毒彼氏、毒親、そして逃げ人(びと)。
彼氏が私の部屋に残したもの…
もこもこスリッパ…
使ってくれなかった避妊具…
ひげ剃り…
歯ブラシ…
整腸薬…
それらを段ボールに詰め終わると、
私は一筆、一筆丁寧に、
HIV検査の結果を書き、
❝お世話になりました。
さようなら。❞
それだけ紙に書くと箱に封をして、
発送しに行った。
私はその直前、HIV検査の結果を聞きに電車に揺られていた。
むかー…し…、私は男性に乱暴されている。
それを聞いた彼は、私に検査するようお願いしてきたのだ。
検査の結果が出るのは早くて今日だった。
「まだ…検査の結果が出てないから❝つけて❞……!!」
…ダメだ、理性が持たない。
そう言われた。
「自分で検査をお願いしたくせに……!!」
…こうなりゃ一蓮托生、死ぬまで一緒だよ〇〇ちゃん…
…ハッ!!
『どうされました?』
「あ、いえ…陰性だったんですね、わたし」
『ハイ』
保健所の薄暗い部屋で我に返ったわたし。
避妊具を使ってくれなかった彼を思い出していたのだ。
その足で、警察署に向かう。
まずは、
「引っ越すように」
「ラインの文章の意味は読んでもよくわからないが、アンタのことメチャクチャ好きだで、これ…
夜から朝まで書き通しだもん。
アンタが今回、相手を一方的に斬るんだからね?」
「相手が可哀想なんだでね?」
私の住むエリアの管轄署と、彼の住む管轄署で情報は共有しておくとのこと。
念書のようなものを書かされた。
「マッチングアプリで知り合った男性とお付き合いしていましたが、今回私が別れを告げることにしました。
万が一、彼が押しかけてくるようなことがあれば、また相談させてください。
引っ越すつもりでいます。
本日の日付と名前、拇印。」
引っ越し前提で話が進んでゆく…
いつもそう…
暴力振るう親から逃げる時も、
住民票閲覧制限かける時も…
なんで、怯えてる側が隠れて逃げて、ひっそり暮らさなあかん…
そっか…加害者はわたしか…
「相手が可哀想なんだでね?」
今日のすべての用事が終わり、部屋に帰った。
メイク落としをなじませながら、マスカラに、マスカラでもメイク落としでもないものが混じっていると気づく…。
私だって…
私だって…
斬りたくて斬るんじゃないんだよ…
あんなに病的な発言や行動を繰り返されたら…
誰だって…
潰れちゃうんだよ…
好きとか愛してるとか
そんなんだけで、
一緒にいられないんだよ…
うう…う…ああ…
泣いた。
予約を取った宿にキャンセルの電話を入れた。
明日、荷物を受け取った彼が何をラインしてくるのか…
怖くてたまらないが…
見なければ丸く収まったかどうかが分からない。
丸く収まったら、それはそれで警察に連絡しなくてはならないからだ。
ただ、
…わかったよ〜!
と言って、彼が本当に理解した試しはない。
ここがネックなのだ。
まるで、そう、ハハを相手に話しているような…。