エイの王子様と断頭台。
4年ほど前のことだ。
暑い夏の日だった。
車で隣町まで飛ばし、漁協の横の船着き場から、張り出した埠頭の上を風に当たりながら歩いていた。
あれ?
私、帽子海に落としちゃったかな?
ん?かぶってるぞ。
じゃああの丸いのは…
アカエイさんだ!
しかも、目だけ出してこっち見てる…
私は君を食べないよ。
アカエイさんはしつこくついてきた。
だから、君を食べたりしないって!
………。
変な気持ちになってきた。
わたし、アカエイさんに好かれた?
もしかして、お嫁さんにされちゃう?
じ〜…
まだ見てるぅぅ…
やっぱり、わたしのことお嫁さんにする気なんだ。
カエルの王子様がいるくらいだもん、
エイの王子様だっているかも知れないし。
…人間の姿になったらイケメンかな?
おや…、あれは…、
ワタリガニだ!
ワタリガニがエイさんの目の前に飛び出してきた。
エイさんすかさず覆いかぶさる。
うそ…食べてるの?!
あんな硬いカニを?!
数十秒でカニは跡形もなくなり、エイさんはまた浮上してきた。
私の頭の中は千本桜。
「〽ここは宴♪鋼の檻♪
その断頭台で見下ろして!」
ひぇぇ、カニにとってはエイさんの笑ったようなにっこり笑顔は、
恐怖の断頭台
だったんだ…
エイの王子様…わたしそちらへはいけません…
今年の梅雨時。
テトラポットの脇でアカエイが死んでいた。
それをアカテガニやショウジョウガニが食べていた。
こうして、生物の世界は回ってゆく。
人間は異形なのかもしれない。
屍ばかりさんざん食らって、自らの死体は誰にも食べさせない。
自然の理から最も離れたいきもの。
雨粒が顔に落ちてきた。
アカエイの王子様を思い出しながら、私は家に帰った。
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