[オリジナル記事]ヴィスコンティ後期最高傑作、フェンディによるデジタル完全修復版で2/11から全国順次上映

 ルキノ・ヴィスコンティ(1906-1976)監督の映画『家族の肖像』(1974)デジタル完全修復版が、11日から東京・岩波ホールをはじめとして全国各地で順次上映される。

 ヴィスコンティといえば20世紀イタリア映画を代表する巨匠のひとりとしてよく知られており、日本にも熱烈なファンが多数いる。前期~中期には当時の社会問題や働くひとびとの生命力を描き、中期~後期にはより閉鎖的な美の世界を追い求め、生涯を通じて容赦ないリアリズムと耽美的な退廃のあいだで緊張感ある映画を撮り続けた。なかでも今回上映される『家族の肖像』は、作品構成からも、彼自身のテーマの追究ぶりからも、後期の最高傑作というにふさわしく、巨匠晩年の深い省察があらわれている。

 今回上映されるデジタル完全修復版は、イタリア・ローマを拠点とするラグジュアリーブランドのフェンディ(FENDI)が2013年にミラノに新しい旗艦店をオープンする際に制作されたものだ。近年のフェンディは、文化関連の予算を縮小しつつある行政に代わって、とくにイタリアのアイコニックな芸術遺産を積極的に保護しており、実際にあの有名なトレヴィの噴水の修復などに資金を提供することにより、イタリア国内外から尊敬を集めている。この映画の修復プロジェクトでは、35mmの原版ネガフィルムを全面的に修復したうえでそこから高品位のデジタル映像への変換を施している。

 なぜフェンディは熱意をもって本作をデジタル時代によみがえらせようとしたのか。ファーやレザー製品で名高いこのブランドは、かつて本作の登場人物ブルモンティ侯爵夫人(シルヴァーナ・マンガーノ)のファー・コートを衣装デザイナーのピエロ・トージと共同制作したという縁がある。しかしそれ以上に、この映画の真価を認めているからでもあるだろう。

 あらすじは次のとおりだ。米国育ちの「教授」(バート・ランカスター)が、イタリア人の亡き母親から受け継いだローマの邸宅に引きこもって、18世紀英国で流行した家族の肖像画を中心とする美術品に囲まれながら、孤独に暮らしている。そこに間借り人たちが押し入ってくる。強引にものごとを進める美しい侯爵夫人と、生命力あふれる若者たちだ。「教授」はなすすべもなく侵入者たちのペースに巻き込まれながら、やがて彼らに対して嫌悪感ばかりでなく愛着をも感じるようになり、ついには自分自身が持てなかった家族との団らんを彼らとともに実現しようともするのだが――。

 もっぱら室内でのみ、わずか数人によって展開される会話劇。しかしそのなかには、1970年前後の、現実の変化に対応できない古いイタリアと、暴力的であるほどに過激な新しいイタリアのせめぎあいが集約されている。社会的事件はすべて室外で起きているが、それは室内でのできごとと無関係ではない。物語が進むにつれて、プライヴェートな会話や関係が、実は政治的な力の場でもあったことが暴露されていく。

 一見すると、ヴィスコンティ後期の特徴ともいえる豪華絢爛な美の世界に目を奪われがちだが、実は、本作はこの映画監督が初期から追求し続けてきた徹底的なリアリズムの産物である。実際、「教授」は同時代に生きた人物をモデルとしたと言われている。あたかも学生運動直後の政治の動乱に背を向けるかのように評論『家族の肖像画』(1972、未訳)を著した文学・美術評論家マリオ・プラーツ(1896-1982)だ。しかし何よりまして興味深いのは、当時の古きイタリア知識人を代表する男のもとに、後で、騒々しい間借り人たちが実際に訪れたという事実だ。「およそ似たようなできごとがあった。けれどもそれは映画公開の後、私の住んでいる建物で起きたのだ。映画は、ご覧いただければおわかりのように、私にそっくりな人物に対する敬愛に満ちており、間借り人についてはたぶん過剰に表現している。私の場合ではどんな間借り人だったか手短に言っておくなら、あるとき間借り人のなかでも最も悪い評判が知れ渡っている男から、私の著書にサインしてほしいと頼まれた。私はこう書いたのだ。『住処は近いが、思想は遠い××君に』」(プラーツ『生涯の住処』1979、未訳)

 まるで、細部に徹底的にこだわりながら現実そのものを追いかけているうちに、いつの間にか少しばかりその先を走ってしまっていたかのようだ。本作の真価といえるその最高度のリアリズムは、デジタル技術でどのようによみがえるのか。上映日が楽しみだ。

映画『家族の肖像』デジタル完全修復版 公式サイトhttp://www.zaziefilms.com/kazokunoshozo/

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