見出し画像

天敵彼女 (26)

 俺は、階段を上っていた。

 さっき奏と廊下で別れ、後ろでリビングドアが閉まる音を聞いた。

 うちの階段は、リビングとは廊下で区切られている為、通常ここまで話し声が漏れてくることはない。

 ないはずなのだが、俺は甲高い声に耳をやられそうになっていた。

 どうやら、緊張の糸が切れた都陽という子が何やら喚いているようだ。

 俺もかなり緊張していたが、都陽という子はそれ以上だったのだろう。

 何を言っているのかまでは分からないが、何やらピーピー言っているのだ
けは分かる。

 やはり高音は響く。一般的に大柄な人の声は低く、(自主規制)な子の声
は高いようだが、これは殺人音波級だ。

 俺は、階段を駆け上がり、急いで部屋のドアを閉めた。

 それから制服から部屋着に着替えると、ベッドに腰かけた。

 カーテンを開ければ奏の部屋が見えるが、外を見る気にはなれなかった。

 俺はベッドに寝そべり天井を見上げた。

 そろそろ戻らないといけない。

 正直、余り加わりたくない類の話し合いだが、スルーする訳にもいかな
い。

 奏の友人が両親同伴でうちに来ている。母親は通り一遍の挨拶だったが、
父親は開口一番迷惑をかけたと俺に詫びてきた。

 面識のない俺にいきなり謝罪から入るという事は、例のストーカー関連と
しか思えない。

 そういえば、元実習生に奏の連絡先を漏らした友人がいたような……。

 もし、その友人とやらがさっきの小さな子だとしたら、あの父親の態度も
頷ける。

 しかし、どうしても分からない。

 都陽という子は、本当に高校生なのか?

 制服は借りものじゃないのか?

 俺の中に拭い去れない疑念が残っていたが、一旦心の奥にしまうことにし
た。

 この件は危険だ。タブーに触れるかもしれない。

 天敵の身体的特徴をあげつらうのは、余りにもリスキー過ぎる行動だ。予
想外の反撃を喰らわないためにも、余計な事は言わないようにしようと思っ
た。

 俺は、何があっても都陽という子の「見た目幼女問題」にだけは触れては
ならない事に気付いた。

 でも、それに触れないでどう話をしたらいいんだ?

 俺は、頭を抱えた。全く考えがまとまらないままだったが、余り待たせる
のも失礼に当たる可能性がある。

 俺は、不穏な気配を感じつつ、リビングに向かった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?