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トレーニングとリハビリのギャップ

今回は私がパーソナルジムを開こうと思った1つの大きな要因について書いていこうと思います

それは、「トレーニングとリハビリのギャップ」です

英語の本で"Bridging the Gap from Rehab to Performance"という本がSue Falsoneさんの執筆で2018年に出版されました

題名を日本語訳すると「リハビリからパフォーマンスへのギャップの橋渡しをする」

この著者の方はアメリカ人の女性アスレティックトレーナー(ATC)で、女性で初MLBのヘッドアスレティックトレーナーになるなどの功績を持った方です(ヘッドアスレティックトレーナーとは、MLB1チームには数人のアスレティックトレーナーやマッサージ師などが常駐しますが、そのトップという意味です)

内容自体もとても面白いので興味のある方は是非読んで頂きたいのですが、この本が出版された時に、私もちょうどこのnoteの題名の「トレーニングとリハビリのギャップ」について考えていたところでした

その当時、私は神戸製鋼ラグビー部にてアスレティックトレーナーとして勤務し、主に選手の日々の身体のケア、怪我や手術から競技復帰までのリハビリ、リコンディショニングを担当していました。リコンディショニングとは練習や試合には参加出来るが痛みや怪我を抱えており、より個別に対応しなければいけない選手の選定や対応の事をここでは指します(例えば腰痛持ちの選手に対して、セルフケアの指導・習慣化、ウエイトトレーニング時の種目選定やテクニック指導などを行なったりします)。私の業務の中では特にリハビリとリコンディショニングの比重が大きかったです

選手にとっては怪我をしないで練習や試合に出続けることが何よりです。特にラグビーは選手寿命も短く、大学を卒業して22歳で入部しても10年続けられる人は少ないです。それは選手間の切磋琢磨の末になかなか試合に出れずに引退をする選手もいれば、怪我で引退を決める選手もいます。この短い選手寿命の中で、大きな怪我(例えば前十字靭帯断裂)では1年間試合に出れないという事もあります。ですので、予防できる怪我はなるべく防ぎたい

もし怪我をしてしまった場合、起こったことは変えられないのでリハビリをして同じ怪我の再発をしない・させない、怪我をすると身体の他の部位も怪我をしにくくなるので身体全体の機能を高めて他部位の怪我も防ぐ、リハビリから競技へ復帰した時には怪我前よりいい身体の状態にする。選手が怪我をしたらリハビリをして競技復帰を目指すのは1つの目標ですが、同じ部位でも違う部位でも「怪我の予防に繋げる」という事もリハビリの目標の1つとして取り組んでいました

リコンディショニングも同じ様な目的がありました。選手の怪我や痛みは練習や試合には参加出来るものの、そのまま続けていくと悪化する可能性もあり、大きな怪我に繋がる場合もあります。そして痛みを抱えながら練習をするという事は、100%で練習が出来ない場合もあり、それは選手のパフォーマンスやコーチからの評価、試合へのセレクションへの影響、ひいては選手生命の長短にも関わってくる可能性があります。練習や試合は全力で行える様に、そして練習が出来なくなる様な怪我は未然に防げる様に、その様な事もリコンディショニングでは目標にしていました

ですので、リハビリもリコンディショニングも、「怪我を予防する」という共通する箇所がありました

話は少し逸れますが、予防に関してはこの時だけでなくアメリカでまだ学生だった2011年頃から重点的に取り組みたいと考えていました

その思う様になったきっかけは、アメリカにいたのでネットニュースで知ったのですが、小学生が学校で運動をしてる際に倒れ、死戦期呼吸となりました。この状態であれば直ぐに救急車を呼んだり、AEDを取り付ける必要がありますが、この小学生の場合は周りの教師が死戦期呼吸が異常とはわからず、AEDも学校にはありましたが使用されませんでした。救急車も呼ぶが遅れ、結局その小学生が倒れてから17分後に救急車が到着しました。死戦期呼吸では脳に酸素が足りていない状態で、心停止などで脳に酸素が送られない状態が1分続くとその後の生存率は10%ずつ下がると言われています(大まかに3分では生存率70%、5分では生存率50%の様な計算です)

これは誰の問題というよりも、システムの問題が大きいのだと思っています。そして残念ながらこの小学生の子は命を落としてしまいましたが、この様な事は学校の体育の時に、部活動の時に、運動会や地域のクラブチームなどでも起こり得ます。調べてみると、他にも高校野球の練習試合中に投手の高校生が雷に打たれて亡くなった事例などもあります。スポーツや運動中の熱中症は雷での事故死は100%防げるとも言われています。突然の心肺停止などは、最善策を尽くしても救えない可能性もありますが、起きない様な予防や起きた時にどうするかといった策は講じてあるべきです。この様な事故は「スポーツ中の突然死」などど呼ばれる時もありますが、これらを防げるものは防ぎたい。これが私が予防に関してより取り組みたいと思った最初のきっかけです

話を戻しますが、そのスポーツ中の突然死予防に関しての思いが、色々な職場やチームを経てリハビリなどを主に行う様になり、怪我予防への思いも強くなっていきました

「どうすれば防げる怪我を予防できるか」

ラグビーでしたので、「試合中に相手からタックルを受けて骨折」などの怪我は、例えばタックルの受け方やポジションなどで防ぐ事は出来るかもしれませんが、防げる可能性は大きくないと思います。それよりも、ランニング中のハムストリングス(裏もも)やふくらはぎの肉離れ、ステップやカットという相手を抜き去ろうと横に動いた時の前十字靭帯断裂、これらは防げる可能性が骨折などよりは高いです

この様な怪我予防として、柔軟性の向上、筋力アップ、可動性の向上、心肺能力のアップ、栄養、食事、睡眠、リカバリー、身体のケアなど多くの事が絡んできます。その中でアスレティックトレーナーとしてコントロール出来る部分、出来ない部分もあります(例えば選手に睡眠は8時間以上とる様に伝えても、色々な事情でそれが出来ない場合もあります)

私たちがコントロール出来る部分で、より怪我予防の効果が高いもの

現状では、それはトレーニングだと考えています

この場合のトレーニングは、もちろん練習での負荷の強弱・時間の長短も重要ですが、それよりもウエイトトレーニング(筋力トレーニング)の様なトレーニングを指します。ここでトレーニングと言った理由は、それは単に筋力アップの為のウエイトトレーニングが怪我予防にはより必要という事ではなく、トレーニングにおいて身体の使い方、身体のコントロールの仕方、身体の感覚の養い方などを得る事が怪我予防において重要だと考えているからです

トレーニングにおいて身体の使い方を学ぶ際には重いバーベルなどを扱わない方がいい場合もありますし、うまく身体をコントロール出来ている場合は重い負荷をかけても、身体をうまくコントロールする様なトレーニングが必要な場合もあります

そして、なぜこのトレーニングが怪我予防により効果が高く重要だと思ったのか

その理由はリハビリにあります(ここでやっと題名の「トレーニングとリハビリのギャップ」に繋がります笑)

選手が怪我をした場合、多くの場合はアスレティックトレーナー(AT)や病院の理学療法士がリハビリを、そして回復してきたらストレングス&コンディショニングコーチ(SC)がトレーニングなどを担当します(例として、膝の怪我をして曲げ伸ばしが出来ない状態であれば、膝の曲げ伸ばしの回復をATが、それが出来てスクワットなどが出来る様になったらトレーニングはSCが行う様なイメージです)

SCはウエイトトレーニングやフィットネストレーニング(心肺能力を高めるトレーニング)の指導、試合の時にトップパフォーマンスを出せる様に練習量を調節するなどスポーツ科学の知識と経験を持つ専門家です

この様に怪我から競技復帰までは、回復具合で担当制になる場合がほとんどです

選手が怪我から回復し、復帰、そして再発や他の部位の故障もなければ、それは素晴らしい結果です

ただし、担当制の場合の弊害が出てきてそれが選手に影響を及ぼす場合もあります。この場合の弊害というのは、復帰途中で怪我が再発したり、痛みが出たり、他の部位を怪我する事です。こうなると復帰が遅れ選手寿命にも影響が出てきます

この弊害の原因はいくつか考えられます。先程の例で言えば、ATが膝の曲げ伸ばしを最後までやりきれずに、膝がうまく曲がらない状態でSCがスクワット指導を行ってもうまくいきません

ですが、ここでは表題の「トレーニングとリハビリのギャップ」が原因の場合について書いていきたいと思います。これが私がパーソナルジムを開こうと思った大きな要因の1つです

ATがリハビリを行う際、大きな怪我になればなるほど選手と過ごす時間は長くなります。それゆえに選手の身体のチェックも全身にわたり、この選手の身体はどうなっているか、どういった動きをするか、そして怪我からどの様に変化していったかが分かります。また、リハビリをする選手だけではないですが、選手の今までの怪我や手術もチェックします(これは既往歴と言います)。これは一度怪我をしたら、また同じ様な怪我をする可能性が高くなったり、手術をしていれば関節が硬くなったり感覚が麻痺していたりする場合があるからです。そして受傷起点(どうやって怪我が起きたかという意味です)も入念にチェックし、また同じシチュエーションにならない様に、もしそうなっても次回は怪我をしない様にリハビリを進めます

この様に選手の身体の特徴、各関節の可動性、身体の感覚、今回の怪我や既往歴から新しい怪我や痛みに繋がる可能性の高い動き方などを考慮して、リハビリで実施する種目や方法などの選定を行なっています。この怪我にはこの種目、この時期にはこの種目という選定方法もありますが、人の体は十人十色なのでより個人別に必要な事を行う様にしています

これらの情報、そしてこれらを実施しての選手の身体の変化は、リハビリでもトレーニングでも非常に重要になってきます

というのは、身体の使い方や動かした時の感覚、関節の可動性などは継続しないと失われてしまいます。例えば、足首の怪我でリハビリをし、足首の可動性を改善したとしても、ストレッチやリリースなどを継続しなければ可動性は低下します。リハビリというのは多くの選手は怪我から競技に復帰したら終わりだと思ってしまいます。リハビリという名前自体は終わってもいいのですが、その内容自体も終わってしまうと競技復帰を果たしても怪我の再発のリスクなどが高まります

その点、トレーニングというのは選手が競技を続ける以上、継続して取り組みます

ですので、継続して何かに取り組むという点ではトレーニングは非常に重要になってきます。しかし、ただトレーニングをしていれば怪我予防の効果が期待できる訳でもありません。私は先程のリハビリの様に、トレーニングも細かい点を考慮しながら個人別に、必要なところに焦点を当てて行なった方が怪我予防に繋がると考えています

これは先程の足首の捻挫を例にすると、リハビリで足首の可動性を上げた後にトレーンングに移ったとすると、その足首の可動性をより改善もしくは維持する必要があります。これはトレーニングで足首の可動域を大きく使う様な種目があれば、その可動性維持・向上が期待出来ます。例えば深いスクワットなどは足首も大きく曲げる(背屈と言います)ことになり、その可動域向上に役立ちます。そしてただ深いスクワットを行うのだけではなく、その質も重要になります。この場合であれば、足首の背屈という動きでなく他の関節を代償的に使用しても、深いスクワットは可能になります。ただ、それでは可動性を維持したい動き・関節が動いている訳ではないので、また可動域が狭くなってしまいます

この様に怪我予防では、個人別に必要なことに焦点を絞った、代償の少ない質の高いトレーニングを継続的に行う事が最も効果があると私は考えています

しかし、リハビリ中の選手がトレーニングに移った時に、リハビリで行なった事がうまくトレーニングに移行できず、トレーニングでも十分な成果が出せない→復帰が遅れる、痛い箇所が出る、怪我が再発するなどに繋がる場合があります

この理由は
1 単純にATとSCのコミュニケーション不足
(リハビリではこうゆうことを行い、こうゆう動きの癖があり、この関節が硬い等の情報共有不足、ただしこれが一番解決するのは難しいと感じています)
2 チーム所属だと、トレーニングもチームと同じものをやるべきという考えもあり、個人別の種目が難しい場合もある
(チーム全員が同じものをやる事でチームとしての一体感を作るという考えは尊重しています)
3 怪我人のトレーニングは個人別でSCが見るものの、怪我人の人数や時間の関係上、詳細まで詰めて常にチェックしながら行う様なトレーニングは難しい

上記の様な事が理由として挙げられます

私の現状の考えでは、トレーニングも”個人別に必要なことに焦点を絞った、代償の少ない質の高い”ものにした方が怪我予防には効果が高いとの実感もあり、それを推奨しています

ですので、ここでギャップが生まれます

リハビリでは個人別で行なっていた事が、トレーニングではそれが少し薄まる

全ての場合でこうなる訳でもないですし、こうなったから怪我が起きるという事でもないですが、リハビリもトレーニングも同じ1人の選手を見ている以上、その個人個人に合わせて行う方が怪我予防に役立つと感じています

特にこの個人別に取り組んだ方がいいという感覚は、年齢が上がったプロ選手であればあるほど強くなります。というのも、高校生などであれば、まだ大きな怪我もなく、どんなトレーニングも新鮮で成長していきますが、プロ選手ほどになると今までの怪我も多く、それにより身体も一人一人大きく違ってくるからです

私は、このトレーニングとリハビリのギャップを埋めるにはどうするべきか考えた結果、自身でパーソナルジムを開いて選手や患者さんのリハビリもトレーニングも行うという結論に至りました

違う投稿でも書く予定ですが、トレーニングとリハビリを分けて考えるのもどうなのかと思う節もあり、よりトータルで選手はクライアントをサポート出来る様にという考えもありました


Athlete Sustainabilityという言葉があります
直訳では「選手の持続性」などど言われますが、1人の選手が継続して試合や練習に参加出来る、試合の際に怪我が理由でセレクションに入る事が出来ないという状態を少なくしようという動きです

プロチームでは怪我によって1つの試合に出場できない選手を%などで評価をする場合があります(例えば50人の選手がいて、今週の試合に怪我が理由で出れない選手が5人いれば、それは10%(5/50)という計算です)

選手が継続して試合や練習に参加出来る様にする為にも、怪我予防というのは非常に重要です。そしてそれを達成するためには、トレーニングとリハビリのギャップを埋める必要があり、その為には私はパーソナルジムを開くことにしました

そしてこれは何も怪我をした選手のリハビリとトレーニングだけの話ではないと思っています

一般の方の例えば肩こりや腰痛・膝の痛みなども、その原因は千差万別、身体の動かし方や感覚もそうです。マッサージなども重要ですし、効果はありますが、ご自身でのケアやリリース・ストレッチなどを行わないと再発する場合が多いです

その場合にも重要になってくるのがやはりトレーニングです。ですがこのトレーニングは重い負荷をかける様なトレーニングだけではなく、身体の使い方や感覚を養う事が大事な場合が大きいです。階段の上がり方やその時の身体を動かす感覚次第で、痛み予防やご自身の身体の状態のチェックにもなり得ます

身体のケアやほぐしだけでなく、リハビリだけでもなく、トレーニングだけでもない、全て繋げて1人1人のお悩み解決や目標達成のサポートをさせて頂く

Calantはその様なパーソナルジムです

Calant Sports Rehab & Performance
代表 爪川慶彦
www.calant.org




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