2024年 オタクの最新動向 ~女性の時代~

 今回はオタク界の最新の動向をお伝えします。前回の名古屋駅西のオタク街の調査を踏まえたものです。この記事を書いた直後に日経クロストレンドで最旬"推し"トレンドのマッピングが公開されてしまいました。記事には反映できませんでしたが合わせて参考にしてください。

〇女性オタクの動向
 駅西のオタクショップではメロンブックスを除く全ての店で女性オタク向けの商品が主力でした。こうした店の半分の商品が女性オタク向けとします。そして日経クロストレンドのマップでも示される通り、現在の少年漫画は男女両方が楽しみ、ゴールデンカムイや東京卍リベンジャーズのように女性ファンの方が多い場合も多々あります。すると、もはやオタクショップでは男性オタク:女性オタクの比率が約1:3ぐらいになってしまいます。体感的にもそうでした。よって、主要である女性向けの分野から動向を見ていきます。

 まず、女性向けのソシャゲでは以下のような作品が人気でした。5年以上人気が続いているタイトルも、新しく出てきたタイトルもあります。
・あんさんぶるスターズ!

・アイドリッシュセブン

・ツイステッドワンダーランド

・A3!

・ブラックスター -Theater Starless-

・悪魔執事と黒い猫

また、ゲームに限らない横断的なプロジェクトには以下のような物があります
・ヒプノシスマイク

・Paradox Live

・ツキノ芸能プロダクション(女性グループあり)

 前回の記事で紹介した。「超人的シェアハウスストーリー『カリスマ』」もメディアミックスプロジェクトの1つです。更には2024年現在、女性オタクの中では「歌い手」が大人気となっています。主なグループを紹介します。
  
・すとぷり

・いれいす

・シクフォニ(SIXFONIA)

・すたぽら

・Knight A (-騎士A-)

・浦島坂田船

 以上、女性オタクにはソシャゲ・メディアミックス企画・歌い手などが人気であり、かなり多岐に渡っている事がわかりました。他に、私はVTuber分野では"にじさんじ"はホロライブに水を開けられている気がしていたのですが、にじさんじの葛葉や叶のような男性ライバーは女性オタク層に相当人気がある事もわかりました。VTuberの歌はそこらへんの歌手より遥かに人気があるようです。私はこの間一人カラオケに行ったのですが、曲間に流れる映像はアニメソングとVTuberの楽曲ばかりでした。もちろん女性VTuberの場合もです。

〇女オタクは悪人好き?
 女性オタクが好きなキャラクターを分析しますとまずは劇団員も含めたアイドル物が多く、少し前の男性オタクがアイドル物が好きなのと相似形です。注目すべきは歌い手の人気が強いことで、若年層にとっては歌い手グループや男性VTuberは旧ジャニーズと並ぶ一種のアイドル的存在になっている事が予想されます。アイドル・歌い手・ラッパーのように女性オタクは「音楽」という物に惹かれる傾向があるようです。また、これらアイドルキャラや歌い手は非常にファンシーに可愛い存在に演出されています。女性は男性に格好良さだけでなく可愛さを求めているようです。

 リストを見ていて驚いたのが、ヴィラン・ラッパー・ワルメン・悪魔などキャラクターに悪や不良の要素が含まれる作品が想像以上に多いことでした。女性オタクは悪人が好きなのか。普通は善玉を推すものではないのか?ヒーローと悪玉のような作品ではなく、悪オンリーなのは何故なのか。この謎を明かすため私は「悪」という概念そのものを探究しました。
 
 『全訳 漢字海』(三省堂 2002年)533pによれば、「悪」という漢字の日本語的用法として、気力・体力などが並外れていることを表すそうです。悪党(日本史)」「悪源太」という言葉があるように「悪」には良い意味があるんですね。人類の歴史が戦争の歴史である以上、悪とは強さと富の象徴であったのです。
 「悪」というのは現代社会においては、力強い・横暴や特権が許される・ずる賢い・カネを持っているという意味があります。大前提として全ての人間は法律や道徳を守らなければいけません。が、法律的に正しいかどうかとその人にSEXアピールがあるかどうかというのは別問題です。
 これは正しいとか間違っているとかいう以前に、街を歩くだけで悪人が女性にモテるものという現象は実感としてわかるでしょう。あるいはLDHだったり、ホストだったり、強くて金持ちでオラオラ系の、男性から見ればどうしてそんな相手にと思う男ほど女性にモテる現象があります。なぜ悪人の方がモテるし、男性からも悪人は羨ましがられるのか?それは「悪=強=優=善」であり、「善=弱=劣=悪」だからです。これはアニメ・ゲームオタク界隈でも同じことです。

 ネット空間でインセル系の人はよくこういう事を言います。
「女を殴る方が女にモテる」
 当然ながらそれは論外の暴論として、私は以前から疑問に思っていた事があります。
 それは「花より男子」「ちはやふる」「聲の形」のように女性作者の漫画では主人公がいじめっ子で大して罰せられなかったり、恋愛対象がいじめっこだったりする作品がある事です。このような描写は男性向け漫画では絶対ありえません。私はここから「女性はいじめられっ子よりいじめっ子の方が恋愛対象という意味で好きなのではないか?」と疑念を抱いています。
 これは男性でも同じ傾向で、ヤクザ映画やヤンキー漫画が好きな男性は沢山います。オタクでそのようなコンテンツを好きな人は少ないです。オタクもドラゴンボールのフリーザや北斗の拳のラオウのような悪役は好きですが、ヤンキーのような身近な悪人は嫌います。何故かというとオタクはいじめられっ子だからです。

 女性は弱いオスよりも強いオスを好みます。強者男性の暴力は女性には向かわないし、乙女ゲームに出てくる悪人は悪事は行うけどプレイヤーの女性だけは特別に優しく愛してくれます。女性オタクは弱いから(オタクだから・スポーツが苦手だから)という理由ではいじめられません。なので女性オタクは安全な立場から不良キャラを楽しむことができます。そういう訳でインセルの発言は間違っていて、正しくは「女を殴ってはいけないが他の男はどんどん殴る方がモテる」と言うべきでしょう。
 こうした女性オタクの悪人好きの傾向は男性オタク、特に年齢が上のオタクが差別されていた時代のオタクには奇異に映ります。(男性オタクにもヤンキー女萌えというのも無くはないですが、マイナージャンルです。宝鐘マリンは海賊だとか、男性向けでもメギド72があるとかいろいろありますけど、あくまでキャラ付けの一部で「ワルいから好き」とはちょっと違うんですよね。)

 当然ながら、全ての女性オタクが悪人好きなわけではありません。既に見たように可愛らしい男性アイドルキャラや歌い手が好きな人、少年漫画のヒーローやスポーツマンが好きな人、そういったキャラが推しな女性オタクの方が数としてはずっと多い割合だと認識しましょう。ワルな男性を推す作品が多数あるといっても、女性全体としては「ワル」よりも「可愛い」男性キャラを推す人が多いでしょうし、そうした「ワル」好みもひょっとしたらオラニャン的なギャップ萌えの可愛さなのかもしれません。「女性はみんな暴力的な男が好き」という考えは、そういう傾向があるにしても「男性オタクはみんな巨乳メイドが好き」みたいな偏見だと私は考えます。

〇オタク全体の動向
 次にオタク界全体の動向を観ます。2024年現在では男女を問わずジャンプを中心とした少年漫画が大人気コンテンツとなっています。呪術廻戦・僕のヒーローアカデミア・ハイキュー・チェンソーマンなど、これら作品は男性人気も多いでしょうし、腐向け人気も高いでしょう。名探偵コナンは安室透・赤井秀一などのキャラを出して一気に女性人気が高まりました。
 その他、古い作品では進撃の巨人・銀魂・テニスの王子様も人気があるでしょう。最近の珍しい例として葬送のフリーレンが腐向け要素が少ないにも関わらず大ヒットしています。また面白い現象としてアニメ映画のヒットの影響で「ゲゲゲの鬼太郎」が女性オタクの間でプチブームになっているようです。

 かつてゼロ年代のニコニコ動画ではアイドルマスター・東方Project・VOCALOIDの三作品が御三家として人気がありました。この内東方もボーカロイドも若年層に人気を保っているのはまさに驚異的です。プロジェクトセカイの貢献があるでしょう。また、プロセカのようなクリプトン社系ボーカロイドよりもずんだもん、結月ゆかり(元はボカロ)、琴葉茜・葵のようなボイスロイドの方が人気があるようです。
アイドルマスターはやや人気が落ちように感じますが、今春は新作アニメもありますしまだやれるコンテンツです。他にはmiHoYo社のソーシャルゲームの原神が男女問わず多少人気がありそうです。

↑もはやボーカロイドの代表は初音ミクではない

 ウマ娘の人気は下がっています。名古屋駅西のオタクショップであまりグッズを見かけませんでした。スーパーやコンビニでコラボ商品は良く見かけますが、見掛け倒しの人気かもしれません。同様に刀剣乱舞の人気も下がっているように見受けられました。
 艦隊これくしょん・ガールズ&パンツァー・アズールレーンなどはお話にもならないぐらいグッズがありませんでした。これらは既にオタクの歴史の一部になったと言えるでしょう。

 アニメでは昨年は推しの子と先述のフリーレンがブームになりましたが、今期のアニメでは「ダンジョン飯」と「勇気爆発バーンブレイバーン」が人気のようです。ダンジョン飯はファンタジー系ながらなろうではなくハルタ連載の良質な作品です。例えるならば「メイドインアビス」「ハクメイとミコチ」系の作品で、私は継続視聴しませんがおすすめできます。
 ブレイバーンは2024年にこのような直球のロボットアニメが大人気になるとは、勇者シリーズ世代の私も嬉しいです。テレビアニメは少し前の「なろう系・石鹸系ばっかりで見ていて恥ずかしい」というような時期を脱してクオリティが上がっているようです。

 男性オタク分野を説明します。これはもうYostar社のソーシャルゲーム「ブルーアーカイブ」が大大大大大人気で、他の作品はみんなどんぐりの背比べの状況です。メロンブックスに並ぶ成人向け同人誌もブルアカが圧倒的多数でした。ユウカとシロコというキャラクターが目立っています。
 その他、エロ同人の界隈では二次創作ではないオリジナル作品を描く作家が増えているようでした。その理由は、有名な同人作家の場合はその人の名前だけで売れまくりますからわざわざ問題点の多い二次エロ創作をする動機が無いのだと考えられます。
 ちなみに勝利の女神:NIKKEの人気は僅かです。男性オタクの世界も話題性や女性キャラの露出度だけで人気が出る訳ではありません。男性が中韓製ソシャゲを好む一方、女性は国産ソシャゲを好む傾向があります。

〇まとめ
 以上で分析を終了します。とにかく2024現在は女性オタクの勢いが強く、少年漫画もその過半が女性オタク人気である事を考えると、もはやアニメオタク・漫画オタクの7割、ひょっとしたら8割程度は女性オタクの可能性があるでしょう。男性のアニメオタク・漫画オタクは今はもうブルアカとホロライブだけが大人気で、他に何をやっているか、何か面白いことをやっているか、それが全然目に見えなくなってしまったように感じます。改めて、2024年以後のオタク文化は女性が主導していくでしょう。
 昔は涼宮ハルヒの憂鬱とか魔法少女まどかマギカとか、男性オタクの盛り上がりがオタク界の中心でした。そういうムーブメントは、けものフレンズ・ウマ娘辺りで終わってしまいました。昔、岡田斗司夫は2006年頃に「オタクは死んだ」と言いましたが、そういう言い方は格好悪いでしょう。だってコンテンツ自体は今の方が質が高いですし、老害っぽいからです。そうではなくて、私はオタクカルチャーは男性オタクから女性オタクに継承されたと考えます。
 昔のオタク界の雰囲気が消滅してしまったという事態に、私は実家が更地になってしまったような寂しさを感じます。でもまあ、それは時代の流れだからしゃあないわな。むしろオタク文化が消えてなくなるよりも、女性オタクにオタク文化を継いでもらって良かったのかもしれません。

〇女性オタクVS男性オタク
 最後に私は女性オタクと男性オタクの対立を懸念しております。先述の「ワルい男を推すコンテンツ」もそうなんですが、男性オタクの間で女性オタクへの敵対心が上昇しているように感じます。
 代表的意見には「腐女子に少年マンガを乗っ取られて不快だし、BLはゲイ差別でもある」「男性オタクは表現の自由のために戦っているのに、女性オタクはそれに無料乗りしている。」「勝手にメンズ地下アイドルやホストを推して借金を追って被害者面するのはおかしい」「オメガバースやヒプノシスマイクのようにおぞましい設定の創作がある」等あるでしょう。反論としては「男性向け二次創作も子供向け作品を含むあらゆる作品を扱っているのでそれを言えた義理ではない。男性向けこそおぞましい作品が沢山ある」「メン地下やホストは明確に悪質商法なので、ある程度の被害者救済は必要」等が言えるでしょう。

↑ヒプマイへの好意的意見

↑ヒプマイへの否定的意見

 なんにせよ、私は男性オタクも女性オタクも同じオタク同士でお互い様なのだから仲良くすべきだと思います。ですが日本だけでなく韓国やアメリカも含めた世界的な男女間の対立の激化がオタク界にも悪影響を与えています。オタク同士がゲーマーゲート事件のように通報合戦・炎上合戦・晒し合戦の形で殴り合えば、オタク文化自体が衰退していきかねません。こうしたオタク間の争いはやめるべきですし、表現の自由に関しても男女が共に戦うべきだと思います。

 それで男女オタク間の争いが続いた場合の予想ですが、女性の方が勝つと思います。だって女性の方が数多いし、小売店も女性向けばっかりだし。それで少年漫画が好きな一般人寄りの人、腐男子だったり純粋に楽曲が好きで女性向けコンテンツを好む人は女性オタクと共存していくと思います。それ以外の男性オタクは昔の2ちゃんねるとか淫夢好きのように、アングラ的な誰も表立って話さないけど沸々と熱気が湧いているような状況になると予想します。

 以上が元オタクが考える2024年の現状分析及び未来予想です。

<オマケ 悪は善である>
 悪とは何か検索した所、金沢工業大学の講演会が偶然ヒットしました。面白い内容だったので悪に興味がある人は読んでみてください。