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天敵彼女 (53)

 あれから俺は、うだうだ悩んで、気が付けば眠っていた。

 かろうじて目覚ましをセット出来ていたので、寝坊はせずに済んだ。

 今朝の朝食は、縁さんが作る番だ。

 俺は、眠い目をこすりながらリビングダイニングに向かった。

「おはようございます」

「あっ、おはよう。少しは眠れた?」

「ええ、何とか……」

「昨日はごめんね。普段できない話だったから、つい止まらなくなっちゃって……」

「いえ、参考になりました」

 それは偽らざる本音だった。

 昨夜、縁さんと話が出来たおかげで、俺の中の問題が整理されたのは紛れもない事実だ。

 まだ、頭の中がこんがらがっている状態だが、現時点で言えるのはこんな感じだ。

 まず、子供だからと色々な事を諦めている俺達だが、大人になったからと言って自動的に問題が解決する訳じゃないらしい。

 子供が大人にクラスチェンジしても、人間の限界はすぐそこにあり、個人が出来る事は限られているからだ。

 結局、世の中は質の悪いパッチワークのようなもので、どこに落とし穴があるかなんて誰にも分からない。

 社会が不完全である限り、他人は敵にも味方にもなる。

 もしかしたら、性別だけが問題じゃないのかもしれない←今ココ。

 でも、だからと言って、俺の中のトラウマは簡単になくなるものではない。

 そもそも、俺は奏からすれば両親の離婚の原因を作った女の息子だ。

 俺の思い込みかもしれないが、何の背景もない相手よりも、お互い失敗した時のダメージが大きいと思う。

 俺達の関係が天敵モードになってしまったら、俺も奏も二度と異性が信じられなくなってしまうだろう。

 その不安がある限り、俺はきっとどこまでもヘタレてしまうんだろう。

 それでも、今は奏の為に出来る事をしよう。

「そろそろ食べないと遅刻するよ」

「えっ?」

 気が付けば、縁さんも父さんも仕事に出かけていた。

 俺は、急いで朝食を食べると、慌てて食器を洗った。さすがにもう出かけ
ないとまずい時間帯だった。

「もう行くよ」

「う、うん」

 俺達は、多少焦りながら玄関を出た。こういう時、ホームセキュリティーのセットが地味にメンタルを削ってくる。

 失敗すると大騒ぎになるだけに、時間がないときは本当に気忙しくてたまらない。

「大丈夫?」

「うん、何とかセット完了」

「じゃあ行こっか?」

「うん」

 奏が鍵を閉める間、俺は周囲を警戒した。

 もうここは外だ。まだ考えがまとまらないままだが、そんな事を言っている場合じゃない。
 
 俺は、道路側を向いたまま奏に確認した。

「鍵かけた?」

 ガチャガチャと音がした後、奏の返事。

「うん、大丈夫。今日はどうする? 並んで歩く?」

 俺は、思わず振り返るとぽつりと呟いた。

「いいよ。今日からそうしよう」

「やったぁ!」

 ちょっと小走りになった奏が、俺の横に立った。いつもより距離が近いが、今はそれどころではなかった。

 俺は、奏の目を見た。しばらく見つめ合っていたい気もしたが、もう余り時間がない。

「ちょっと急ぐけどいい?」

 奏が頷いた。俺が歩き出すと奏も歩き出した。俺達は、速足で学校に向かった。


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