ラップも女性向け二次元コンテンツも詳しくないけど『ヒプノシスマイク』が楽しい
ツイッターのタイムラインで「ヒプマイ」という単語を目にすることがちょくちょく増えてきた。なんだろうな、ジャニーズかしら、ソシャゲかしら、と思いつつ、調べたりはしなかった。
それからしばらくして「ヒプマイは"ヒプノシスマイク"の略で、男性声優12人によるラップバトルプロジェクト」だということを偶然知り、そこで興味を惹かれた。
といっても僕はラップ文化にも女性向け二次元コンテンツにも全然詳しくなく、フリースタイルダンジョンとかも観たことない男だ。それでも興味を持った理由は「男性声優×ラップ」という組み合わせがあまりにも狙いすぎに見えたから、逆に気になったのだ。
二次元アイドルとラップを組み合わせましょうよ! なんて、いかにも「THE マーケティング」って感じで、逆に失敗しそう感がすごくないですか。「スマートスピーカー付きドローン」くらい、いざ売り出したらコケそうな感じがしませんか。
でも実際ウケているようだし、どんなのなのかな? と思っていたら、僕が加入しているアマゾンプライムミュージックに楽曲が追加されていることを知る。タダなら聴いてみるか~と思って聴いてみた。
……流行るに決まっている。
と思った。すごい。作品の仕組みがもう「勝っている」のだ。
そもそもヒプマイとはなにか
まず作品の世界設定を知ろう。
ヒプマイの世界では戦争が隔絶されている。武力の代わりに「ヒプノシスマイク」という特殊なマイクでラップを披露することで相手の精神にダメージを与えたりできるようになったのだ。そして、男性は特定の区画に隔離され、それぞれの暮らす区域「ディビジョン」の領土をラップバトルで奪い合っているのであった……。
よくわからないかもしれないが、ようはコロコロコミックだ。カードやビー玉で世界征服できるように、ラップで全部どうとでもなる世界のおはなしなのだ。
2018年7月現在『ヒプノシスマイク』のコンテンツはCD音源しかない。マンガとかアニメとかがあるわけではない。そのCDの出し方がすごい。
ヒプマイには12人の男性キャラがいて、3人1チームで計4枚のCDと、それぞれのチームが戦うバトルCDがある。チームのCD音源にはメンバーごとの持ち歌が1曲ずつと、ボイスドラマが2つ収録されている。
この構成の美しさに私は感動してしまった。たった5つのトラックにコンテンツのすべてが入っている。
キャラクターはこんな感じ。
イケブクロ・ディビジョン
・山田一郎 情報屋の不良
・山田二郎 お兄ちゃんが大好きな高校生
・山田三郎 お兄ちゃんが大好きな中学生
ヨコハマ・ディビジョン
・碧棺 左馬刻(あおひつぎ さまとき) 妹思いのヤクザ
・入間 銃兎(いるま じゅうと) 七三分けの汚職警官
・毒島 メイソン 理鶯(ぶすじま メイソン りおう) 森で自炊する元海軍
シブヤ・ディビジョン
・飴村 乱数(あめむら らむだ) ぶりっ子野郎
・夢野 幻太郎(ゆめの げんたろう) 嘘つき小説家
・有栖川 帝統(ありすがわ だいす) 賭博狂いでほぼカイジ
シンジュク・ディビジョン
・神宮寺 寂雷(じんぐうじ じゃくらい) ブツブツ言う医者
・伊弉冉 一二三(いざなみ ひふみ) 女性恐怖症のホスト
・観音坂 独歩(かんのんざか どっぽ) 鬱リーマン
みんなはこれを見てどう思いましたか? 私は「ふざけた名前だな」と思いました。音声だけのコンテンツということもあり、とにかくキャラクターが過剰に濃い。造形だけなら一発で全員覚えられるレベル。さらにキャラごとに「幼馴染」だの「犬猿の仲(後に付き合うという意味)」だのといったステータスが設定されている。可能性は無限大だ。
ヒプマイのなにがすごいか
・キャラの配置が丁寧
ヒプマイ、どのキャラもベタっちゃベタだ。あざとい腹黒ショタとか、女が苦手なホストとか、女性向けコンテンツに詳しくない僕でもどっかで見たような感じがする。
ただ、そのキャラの「配置」のしかたが神がかっている。ほかのキャラとどう絡ませてどんな役割を負わせるかを死ぬほど考えた上でチームが作られており、結果的に見たことない何かができあがっている。それを1枚のCDで、5つのトラックで成立させてしまってるのがすごい。日本庭園で、たった3つの岩をどう置くか、みたいな美意識の問題に近い。
・ラップがおもしろい
ちゃんとかっこいいしラップを選んだ必然性がある。ラップは曲の中でめちゃめちゃ喋るジャンルだから、キャラの掘り下げにすごく向いてるのだ。中にはほとんど自己紹介を喋ってるだけ、みたいな曲もある。王道丸出しのオラついた曲や、クラシックのアレンジ、ホストのコールなど幅広くて、同じラップでもめちゃめちゃ個性が出ている。
普通のキャラソンと比べると、アイデンティティをさらけ出してるというか、内面を吐露してる、本音を言ってくれてる感がある。
・すごいバカ
世界観から何から全部バカバカしい。そもそも精神攻撃できるマイクがあるから武力がなくなったってなんだよ、むしろそれが悪質な新しい武力だろとかいろいろ言いたいことがある。(2018/07/16追記 正確には「武力が廃止された世界でどうにかして闘い争うための道具としてヒプノシスマイクが開発された」だそうです。勘違いしていたので訂正します)キャラの名前も「碧棺 左馬刻(あおひつぎ さまとき)」ってなんだふざけてるのかサイゼリヤの受付で「碧棺」って書くのかキミはとか言いたくなる。
さらにラップカルチャーを踏襲してるだけあって、みんな曲の中でイキり散らしている。それがまた何か笑ってしまう。「な~に言ってんだ(笑)」ってなる。でもその、共感性羞恥のギリギリのところを突いてくるのがだんだんクセになってくるし、何度か曲を聴いているうちに親しみを感じられるから不思議だ。
ベイサイド・スモーキングブルース(歌詞)
https://www.uta-net.com/song/240050/
この警官キャラのリリックとか読むだけで面白い。これを声優さんのめちゃくちゃ良い声で滑舌よくまくしたてるからたまらない。「カッコいい」「ダサい」「かわいい」「面白い」が全部いっぺんに入ってくる。
ボイスドラマもバカで、MCバトルの後「ぐあー」ってなって片膝をついたり失神したりするので面白い。お前たちは何をしているんだ?
しかし、バカ要素は大事だ。人はバカなものを最初はヘラヘラしながら見ているのだがバカは伝染するのでいつのまにか自分までバカになってしまい、いずれバカのガバガバな感受性で物語を全肯定してすごい境地に達し白目をむいて咽び泣く。私はこの現象に飲み込まれた人を『ガルパン』や『キンプリ』で何人も見てきた。ヒプマイには関わった人間をバカにする強力な毒が仕込まれているのを感じる。
・公式コンテンツが少ない
ヒプマイは去年の秋頃に始まったオリジナルのプロジェクトなので公式コンテンツの量がとても少ない。CD数枚を聴いたら全部カバーできてしまう。しかもプライム会員なら今すぐ聴けるので参入ハードルが低い。隙間を妄想で埋める余地があり、楽しい。今のところは。
まとめ
ラップで男性声優でイケメンでとか安易~と最初に思った自分を恥じた。ラップを抜きにしたキャラ物としても丁寧だし、ラップというジャンルの二次元への活かし方も「正解」って感じだ。必死にイキるキャラたちが愛おしい。男性でも楽しめる余地はいろいろあると思うので(根本がコロコロコミックだし)、興味あったらちょっと聴いてみてほしいなと思った。たぶん今後ライブとか映像化とかいろいろ予定されてるんだろうけど、現行のCDだけで完成度がすごい。
ちなみに、特に好きなキャラはさっき歌詞を挙げた汚職警官の「入間銃兎」だ。めちゃめちゃ滑舌がよくてなんか笑っちゃうから。
公式Youtubeチャンネルでいろいろ視聴できるようです。
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