最新情報の発信することができると信じ、このnoteを書いています。

Zホールディングスは、日本からGAFAMを超える企業へと成長することを目指しています。そして、そのVCの役割を担うZ Venture Capitalでは、日本のITエコシステムの発展とともに、“GAFAMを超える”という壮大な目標をいっしょに実現していくスタートアップや起業家を積極的に支援しています。

本分析が読者みなさんのお役に立ち、大きなITトレンドをうまく活用して、GAFAMと競争するスタートアップや企業がどんどん生まれることを祈ります!

<参照>
https://www.cnbc.com/2021/07/27/alphabet-googl-earnings-q2-2021.html
https://www.wsj.com/articles/google-alphabet-googl-2q-earnings-report-2021-11627344309
https://www.wsj.com/articles/pandemic-speeds-americans-embrace-of-digital-commerce-11605436200?mod=article_inline
https://www.thestreet.com/amazon/stock/amazon-stock-3-key-takeaways-from-q2-2021-earnings
https://www.cnbc.com/2021/07/29/amazon-amzn-earnings-q2-2021.html
https://www.cnbc.com/2021/07/29/aws-earnings-q2-2021.html
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/15554120211017036
https://www.business2community.com/cloud-computing/gartner-predicts-public-cloud-services-market-will-reach-397-4b-by-2022-02405076
https://variety.com/2021/digital/news/facebook-q2-2021-earnings-1235029271/
https://variety.com/2021/digital/news/facebook-instagram-1-billion-creators-1235019759/
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66109?page=2
https://www.cnbc.com/2021/07/27/apple-aapl-earnings-q3-2021.html
https://seekingalpha.com/article/4443008-apple-3-takeaways-from-earnings-call
https://www.fool.com/investing/2021/07/29/4-takeaways-from-apples-earnings-call/
https://techcrunch.com/2020/05/07/smartwatch-shipments-grew-during-the-first-quarter-of-2020-with-apple-watch-still-in-first-place/
https://www.cnbc.com/2021/07/27/microsoft-msft-earnings-q4-2021.html
https://www.stocksbnb.com/reports/microsoft-corp-4-key-takeaways-from-2q2021-earnings/
https://www.benzinga.com/analyst-ratings/analyst-color/21/07/22202793/microsoft-earnings-takeaways-highest-q4-growth-in-6-years-cloud-growth-whats-nexthttps://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/210730_new_hokokusho.pdf


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