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小説を書くときの描写の話

【小説を書くとき気をつけていることについて考えているだけの雑文】

 先日、久しぶりに二次創作小説を書いた。

 二次創作といっても、漫画やアニメをもとに物語をつくったわけではない。友人が書いたマーダーミステリーのシナリオを元に、その一場面を小説に書き起こしたのだ。つまり、友人の物語を借りて、文章で飾り立てていったわけである。物語の枠組みはあくまで友人の頭の中にあり、いわばそれが「正解」だ。

 一から十まで自分で物語をつくったわけではない。だから当然、小説に書き起こすときの頭の使いかたが違う。違うのだけれど、その違いは、私が小説を書くときのこだわりを反映しているのではないか。骨組みを誰が書こうとも、最終的に小説を書いているのは私なのだから。

 それを自覚したので、書き残しておこうと思った次第である。

 友人からの依頼は、「登場人物AとBの会話場面で、Aの心情を掘り下げてほしい」というものだった。会話の概要はシナリオに書かれているものの、全体からすれば本筋ではないため、心情は詳しく書かれていない。そこを埋めてほしいというのが友人のオーダーだった。
 私は心情描写が好きである。腕が鳴る。

 小説化をするにあたって、私がまず初めに尋ねたことは、登場人物の衣服の詳細――であった。
 例えば色や柄。作者たる友人の中で、どのようなイメージになっているのか。あるいはこだわりが無いのか。こだわりが無ければ自由に描写して良いということだから、「決まっていない」というのは立派な情報である。

 だいたい私はそうなのである。本筋とは無関係な情報を詰めにいく。
 なぜなら登場人物たちにとって、その情報は当然に既知で、その情報をもとに考えたり感じたりするはずだからだ。
 その些細な描写を挟むことによって、登場人物や物語世界が立体的になる、と思う。

 例えば白い服なら汚れを気にするだろう。黒い服なら影のようだと思うだろう。
 例えば髪が長ければ、風で大きくなびくだろう。例えば十階の部屋にいるならば、窓から木は見えないだろう。例えば昼前の出来事ならば、空腹で落ち着かないかもしれない。

 すべて自分で書くならば、私が自由に決めて良い。なんなら書きながら詰めていけば良い。あらかじめ決めているのは骨組みだけで、それにどう肉付けするかは本文執筆時に考えることだ。
 けれど二次創作だとそうはいかない。そもそも、「その情報は確定しているのか」がわからない。だから尋ねる。そのときどんな服装でしたか? 決まっていますか?
 決まっていればもちろん従うし、決まっていなければ私の裁量で描写する。世界観を壊さない程度に。

 ちなみにこの手の設定でだいたい問題になるのが人称である。AはBをなんと呼ぶか。CやDはどうか。書いてあれば良いが、どこにあるのかわからないことがある。明記されていないこともある。あるいは、作者自身でさえ気にしていないこともある。そのたった一言を探すために、資料や原作を何度も読み返すことがある。そんなことを繰り返しているので、実は執筆時間よりも、原作を読んでいる時間のほうがたいてい長い。
 余談だが、件の友人は各登場人物同士の呼びかたを表にまとめてくれていたので、たいそう助かった。

 こうして考えてみると、私のこだわりは「登場人物が知覚できることを、わざとらしくない範囲で描写する」ということなのかもしれない。

 私たちは、現実に誰かと話をするとき、話の内容以外にもたくさんの情報を拾っている。旅行の計画について相談するとき、前回の旅行のハプニングを思い出したり、相手が新しいアクセサリーをつけていることに気付いたり、部屋の暑さが気になったり、コーヒーのおかわりを注文しようかと悩んだりする。
 本筋と関係ないそういう描写を挟むことによって、文章が単調で説明的になることを避けられる、と思う。それは小説であれ随筆であれ、散文であれば同じだ。私はこういうところでリズムをとっているらしい。

 一次創作であれ二次創作であれ、プロットを立てた段階で、物語の筋は決まっている。それを文章という方法で表現する場合の決まった工夫が、文体というものなのかもしれない。

 あまり自分の文章について意識したことはなかったのだが、この気づきは面白いなと思ったので書き残してみた。

 文章を書くみなさま。あるいは、私の文章を読んだみなさま。
 自分のことでも私のことでも、お気づきのことがあれば教えていただけると嬉しい。ものづくりの裏側は、覗いてみると存外に面白いものだ。

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