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オレンジ色の象

「この象さんも昨日誕生日だったのかな。お鼻に生クリームがついてるみたい」

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街が静まり返り、ぼくの1日が始まる。日が登る前にはお店に戻らないと。
今日のお目当は、いちごパフェだ。パフェパフェパフェ。
どうやら、行きつけのデニーズが、閉店になるらしいのだ。
コロナとはかくも恐ろしい。
ファミレスにまで大打撃を与え、ぼくからパフェを奪おうとしている。

オレンジ色の象は、夜空を飛んでいく。
今日は、代々木駅近くのデニーズまで。


昼間の、ぼくの仕事は、
ずっと、お店の前に立っていて、
元気良くお客さんを迎えること。
しゃべれないけど。

若く見られるけど、ぼくは1959年生まれ。
昔は、夜中に自由に動き回っても、
お店はどこも閉まっていたから、
飛び回って遊んだ。

仲間で集まると、「いたいの集め」をしたものだった。
夜空に飛んでいる「いたいのいたいの」を誰が1番多く集められるかを競う遊びだ。

ファミレスやコンビニ、
24時間営業のお店が増えてからは、
それぞれが好き勝手、食べ歩くようになった。

マスクが必須になったのは難儀だ。
うちには、マスクはどこよりも大量にあるんだけれど、
どうしても鼻が、人間用のものでは息苦しい。
鼻の形も目立ってしまう。
象用マスクを誰か作ってくれないかな。

デニーズに着くと、ブラインドの降りた窓際の席に行く。
鼻をじろじろ見られるのも、面倒だから。
この時間まで愛想をふりまくのはつらい。

いちごパフェが運ばれてくる。
花のように並べられいちごが見た目にも美しい。
でも、コロナがぼくからこのいちごパフェを奪ってしまう。
いろんなものをこれ以上、奪われたくなくて、パフェのいちごは最初に食べる。

フレークで遊んでいると、いつの間にか、朝焼けの気配。
鼻に無数のフレークがくっついてるけど、
ぼく、戻らないといけない。

オレンジ色の象は、朝焼けの光を浴びて空を飛んでいく。
朝にはちゃんと薬局にいないと。

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