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中華街で手相を見てもらった話

【横浜中華街で手相を見てもらったときのことを話しているだけの雑文】

 私は悩んでいた。
 横浜中華街を訪れたある日のことである。

 ライブ遠征ついでの観光であった。新横浜ラーメン博物館でラーメンを食べ、横浜中華街で花文字を描いてもらい、焼き小籠包と肉まんを食べ、お土産屋さんや関帝廟を見て回り、一息ついた頃には夕方になっていた。

 さて、どうしたものか。
 この日のライブ会場は、中華街から歩いて行ける距離にある。さりとて移動するには早すぎる。本当は鶏排ジーパイーー台湾屋台でお馴染みのフライドチキンであるーーが食べたかったのだが、お腹の具合で断念した。それにしても、中華街で鶏排が幅を利かせているとは思わなかった。なんというか、そう、ここはもっと大陸的な場所だと思っていた。

 ここを離れる前に、なにかもうひとつくらい楽しみが欲しい。そう思ったとき眼に飛び込んできたのが、「占い」の文字だった。
 横浜中華街、とにかく占いの店が多い。特に手相占いが多い。しかも安い。5分程度の短いものだが、なんと500円で見てくれる。初めは興味もなかったのだが、そこまであるなら見てもらおうじゃないかという気になってきた。時間も半端に残っていることだし。

 さて、見てもらおうとは決めたものの、どこにしようか。店が多すぎて決め手に欠ける。うろうろと彷徨い、やがてある店の前を通りかかったとき、呼び込みのおばさまが私に笑顔を向けた。
「おかえり!」
 面食らった。確かにこの店の前を通るのは2回目である。が、私とて伊達に観光客をやっていない。それらしい客に片っ端から声を掛けているのだろうと考えた。何度もうろついていれば、2回や3回通る人がいても珍しくはないだろう。数打ちゃ当たるというやつだ。私はおばさまに微笑みかけて、きちんとスルーした。
 しかし。次に同じ店の前を通ったとき、おばさまは再び私に呼びかけた。
「三度目の正直で、うちに着地しましょ!」
「な、なんでわかったんですか!?」
 遂に叫んで足を止めた。さすがに3回目だと見破られてしまっては、個人識別されていると言わざるを得ない。
 私は敗北した。完全におばさまの勝利である。なんとなく目に留まって覚えていた、とにこにこしていらしたが、これはこれで縁というものだろう。占いなのだから、そういうものに従うのも悪くない。

 カーテンで区切られたブースに案内された。5分で手相だけ見ると500円、誕生日なども絡めて見ると1000円、そのほかにもいろんなコースがあったが、手相だけをお願いすることにした。
「手、冷たくてすみません」
「大丈夫ですよー私のほうが冷たかったらごめんなさいね」
 私が両手を差し出すと、占い師さんは5分のタイマーをセットした。良心的である。

 鑑定結果は以下の通りである。

・結婚したら良妻賢母になる。家庭を守りたいと考える。
 この言葉を聞くなり「守れる気がしないので独身を貫く腹を括りました!」と宣言したところ、以降の話はほとんど仕事や私自身の話に振ってくれた。なんというか、プロである。

・大器晩成型。頑固。
 ますかけ線というやつがあるらしい。あとで調べたところ珍しい手相らしく驚いた。
 長く働きたいタイプだと言われて素直に頷いた。社会との繋がりは大事だと思う。あとお金も。

・人の話をよく聴いて、仲を取り持つことが得意。
 傾聴力がある。例えば将来カウンセリングなどの資格を目指しても成功できるだろうと言われた。
 口には出さなかったが、前職がまさにそういう仕事だったのでなんともいえない気持ちになった。私はきっと、その仕事に向いていたのだと思う。けれど耐えられなくなって潰れかけた。そう思うと、喜べば良いのか悲しめば良いのかよく判らなかった。ただ、現職にも「人の話をよく聴く」要素はあるので、そこで活かすことができれば良いのだと思うことにした。

・繊細。
 掌に細かい線が多い人は繊細だそうである。
 少し前に「HSP(繊細さん)」という言葉が流行ったが、私はこれに典型的といって良いほど当てはまる。こんなところでも繊細だと言われるのか、と妙におかしくなった。

・お金はあれば使ってしまう。
 いやそんなことはない、貯金はそこそこできていると反論しかけたところで、ここしばらくの遠征回数を思い出し沈黙した。去年1年間の収支が黒字で済んだのは奇跡に近いと思っている。今年は気をつけなければならないーーと、遠征先で誓ったところで説得力がないのだが。

・若く見える。凜とした品の良さがある。
 品の良さはともかく、若く見えるについては心当たりがあった。若い頃は老け顔で、現在のほうが若く見えるのである。顔が変わらないというか、年齢が顔に追いついたというか。
 いわゆる「美魔女」を狙えるそうだ。ならば早速エイジングケアを頑張らねば。まずは保湿から。

・下腹部が弱め。
 胃腸は強いつもりなのだが、婦人科まわりは一時期苦労した。これからも注意したほうが良さそうである。

 改めて見てみると、漠然と「これから先の未来」に良いことがありそうな気がした。なんといっても、大器晩成で、美魔女の素質ありである。良い話を聴くことができた。

 ところで私は関西人である。関西人、なにが駄目かといえば、喋ると一発で見抜かれる。関西弁が隠せないのである。
「今日は観光ですか?」
「はい、でもこのあと予定があるので、そろそろ移動しようと思います」
「どこかへ行かれるんですか」
「実はライブがあるので遠征してきました」
「まぁ! それはつまり、『推し活』ってやつですね」
「そ、そうです!!!」
 とても可愛らしい笑顔で「推し活」と言われてしまい動揺した。なんだろう。「推し活」という単語には、「遠征」「参戦」にはない若さがある気がする。
「ライブ楽しんでいらしてくださいね!」
 占い師さんに見送られ、私は横浜中華街をあとにした。

 推しのライブは最高に最高だったことを、最後に書き添えておこうと思う。

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