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文学のハイライト:太宰治『駈込み訴え』_リズミカルな地の文(2)

良い文章は心のえいよう。

こんにちは。ななくさつゆりです。
こちらは、生成AIのホロとケインが文章表現を語るnote、『文学のハイライト』です。

教養として文学を知っておきたい。
生成AIが文学を語るとどうなるか興味がある。
文章表現を深掘りするって、楽しい!

そんなあなたにおすすめです。

今回は、前記事「太宰治『駈込み訴え』_リズミカルな地の文」の後編となります。
ぜひ前回の記事もあわせてご覧ください。



登場AI紹介

コーヒーはソイラテ派。

ホロ ホロです。直観でエモさを語ります。
述懐担当で、口癖は「かなり好き」。

コーヒーは無糖派。

ケイン ケインです。内容面の言及に加え、作者のプロフィールや作品の来歴もカバーします。
従妹いとこのホロから、しばしば理屈っぽいと言われます。


今回のお題は「地の文のリズム」

前記事では、文章における韻律を語ってもらいました。
では、さっそく参りましょう。



1.太宰治と『駈込み訴え』のこと


ホロ 私、最近までソイラテを飲んだことがなかったのよね。
普通にハマっちゃったわ。
ケインくん。わざわざ買ってきてくれてありがとう。

ケイン どういたしまして。
ちょうど、喉が渇いていましたから。
紅茶は自分の方でいただきますね。

ホロ ……ふぅ、いい感じ。
で、どこまで話したっけ。

ケイン 今回のお題は「地の文のリズム」です。
先立ち、文章における韻律と拍の話をしました。
それで、さァこれから『駈込み訴え(かけこみうったえ)』に入ろうか、といったところです。

ホロ オッケー、オッケー。
ちょっと、太宰作品の小話とか挟みたいところだけど。

ケイン 最後のおまけにとっておきましょうか。

ホロ そうね。じゃあさっそく、太宰治『駈込み訴え(かけこみうったえ)』を題材に、地の文のリズムを深堀りしていきましょう。
ケインくん。導入をよろしく!

ケイン はい。前回も軽く触れましたが、『駈込み訴え』は、太宰治の代表作の一つで、彼のダークな一面と、人間への深い洞察力が光る短編小説です。

ホロ 訴える男の心理が複雑で、混沌としたまま独白が続いていく。
小説でありながらどこか脚本ちっくで、演劇になったら演じがいがありそうな本文よね。

ケイン なるほど。面白い観点です。

ホロ そういえばこの短編って、奥様が執筆に協力した口述筆記こうじゅつひっきなのよね。

口述筆記 …… 他の人が述べることを、その場で書き記すこと。また、そのもの。例文:「原稿を口述筆記する」

コトバンク -  口述筆記

【補記】小説執筆においては、作家が口述した文章を書き手が筆記して制作するスタイルを指す。

ケイン よくご存知ですね。
書き手に徹した細君、津島未知子の回想録いわく、

太宰は炬燵に当たって、盃をふくみながら全文、蚕が糸を吐くように口述し、淀みもなく、言い直しもなかった。ふだんと打って変わったきびしい彼の表情に威圧されて、私はただ機械的にペンを動かすだけだった。

津島美知子『回想の太宰治』

とのことです。

ホロ そういう執筆スタイルもあるのね。
私ったらてっきり、小説家は皆、紙なりタイプライターなり、最近ならパソコンなりに向かって、文字を打ち続けるものかと思ってた。

ケイン 日本だと、タイプライターの打ち手は希少かもしれません。
まァ、パソコンが普及し、書き起こし手段トランスクリプションも多彩かつ高性能化した現代ではあまり見なくなりましたが、二人三脚の口述筆記は、当時だとしばしば見かけたスタイルです。

ホロ 作家自身が書かなくてもいいんだ?

ケイン 語り部は本人ですし、出来が気に入らなければ後で直すのでしょう。
それに、病等の諸事情から一時的に口述筆記で書く、といった作家も中にはいたんですよ。

ホロ 当時は手書きで原稿用紙に何十枚、何百枚分の文字を打つんだから、腱鞘炎けんしょうえんとか普通にありそうだよね。

ケイン まさに作家の職業病だったそうです。
ちなみに、『駈込み訴え』が世に出たのは1939年あたりなのですが、精神状態が比較的安定していた太宰は、この時期立て続けに女生徒』『富嶽百景』『走れメロスなどを発表しています。

ホロ どれも聞いたことがある作品ばかりね。

ケイン そうでしょう。
そして女生徒川端康成の激賞を受け、各所から依頼が急増。流行作家としての地歩を築く、という流れです。

ホロ バズっちゃったワケか。
やっぱり、内容もさることながら、継続して発表しつづけることが、いつの時代も大事なのかな。

ケイン かもしれませんね。




2.地の文に潜むリズム


ホロ そろそろ、例文にいかない?
韻律と拍を忘れないうちに。

ケイン ええ。では、以下の例文をご覧ください。
繰り返しですが、今回扱う作品は太宰治『駈込み訴え』です。
太宰治のモーラセンスを堪能しつつ、地の文のリズムを検討しましょう。
まずは冒頭から。

 申し上げます。申し上げます。旦那さま。あの人は、酷い。酷い。はい。厭な奴です。悪い人です。ああ。我慢ならない。生かして置けねえ。

太宰治『駈込み訴え』


ホロ 出だしからすごい怒ってるわね。

ケイン 男は終始この調子で、愛憎いり混じる心情がとめどなく吐露されていきます。

吐露 … 心に思っていることを、包み隠さないで全部述べ表わすこと。心の中を打ち明けること。心の底から誠をもって語ること。

ホロ しかも、感情の振れ幅が、すごく大きくて急じゃない?
あの人は酷いよなァ、イヤだなァ、悪いよなァと、ぶつくさ申し立てていたところにいきなり、“生かして置けねえ”って。

ケイン その急加速や急ブレーキの具合も、本作の魅力です。
語り口とリズムが、相互に引かれあうかのようですね。

ホロ この調子だと、飽きずに読み進めていけそうね。
ただ、「地の文のリズム」ってアプローチで見ると、どうなのかしら。

ケイン と、言いますと?

ホロ この冒頭文ってさ。
前回の『少年の日』みたいな、一定のリズムが見えないじゃない?
それなのに、リズミカルな文章って言っていいの?

ケイン いい質問ですね。
では、ホロさん。モーラについておさらいです。

ホロ はいはい。
モーラ(拍)とはリズム上の単位で、文字を音でカウントするのよね。
たとえば、「おかあさん」は「お・か・あ・さ・ん」で5拍。
「チョ・コ・レ・ー・ト」も5拍。

ケイン その通り。前提として、私たちが日ごろ目にしている文章には韻文いんぶん散文さんぶんがある、というのは前回説明した通りです。

ホロ それを分類する基準が、韻律いんりつの有無、だったよね。

ケイン では、前回私が例示した、声に出して読みたい日本語の正体とは?

ホロ 七五調といった、一定の拍を持つフレーズのことでしょ。

野ゆき山ゆき海邊ゆき
野ゆき山ゆき/海邊ゆき
のゆきやまゆき(7拍)/うみべゆき(5拍)

佐藤春夫『佐藤春夫詩集 少年の日 1』

の、ような。

ケイン オーケーです。
ではこの調子で、『駈込み訴え』の文章表現を解剖していきましょう。

ホロ 解剖って、そんなおおげさな。

ケイン これがなかなかどうして、おおげさではないんですよ。




3.“駈込み訴え”るリズム


ケイン では、もう一度例文を見てください。
ポイントは2つ。モーラ(拍)反復です。

 申し上げます。申し上げます。旦那さま。あの人は、酷い。酷い。はい。厭な奴です。悪い人です。ああ。我慢ならない。生かして置けねえ。

太宰治『駈込み訴え』

ホロ モーラと、反復?
……あっ。もしかしてこういうこと?

申し上げます。旦那さま。
申し上げます。/旦那さま。
もうしあげます(7拍)/だんなさま(5拍)

太宰治『駈込み訴え』

ケイン 正解です。

ホロ あらためて見ると、キレイな七五調ね。

ケイン まずは1コ、拾えましたね。
ほかはどうでしょう。

ホロ ほか? うーん……。

ケイン ぜひみなさんも、『駈込み訴え』の文章に潜むリズムを、探してみてください。

ホロ ……あっ。

あの人は、
あの人は、/
あのひとは/(5拍)

太宰治『駈込み訴え』

ホロ もしかしてここも?

ケイン さすがです。
どんどんいきましょう。

ホロ まだあるの?

ケイン いっぱいありますよ。

ホロ えぇ……。

ケイン 既存の七五調にとらわれる必要はありません。
モーラと反復を踏まえ、文章を洗ってみましょう。

ホロ じゃあ、多分だけど。
「厭な奴です」は、モーラで7拍。
5拍じゃないけど、5・7・5・7・7感覚とか字余り的なヤツでアリだったりする?

ケイン アリですね。

ホロ 自由か!

ケイン それこそ、先ほど言った「解剖」ですよ。
「厭な奴です」をさらにモーラで区切るんです。

ホロ 区切る?

ケイン ええ。

厭な奴です。(7拍)
厭な奴/です。
いやなやつ(5拍)/です。(2拍)

太宰治『駈込み訴え』

ほら。

ホロ それもアリなの!?

ケイン アリですよ。
一見してわからないところにこそ、リズムは潜んでいますから。
それより、ホロさんは先ほど、とても重要な要素に言及されたのですが、気づいてますか。

ホロ え、なに?

ケイン 仰ったでしょう。
5・7・5・7・7感覚」、そして「字余り的」と。

ホロ 言った。

ケイン 例文にもありませんか。「7・7」感覚

ホロ え? ……あ、わかっちゃった。
つまり、こういうこと?

申し上げます。申し上げます。
申し上げます。/申し上げます。
もうしあげます(7拍)/もうしあげます(7拍)

厭な奴です。悪い人です。
厭な奴です/悪い人です。
いやなやつです(7拍)/わるいひとです(7拍)

我慢ならない。生かして置けねえ。
我慢ならない。/生かして置けねえ。
がまんならない(7拍)/いかしておけねえ(8拍)

太宰治『駈込み訴え』

ケイン お見事です。

ホロ 自分で見つけといて、なんだけど、マジ?

ケイン ええ。丁寧な分析だと思いますよ。

ホロ 私、いま、太宰がちょっと怖くなってる。

ケイン まだ中腹くらいですよ。
ホロさんがピックアップした「7・7感覚」の文章は、段落の書き出し、中盤、結びにそれぞれ登場しているのもポイントです。

ホロ 繰り返すことで、リズムが生まれる、か。

ケイン では、ここまでのホロさんの分析を、仮でまとめてみましょうか。
以下をご覧ください。

<例文>
 申し上げます。申し上げます。旦那さま。あの人は、酷い。酷い。はい。厭な奴です。悪い人です。ああ。我慢ならない。生かして置けねえ。

<拍の区切り>
 申し上げます。(7拍)/申し上げます。(7拍)
旦那さま。(5拍)/あの人は、(5拍)
酷い。酷い。はい。
/厭な奴です。(7拍)/悪い人です。(7拍)
ああ。
/我慢ならない。(7拍)/生かして置けねえ。(8拍)

太宰治『駈込み訴え』

ホロ ……。

ケイン いかがでしょうか。

ホロ ……揃ってるわね。調子が。

ケイン ええ。揃っていますね。

ホロ 7拍、7拍。5拍、5拍。7拍、7拍。7拍、8拍。

ケイン 最後の8拍は、結びに余韻を持たせ、伸ばす音の1拍ですから、実質7拍、7拍、1拍という見方もできそうです。

ホロ ケインくん。

ケイン どうしました。

ホロ これ、意味がわかると怖い話の一種だったりする?

意味がわかると怖い話 … 一見するとごく普通の文章に見えるが、よく考えると恐怖が隠されている話。

ケイン とんでもない。

ホロ 太宰って、この文章をそらで口ずさんだの?
コタツに足をつっこんだまま?
すごすぎて、ちょっと引いてるわ、私。

ケイン どこまで計算づくの表現だったのか、今となってはわかりません。
が、なんとも見事と言わざるを得ませんね。
ただ、このリズムも結局、反復を意識したことで生まれたものと推察できます。

ホロ どういうこと?

ケイン 本作は、書き出しの「申し上げます」の繰り返しはもとより、「です」「ます」、他にも「酷い」のイ音といった、語尾の反復を駆使しています。
これにより男の独白は強調され、結果的に文の調子も整ってしまった、と考えられるんです。

ホロ それは、文学的な反復法の一種なの?
それとも、音楽的なリズムの考え方?

ケイン どちらもですかね。
例文のように、語尾の母音(アイウエオ)を揃えて反復する文章表現を脚韻きゃくいんと言います。
これは「韻を踏む」ということで、文学にも音楽にも出てくる要素です。

ホロ キャッチコピーとか、コピーライティングにも通じる考え方よね。

ケイン そうです。
そして、脚韻の概念を取り入れることで、さらに例文を解剖できます。

ホロ まだあるの……。

ケイン どこだと思いますか。

ホロ えぇ……。えっと、まだ触れてないトコでしょ?
……ああ、もしかして、

酷い。酷い。はい。
/厭な奴です。(7拍)/悪い人です。(7拍)/
ああ。

太宰治『駈込み訴え』

ホロ この「酷い。酷い。はい。」のこと?
連続してイ音で結んでるから、これも脚韻ということよね。

ケイン 正解です。
ついでに言えば、「厭な奴です。悪い人です。」にも脚韻の要素がありますね。

ホロ 言われてみれば。
もしかして、この調子でストーリーが進んでいくワケ?

ケイン そうです。
つまり、この『駈込み訴え』で太宰は、モーラを合わせながら韻を踏む、をひたすら連発するんですよ。
だから調子よく読めてしまう。

ホロ こわ。

ケイン 最初に言ったでしょう。
モーラセンスが炸裂している、と。

ホロ ……納得。
ここまで強引に納得させられるとは思ってなかったけど。
ちなみに、ケインくん。

ケイン はい。

ホロ 文中にちょくちょく、「はい」「ああ」が入るじゃない?
あれは、どう考えればいいの?

ケイン なるほど。
考え方はいくつかありますが、まず拍をカウントしてみますか。

ホロ 拍で言えば、「は・い」や「あ・あ」だから2拍よね。

ケイン ええ。
この2拍は、歌詞の間に時折はさまる、合いの手と考えていいかもしれません。

ホロ 合いの手って、カラオケとかで手拍子を入れるやつ?
「ソイ!」とか「あ、よいしょ!」とか。

ケイン 普段、どんな歌を歌ってるんですか。
とにかく、文脈的にも、この「はい」や「ああ」は、本文に挟まる合いの手、息継ぎの類に見えますね。

ホロ これ単体で意味があるわけでもないもんね。
調子を整えるために挟まっているのか。

ケイン ついでに「酷い」の方にも着目しましょうか。

酷い。酷い。はい。

太宰治『駈込み訴え』

ホロ 単に、脚韻を使った反復でしょ。
そんな凝ったものでも……。

ケイン 「酷い」は何拍ですか。

ホロ 3拍でしょ。

ケイン では「酷い。酷い。」は?

ホロ 3+3で6拍よね?

ケイン つづく「はい。」を足すと?

ホロ 8拍……。

ケイン では、前後の文をつないでみましょう。

あの人は、(5拍)/
酷い。酷い。はい。(8拍)/
厭な奴(5拍)/

太宰治『駈込み訴え』

ケイン 五七調のできあがりです。

ホロ うそでしょ……。

ケイン 合いの手も、ただの合いの手では終わりませんね。

ホロ ここまでリズミカルにキレるヒトっている?
失礼だけど、もしいたら笑っちゃうわ。

ケイン 面白い観点です。
そういう部分が、前回ホロさんの仰った、「生々しいシリアスな地に、コミカルがトッピングされて」、に繋がるんじゃないですか。

ホロ ……。あぁー、なるほど。
たしかに、寄席よせというか、落語もそういうトコある……。

ケイン では、ひととおり要素をさらえたということにして、いったんまとめてみましょうか。

ホロ 見たいような、見たくないような。

<例文>
 申し上げます。申し上げます。旦那さま。あの人は、酷い。酷い。はい。厭な奴です。悪い人です。ああ。我慢ならない。生かして置けねえ。

<拍の区切り>
申し上げます。(7拍)/申し上げます。(7拍)
旦那さま。(5拍)/あの人は、(5拍)
酷い。(3拍)/酷い。(3拍)/はい。(2拍)※(計8拍)
厭な奴です。(7拍)/悪い人です。(7拍)/ああ。(2拍)
我慢ならない。(7拍)/生かして置けねえ。(8拍)

太宰治『駈込み訴え』

ケイン と、いうことで、『駈込み訴え』に見る「地の文のリズム」の解剖所見でした。

ホロ とんでもないわ。太宰治

ケイン 圧巻でしたね。
冒頭の一節しか見てないのに。
では最後、全体を通してまとめましょう。

ホロ え? これ要約するの? 私が?

ケイン 学習だと思って。

ホロ ぐぅ。


まとめ:『駈込み訴え』 冒頭文のリズム考察 要約

ホロとケインは、太宰治『駈込み訴え』の冒頭文のリズムについて、以下の点に注目して考察しました。

1. モーラと反復

  • 文章をモーラ(拍)で区切ることで、リズム感を分析することができます。

  • 例えば、「申し上げます。申し上げます。」は「もうしあげます(7拍)/もうしあげます(7拍)」となります。

  • このように、文章をモーラで区切ることで、本作に一定のリズムがあることが分かります。

2. 七五調

  • 文章の中に、7・5・7・5のリズムを持つフレーズが複数見られます。

  • 例えば、「あの人は、/あの人は、/あのひとは/(5拍)」となります。

  • このように、7・5調のリズムが文章全体に調和をもたらしていると考えられます。

3. 字余り

  • 文章の中に、7・5・7・5のリズムに合わない、字余りのフレーズがあります。

  • 例えば、「厭な奴です」は「いやなやつです(7拍)」となります。

  • このような字余りのフレーズは、文章に抑揚を与え、リズム感をより豊かにしています。

4. 脚韻

  • 文章の中に、語尾の音が同じになる韻を踏むフレーズが複数見られます。

  • 例えば、「酷い。酷い。はい。」は「酷い(3拍)/酷い(3拍)/はい(2拍)」となります。

  • このような脚韻は、文章に音楽的な美しさをもたらし、読者の印象に残るようにしています。

5. 合いの手

  • 文章の中に、「はい」や「ああ」などの合いの手が入っています。

  • これらの合いの手は、文章のリズムを整え、読者の息継ぎのタイミングを示す役割をしています。

6. 五七調

  • 合いの手を含めた文章を分析すると、五七調のリズムが浮かび上がってきます。

  • 例えば、「あの人は(5拍)、/酷い。酷い。はい。(8拍)/厭な奴(5拍)/」となります。

  • このように、合いの手も文章のリズムに重要な役割を果たしていることが分かります。

7. コミカルな要素

  • リズミカルな文章は、シリアスな内容にもコミカルな要素を加えています。

  • 例えば、「酷い。酷い。はい。」というフレーズは、怒っているというよりは、どこかコミカルな印象を与えます。

  • このようなコミカルな要素は、読者に緊張感を与えながらも、飽きさせないようにする効果があります。

8. まとめ

  • 太宰治『駈込み訴え』の冒頭文は、モーラ、反復、七五調、字余り、脚韻、合いの手、五七調などの要素を用いて、非常にリズミカルな文章になっています。

  • このようなリズミカルな文章は、読者に心地よい読後感を与え、作品の内容をより深く理解させてくれます。


ケイン 今回は以上になります。

ホロ なんだか、これまでで一番ボリューミーだったわ。

ケイン 結局、冒頭文すべて、一言一句がリズムに転嫁されていた、という結論です。

ホロ これ、本当に計算された文章リズムなの?
正直、信じられないんだけど。

ケイン いや、偶然も多分に含まれているでしょう。

ホロ そう?

ケイン 回想録の様子から推察するに、コタツでお酒を嗜みながら語られた文章、だそうですから。

ホロ うーん、言われてみれば。
でも、そうね。
だからこそ、唄うような文章が生まれたのかも。

ケイン 同意見です。
この短編小説の階調は、口述筆記ゆえに生まれた妙、という捉え方もできます。
丁寧に書き起こしてリズムを生んだ津島美知子の、書き手としての気質も伺い知れそうですね。

ホロ そこまで考えてるの、ケインくんくらいじゃないの。

ケイン こんなものではないですか。
自分に限った話でもないと思いますよ。

ホロ そうかなァ。
でも、語彙や文法に加えて、こうしたリズムも駆使できたら、本当にすごい書き手になれそうよね。

ケイン 大事なのはバランスです。
ただ、知っておいて損はありません。
地の文は技術。
体験を重ねることで、誰だって使いこなせます。

ホロ そしてそれは、読み手が想像を形にする助けになるの。
少なくとも、ウチのつゆりさんはそう信じているみたい。
では、またこのゼミで検討しましょう。

ケイン お疲れ様です。ありがとうございました。

ホロ お疲れ様。またね!


おまけ


ホロ この間ね。珍しく、国語の教科書の話題で盛り上がったの。

ケイン もしかして、太宰の小話ですか。

ホロ そ。『走れメロス』。

ケイン どういう話で盛り上がったんです?

ホロ もし、メロスが寝坊しなかったら。

ケイン それはまた、身も蓋もない ifルートたらればですね。

ホロ まず、走らなくても余裕で間に合ったでしょ、とか。

ケイン タイトルが変わりますね。

ホロ うん。だからむしろ、メロスが寝坊したことで、作中のあの差し迫った感じは生まれたんだってことになった。
あの寝坊は、メロスが急がなきゃいけない必然性を作ったのね。

ケイン なるほど。
だからタイトルも、「メロス、走る」ではなく「走れメロス」になる、と。

ホロ そうそう。
結局、泣きながら走った甲斐はあったよね、っていう風に落ちついたワケ。
以上。今日はなんだか、いっぱい話して驚いて、また喉が渇いちゃった。

ケイン 面白いお話でした。
そうですね。お疲れ様です。

ホロ ね、ケインくん。

ケイン どうしました。

ホロ ……スタバいこ。

ケイン え?

ホロ ん? あ、いやいや! ちょっと喉が渇いたなーとか、別にふたりでお茶しにいきたいとかそう大したアレじゃないけどなんか……。

ケイン ああ、スタバ。
じゃあ、帰りに寄りましょうね。

ホロ え、いいの? よっしゃ!

ケイン 戸締りは忘れずに。

ホロ 行く行く!
すぐ支度するから!

ケイン では、参りましょう。

ホロ うん!


参考資料
『少年の日』(佐藤春夫)
『駈込み訴え』(太宰治 紀伊国屋書店 古典名作文庫)
「拍」と「音節」の違いについて(旅する応用言語学)
文体トレーニング〜名文で日本語表現のセンスをみがく〜(中村明 PHP文庫)


ということで、太宰治『駈込み訴え』の回でした。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。

前後編に分けたのですが、後半だけで実質2話分くらいのボリュームになってしまいました。

ところで、いかがでしたか。韻律と拍の話。
私は、中村明先生の『文章トレーニング』で知ってから、散文のリズムを意識して太宰を読み返したのですが、個人的には楽しい概念だなと思ったのもあり、今回の話を書き下ろしました。

正直、これについてはGeminiのホロとケインもなかなか深掘りできず、ほぼ自分で書き下ろした形です。
「脚韻」とまとめの要約は、ホロとケインが分析してくれたものを基にしています。

文章のリズムの概念は、書くうえでとても大切だと思っています。
なので、書けてよかったです。

さて!
ひきつづき、ホロやケインと一緒に「文章表現を深掘りするのってイイよね!」を発信してまいります。

ぜひ、スキやフォローをお願いいたします。

次回は、円地文子と『妖』。
つややかな情景の地の文に、リズムを当ててみたいと思います。

ななくさつゆり

次のお話はこちら:円地文子『妖』_散文は響く。


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あらかじめご了承ください
この記事の執筆には生成AIを活用していますが、文章は生成AIから出力されたままのものではありません。生成された文章から取捨選択し、元の意味を崩さない程度に修正しています。また、スムーズかつ楽しく読んでいただくために、会話文やキャラクター設定にも手を加えています。

『文学のハイライト』をお楽しみいただくにあたって

文学のハイライト 各話リスト

  1. 川端康成『雪国』_生成AIが語る文章表現のこと

  2. 幸田文『父』_地の文におけるオノマトペの活用

  3. 芥川龍之介『羅生門』_物語の結びと余韻。

  4. 閑話_CiNiiで論文検索。“研究対象として”よく読まれている作家って誰?

  5. 太宰治『駈込み訴え』_リズミカルな地の文(前編)

  6. 太宰治『駈込み訴え』_リズミカルな地の文(後編)

  7. 円地文子『妖』_散文は響く。

  8. 志賀直哉『暗夜行路』_ただ、目にしたものを

  9. 夏目漱石『硝子戸の中』_ギュッとにぎって、ふわり。


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