「かたかた片想い」第8話

ぐいぐい

 志希先輩の行動によって心をかき乱された私は結局テスト勉強に集中できなくて、期末テストの結果はひどいものだった。ちなみに先輩は過去最高に良い点を取ったらしい。憎たらしい。
 そしてあっという間に夏休み。バスケ部は夏の全国大会に向けて頑張ってたみたいだけど、全国には行けなかったと志希先輩から聞いていた。今日は試合直後で部活はお休みになったらしく、カフェで晴琉とお茶をしていた。葵は後から合流予定だ。

「円歌は夏休み何すんの?」
「ん-、何も決まってない。晴琉は……どうせ部活か」
「どうせって。まぁそうだけど。夏の大会はダメだったし、秋に向けてまた練習するだけだけど」
「ふーん。こうしえん?目指すの?」
「それ野球」

 バスケ部の現エースである志希先輩と付き合ってるとは思えない知識量。呆れる晴琉。「少しくらい勉強すれば?」と言われたけど、先輩がどうでもよさそうだから、まぁいいでしょ。

「志希先輩とデートしないの?」
「だってどうせ部活だし。部活休みの日は家族旅行するみたい」
「それは寂しいね」
「まぁ毎日連絡くれるし。あ、8月のお祭り行くのだけ決まってる」
「ふーん。暇なら私とデートする?」
「えーどこ行くー?」
「デートに突っ込んでよ」
「ん?別に晴琉と二人なんてデートの気持ちにならないし」
「どういうこと?」
「子どもに付き添う親の気持ちにしかならないって」
「おやおやバカにしているな?超絶大人のデートするぞ?夜景の見えるレストランとか予約しちゃうぞ?」
「晴琉、高級なレストランはジャージじゃダメだよ?」
「分かってるわ!」

「なにその会話」
「「あ、葵」」

 くだらない会話をしていたら葵がやってきた。「アイスコーヒーお願いします」と頼んで、届いたアイスコーヒーをそのまま飲んでいた。葵は甘いのが得意ではない。私は暑いのは苦手だけど冷たい飲み物も苦手だからホットのカフェオレを飲んでいた。晴琉はクリームソーダを頼んでいたけどもうほとんど残っていなかった。

「葵は夏休みの予定決まってんの?」
「葵もどうせバスケバカですぅ」
「何で円歌が答えるの。あとバカって言うなし」
「円歌は志希先輩が全然デートしてくれないから拗ねてんの」
「へぇ」
「晴琉。余計なこと言わないの」
「へーい。あ、今日用事あるんだった。そろそろ帰るわ」
「えぇ?デートの話は?」
「また連絡するから行きたいとこ考えといて。葵も一緒にね」
「なんかよくわかんないけどわかった」
「じゃあまたね」

 残りわずかのクリームソーダを飲み干した晴琉はカフェから出て行った。葵と二人きり。妙に緊張する。

「3人でデート楽しみだね。葵はどこ行きたい?」
「3人でデートって概念存在するの?」
「さぁ?」
「それは別として、葵とデートしようよ」
「へ?」

 温くなって飲みやすくなったカフェオレを飲みながら、緊張をごまかすように適当に話をしていたら、まさかの葵からデートのお誘いが。

「何で?」
「何でって。やだ?」
「嫌じゃないけど……でも……」
「志希先輩が嫌がる?」
「わかんないけど……葵がそう言ってたんじゃん」
「……だって先輩、他の子と普通にいちゃいちゃしてるし」

 確かに志希先輩は今でも色んな女の子にかわいいと言うし、ファンの女子から猛烈にアプローチされてる。でもそれは私と付き合う前からずっとだから、正直言って見慣れてしまった。

「まぁそれはいつものことだし」
「なら葵たちがデートしても良くない?」
「えぇ?うーん……そうなのかなぁ……って嘘。志希先輩から電話来た」
「え」
「ごめん、ちょっと出てくる」

 慌ててスマホを持ったままカフェの外に出て電話に出た。

『うぇーい!円歌ちゃん元気~!?』
「声大きいっ!」
『あはは!今何してんの?』
「葵とカフェにいますけど」
『お、デート?』
「お茶してるだけです!というか何で嬉しそうなんですか?……ちなみに本当にデートだったら怒ります?」
『え?何で?』
「いや何でって……先輩って嫉妬とかしないんですか?」
『え~?ちゅーしてたら怒るかも?』
「そうですか!わかりました!」
『何か怒ってる?まぁデート楽しんできてね~。じゃあね』

 一方的に電話を切られた。結局何の電話だったのだろう。というか先輩さ、嫉妬しないとかいうレベルじゃないでしょ。もう私に興味ないレベルじゃない?……なんか傷つく。でも葵を好きと言っても受け入れてくれた先輩に何かを要求するのは気が引けた。妬いてほしいなんて私からは言えない。

「ごめん葵、お待たせ」
「うん。それで?デートしてくれるの?」
「先輩は良いって」
「ふーん。余裕なんだね……そういえばアイスでも食べる?私おごるって約束してたし」
「あー!そういえばそんなこと言ってたね。ねぇかき氷じゃだめ?」
「いいよ」
「じゃあ行こう!」

 急遽かき氷を食べに行くことに決め、カフェを出た。電車で10分程度の場所にかき氷で有名なお店があるのだ。駅に向かおうとすると、葵が私の手を取っていた。安心する手。ずっと私の生活に馴染んでいた手。

「えっと……」
「うん?どした?」

 もう繋ぐこともないと思ってたのに。志希先輩が葵と昇降口で言い合いのようなことをした日から、葵の様子がおかしい。あんなに私と先輩の関係を気遣う素振りをしていたのに、何か挑発的というか、先輩をライバル視しているような……。手、離したほうがいいよね。でもこのまま葵と仲良くしていたら、先輩、少しは妬いてくれるのかな……。

「……なんでもない」

 私は結局を手を離せなかった。


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