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期限切れフィルム、その魅力と特徴にせまる

皆さんは「期限切れフィルム」を使ったことがありますか?写真フィルムには使用期限というものがあり、それを越えてしまったフィルムを使うと現像した写真に様々な劣化が現れてきます。では、それらを使うと具体的にどうなるのでしょうか?今回はそんな期限切れフィルムの魅力的(?)な世界とその特徴を作例と共に紹介していきたいと思います。

期限切れフィルムを使って撮影した作例
(フィルム: Konica Centuria100)

上の写真は、期限切れフィルムを使って撮影したものです。私の代表スタイルである「多重露光」を用いているためやや不思議な雰囲気となっていますが、写真全体の色合いやコントラストがどこか色褪せたような、ぼやけたような感じになっていますよね。これが期限切れフィルムを使った場合の特徴のよく出ているイメージです。

期限切れフィルムとは?

期限切れフィルムとは、フィルムのパッケージに記載されているフィルム使用期限を越えてしまったフィルムのことをいいます。使用期限は、一般的なカラーフィルムの場合、製造から2年ほど、モノクロフィルムは3年ぐらいといわれています。その使用期限の過ぎたフィルムを使用すると、色褪せてきたり、粒子が荒くなったり、コントラストが低下したりなど、本来の品質ではない劣化した結果となって像が現れてきます。

どう劣化するの?

では、具体的にどう劣化していくのでしょうか。保存状態にもよりますが、製造からある一定の期間は品質の劣化があまりなく、その後徐々に本来の品質が失われていきます。
 
具体的には、
①感度が落ちる… フィルム感度通りの露出で撮っても暗くなる
②コントラストの低下… ハイライト・シャドーの締まりが失われ眠たい画像になる
③カラーバランスが損なわれる… それぞれの色ごとに異なる変色が現れる
④粒子が荒くなる… 荒れたザラザラの画像になりシャープさが失われる
…などの劣化が現れます。

フィルムの種類による変化

フィルムの種類によっても変化の程度・度合いは異なります。カラーネガフィルムの場合、よほど劣悪な環境(高温多湿の場所等)でもない限り、1年ぐらいの期限超過ではあまり劣化は感じられません。それ以上を過ぎると、保存状態にもよりますが上記のような諸症状が現れてきます。しかし、劣化の程度が少なければ現像後に調整することも可能です。モノクロフィルムの場合は、色情報がないためコントラストの低下(及び粒状性の劣化)だけにとどまり、現像後にある程度の調整は可能です。リバーサルフィルムの場合が最もシビアに劣化が現れ、現像後に本来の品質を取り戻すことが困難になります。

ネガ上の比較

ネガの比較

ネガ原版を見てもその変化は確認できます。上の画像の上のネガが期限切れのカラーネガフィルム(Kodak HD400、現像時約3年期限超過)ですが、フィルムのベース面から色が赤黒く変色しており、フィルムもややカーリング(くるんくるんになること)しています。下のネガ画像が使用期限内のフィルム(Kodak Gold100)で、通常通りの淡いオレンジ色を保っています。

フィルム(左)とスキャンした画像(右)

上の画像が期限切れフィルムからスキャンした実際の画像のイメージです。かなり褪色しており、コントラストは低く、ハイライト部分に青みが不自然に乗っていて現実とは異なるトーンになっていることがわかります(Kodak HD400使用、約3年期限超過)。

作例&解説

では、作例をいろいろ見ていきましょう。フィルムの種類・期限超過の度合いも色々で、成功例・失敗例各種織り交ぜています。

作例①

・フィルム名:Kodak HD400(ネガ現像)
・使用期限:2005年ぐらい(撮影時約3年超過)
・使用カメラ:Lomo LC-A
・解説:もともと特徴的な青みを持つフィルムでしたが、使用期限超過によりさらに非日常的なトーンになりました。コントラストも低くまるでパステル画か水彩画のようです。これは意外性もあって個人的には気に入っている作例です。

作例②

・フィルム名:Lomography X Tungsten 64(クロス現像)
・使用期限:2010年ぐらい(撮影時約4年超過)
・使用カメラ:Lomo LC-A+
・解説:ロモグラフィーからかつて発売されていたタングステンフィルムです。薄暗い森の中でのやや陰鬱なテーマの撮影で用いましたが、その特徴的な赤・紫系は現れずくすんだブルー調に。感度・コントラスト・彩度とも見事なまでに低下し粒子の荒れ方も抜群です。

作例③

・フィルム名:Kodak EBX(クロス現像)
・使用期限:2014年ぐらい(撮影時約2年超過)
・使用カメラ:Canon EOS 7S/Canon EOS1N(フィルムスワップwith 畠山健一氏)
・解説:Kodakの人気のスライドフィルムを用いた「フィルムスワップ」による作例。バラの花と女性のポートレートとの「多重露光」です。約2年超過も保存状態が良かったため彩度コントラストとも健在。クロス現像処理により彩度やコントラストが持ち上げられたことの影響も大です。

作例④

・フィルム名:Kodak ProFoto XL 100(ネガ現像)
・使用期限:2011年ぐらい(撮影時約4年超過)
・使用カメラ:Canon EOS 7S
・解説:マクロで撮った目ん玉と壁のペイントによる多重露光作品。やや退廃的なイメージを狙ったためあえて期限切れを使用。青系のカブリは予想外だったがコントラスト・粒状性は意外と豊か。

作例⑤

・フィルム名:Kodak Portra400(ネガ現像/2倍増感)
・使用期限:2013年ぐらい(撮影時約2年超過)
・使用カメラ:Canon EOS 7S
・解説:ストリートスナップとぼかした花との多重露光作品。期限切れフィルムで撮影したのち増感現像処理しました。現像時間を約2倍にすることでコントラストの増加を図りましたが、やや露出オーバーとなりシャープ感とカラーバランスが乱れました。しかしレトロ感のようなものが出て味わいのあるような不思議な雰囲気となりました。

作例⑥

・フィルム名:Fuji Superia400(ネガ現像)
・使用期限:2013年ぐらい(撮影時約3年超過)
・使用カメラ:Canon EOS 7S
・解説:こちらもやや重い雰囲気を狙ったため期限切れフィルムにご登場いただきました。室内のポートレートと紅葉との多重露光ですが、グリーン系のカブリとコントラストの低下により狙い通り重苦しく陰鬱な雰囲気になり割と満足しています。

作例⑦

・フィルム名:Kodak Gold100(ネガ現像)
・使用期限:2014年ぐらい(撮影時約2年超過)
・使用カメラ:Canon EOS 7S
・解説:2年超過ですが予想以上に劣化の進行が進んでいました(保存場所が劣悪)。裸婦は油絵を撮影し、赤い花は本物の花を撮影しています。コントラストが低くハイライトに青みが乗りました。褪色が激しく劣化を感じさせますが、絵画(油絵)の持つ質感と期限切れフィルムの特徴との相性は悪くなく独特の味わいのようなものが出ました。

作例⑧

・フィルム名:Konica Centuria100(ネガ現像)
・使用期限:2003年(撮影時約13年超過)
・使用カメラ:Canon EOS 7S
・解説:今回の検証の中で最も超過期間の長いフィルム(約13年経過)。バラの花のアップと暗い室内でのシーンとの多重露光ですが予想より色が出ました。コントラストの低下と粒子の荒れはありますが補正なしでここまでの発色が再現できるとは思いませんでした。

作例⑨

・フィルム名:Kodak Gold100(ネガ現像)
・使用期限:2014年ぐらい(撮影時約2年超過)
・使用カメラ:Canon EOS 7S
・解説:観覧車で2回、あじさいの花で2回の計4回露光していますがいずれも少し露出を抑えています。粗さと低コントラストを狙いましたがそれなりによく像が出ています。被写体に明暗のメリハリをつけたことも大きいかなと。

作例⑩

・フィルム名:Kodak Gold1 400(ネガ現像)
・使用期限:(撮影時約5年超過)
・使用カメラ:Canon EOS 7S
・解説:夕暮れ時の湖畔でのポートレートと河津桜との多重露光です。コントラストは低下し粒子も粗いですが、コダック特有の暖色系は健在で、夕日の雰囲気を損ねることなく表せているようです。
 
いかがでしたか?フィルムやカメラ・露出・現像方法により実にさまざまな表情を見せているのがわかります。これらの劣化による現象が、撮る被写体やシーン・撮影テーマによってはレトロ感のある味わいのようなものとなり、写真の魅力となって現れることが時としてあります(もちろんその逆もあります)。
 
最近はフィルムの種類が少なくなり値段も上がっていますので、比較的安く手に入りやすい期限切れフィルムを使う人が増えているかもしれません(私もそうです)。ただ、それらのフィルムを「仕方なく」使うのではなく、特徴を理解した上でうまく付き合ってあげるのもよいのではないかと思います。
 
最後に、期限切れフィルムを効果的に使う場合のポイントや注意点をまとめました(個人的な感想です)。

ポイント&注意点

① 高温多湿の場所を避けて保管しておくと劣化が防げる(できれば冷蔵保存)。逆に言えば劣化をあえて促進させたい場合には高温多湿の場所に放置プレイ
② 撮影の際は露出をややオーバー気味にするとよい(露出不足を防げる)
③ リバーサルフィルムによるクロス現像はあまり劣化が感じられない(クロスによりコントラスト・彩度が上がるため。ただしフィルムの種類・劣化の程度による)
④ 失敗して当然の気持ちで遊び心いっぱいで撮る。時にその年のあなたの代表作が期限切れフィルムから生まれることも(?)
 
ということで、皆さんも期限切れフィルムを使ってみてぜひ面白い作品を撮ってみましょう。フィルムには期限がありますがそこから生まれる作品にはリミットはありませんよ!(←うまいこと言ってやった的な)

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