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詩「もう戦いたくない」

もう戦いたくないよ
もう疲れたよ
片刃の剣
重い甲冑

彼女は
木の下に座り込んだ
空は青かった

ときおり陽をさえぎる
白い雲
目を細めて見上げる

自分で踏んだ草が
青臭い匂いをさせる

―ごめんね

しみる…
心の傷に

ごめんね

もう戦いたくない
疲れた
全て捨てて
もう戦いを終わらせたい
ただ
戦うのをやめて
彼女のなかに何が残るのか
彼女自身わからず

―私、戦いしか知らないんだ

声に出さず つぶやく

人は思い出に生かされると言うが
彼女の思い出は古すぎて
逆に近い時代の思い出が
何もないことを
浮き彫りにさせる

温もりは遠すぎた

彼女はそれでも
その古ぼけた
遠すぎる温もりを抱いてゆく

ただ
いまは
もう戦いたくなかった
戦いすぎたのだ

空は青かった




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