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『ゲノムが語る生命像 現代人のための最新・生命科学入門』本庶佑(著)

(1)進化 を 考える 上 で 重要 な 点 は、 遺伝子 の 変異 は 個々 の 細胞 で 起こる が、 子孫 に 伝え られる のは 生殖細胞 の遺伝子 に 起き た 変異 だけで ある という こと で ある。 一方、 自然選択 は 個々 の 個体 に 働く が、 その 選択 の 結果 が 集団 内 に 定着 する か どう かが 鍵 と なる。 したがって 進化 を 分子 レベル で 説明 する ため には、 生殖細胞 の 中 における 遺伝子 の 変異 を 説明 する と 同時に、 大きな 集団 の 中 における ダイナミック な 生存競争 をも 説明 する 必要 が ある。


(2)DNA の 成分 には たった 4 種類 の 塩基 アデニン( A)、 グアニン( G)、 シトシン( C)、 チミン( T) と、 1 種類 の 糖 デオキシリボース と リン 酸 しか 含ま れ て い ない。 


(3)ゲノム は 有限 な 遺伝情報 量 を 持つ に すぎ ない。 それ にも かかわら ず、 ゲノム 情報 によって 動かさ れ て いる 生命体 の 活動 は、 まさに 無限 とも 思える ほど 複雑 で ある。 その 仕組み の 解明 こそ、 今後 の 生命科学 の 課題 で ある。


(4)生命 の 基本 的 な 働き は、 まず 第一 に 自分 と 同じ もの を 作り、 子孫 を 増やす こと( 自己複製) が あげ られる。 細胞 は 両親 から 1 組 ずつ の ゲノム を 受け継い で いる( 2 倍 体)。 細胞 の 複製 には、 まず 父親 と 母親 それぞれ の ゲノム の レプリカ( 複製)を 作り 4 倍 体 と なっ た 後、 細胞分裂 によって 前 と 同じ 1 組 ずつ の ゲノム( 2 倍 体) を 持つ 細胞 が 2つ 生じる。


(5)生命体 の 第二 の 特徴 として は、 自分 で 新陳代謝 を 行う こと で ある。 細胞 は 栄養分 を 取り入れ、 エネルギー を 獲得 し、 細胞 を 一定 の 状態 に 保つ よう に 自己 制御 する こと が できる( 自律 性)。


(6)第三 に、 生命体 は 外界 に 反応 する こと が できる。 細胞は みな 細胞 表面 に、 多数 の レセプター( 受容体) を 持っ て おり、 テレビ や ラジオ の アンテナ、 あるいは 双眼鏡 の よう に、 さまざま な 情報 を 外 から 細胞 内 へ 取り入れる こと が できる。 この 結果、 細胞 は 外界 の 変化 に 対応 し て、 自ら の 内部 環境 を 素早く 変化 さ せる こと が できる ので ある( 適応性)。


(7)細胞 を 構成 する 化学物質 として は、 遺伝子 で ある DNA の 他 に、 タンパク質 が 重要 で ある。 タンパク質 は 20 種類 の アミノ酸 が、 さまざま な 順番 に 連結 さ れ て できる が、 その 結果 として、 複雑 な 機能 を 持つ 多様 な 分子 を 作り出す。


(8)ヒト の ゲノム は、 細胞 1 個 あたり 2 メートル にも なる。 この 長 さ 2 メートル の 糸 は、 直径 数 ミクロン から 数 十 ミクロン の 細胞核 の 中 に、 糸巻き の 芯 の よう な ヒス トン タンパク質 の 周り に 巻き付く 形 で 約 1 万 倍 の圧縮率 で 折りたたま れ て いる。 細胞分裂 の とき に 染色体 として 光学顕微鏡 で 見える もの は、 これ が きわめて 凝縮 し た 形 で ある。


(9)ヒト では 23 対 の 染色体 が ある が、 その うち 22 対 を「 常染色体」 と 呼び、 残る 1 対 を「 性染色体( X と Y)」 と 呼ん で いる。 X X 型 が 女性 で あり、 X Y 型 が 男性 で ある。 しかし 当然 の こと ながら、 性 を 決め て いる のは 染色体 では なく、 染色体の中に組み込まれている遺伝子である。


(10)「ゲノム工学」あるいは「組換えDNA技術」と呼ばれるものの基本は、遺伝情報のテープを自由自在に編集する技術である。今日ではテープの暗号を解読し、人工的に遺伝情報を合成することも、また、異なる新しい遺伝子を作り出すことも可能である。


(11)分化した細胞を4種類の未分化細胞に戻し、多分化能を持つ細胞にしたものがiPS細胞である。臓器再生を目指して、ES細胞(胚性幹細胞)、iPS細胞や体性幹細胞の研究が進められている。


(12)ガンの原因がこのような遺伝子の変異によって起こるということから、遺伝子の変異を起こす仕組みの解明が行われた。その原因としえまず考えられることは、細胞分裂に際して、遺伝子の複製が必ずしも完全無欠に正確に起こらないということによる突然変異に由来する可能性があることだ。それを防ぐために、細胞には多くのDNA修復機構が備わっているが、すべての仕組みに完璧ということはありえない。


(13)生命観に大きな影響を与えた分子生物学の発見をかいつまんでみると、まず第一に、遺伝物質の構造が明らかになり、こらがすべての生物種において同一であることが確認された。このことにより、地球上の生物は一つにつながっているということが、動かしがたい事実となった。ヒトのインシュリンが大腸菌の中で作られるということほど、われあれの生命の基本的な仕組みが微生物と同じであるということを強く示す事実はない。


’(14)第二に、遺伝物質はけっして確固不動のものではなく、きわめてダイナミックに変動しているということの発見は、生命の仕組みが、コンクリートのビルディングのような固い設計図によって作られているのではなく、きわめて柔軟性と融通性に富んだ設計図に基づいて作られていることを教えた。


(15)第三に、遺伝情報が個体間において著しい差があるということの確認により、個性の尊厳の物質的基礎が明らかになったように思われる。


(16)物理学では「ものが存在しない」ということを証明することは不可能である。存在しないことと検出できなことの区別がつけられないからである。ゲノム中に記載されていない情報は存在しないと断言できる。このような生命情報の有限性を、私は「ゲノムの壁」と呼んでいる。


(17)興味深いことに、脊椎動物では、Raxという別の遺伝子が網膜の形成を決定する。この進化の保守的な一貫性と局面による行き当たりばったりの選択との共存には驚かされる。


(18)生命体のもっとも 高度 な 機能 で ある 精神 活動 も、 すべて 物質 を 基礎 に 置い た もの で ある こと は、 今日 ますます 明らか と なっ て き て いる。 しかしながら、 生命体 と 物質 とは、 明確 に区別 さ れる。 DNA は 物質 で あり、 生命体 では ない。 生体 の 構成 成分 の どれ を とっ ても、 生命体 とは 明らか に 区別 できる。

【所感】
マルクス・ガブリエル(著)新実存主義より引用する。
思弁 的 メタフィジックス は、 量子力学 に 訴える チャーマーズ の もの で あれ、 自然哲学 の スタイル を とる ネーゲル の もの で あれ、 唯物論 者 の 理解 する よう な 自然 の 秩序 に 属し え ない もの として 心 を とらえる、 心 について の 見方 の 副作用 として生まれ た もの だ と いえる。

 自然 の 秩序 の なか に 心 を 収めよ う と する こと は もともと 唯物論 者 の 企て な わけ だ が、 彼ら は 唯物論 者 に ゲーム の ルール を 委ね て おき ながら、 その ルール を ゲーム の 途中 で 変えよ う と し て いる の だ。 しかし、 つじつまの 合わ ない こうした ごまかし 芸 で 唯物論 者 が 納得 する はず も ない。 むしろ その よう な やり方 では、 唯物論 者 に こう 仮定 する 格好 の 口実 を 与える こと に なる。 

すなわち、 あくまで 唯物論 に 徹し た 世界観 と、 魔法 や 思弁 の 付録 が つい た 唯物論 的 世界観の どちら かを 選ぶ しか ない なら ば、 心 について も しっかり と し た 唯物論 が あっ て しかる べき だ、 と 。


彼ら(チャーマーズとネーゲル)は、情報 の 形而上学 を きちんと 展開 すれ ば、 意味論 的 ギャップ は 容易 に 橋渡し できる と 説く。 しかし、 こうした 見方 の 代償 として、 物質 と エネルギー の 領域 は、 心的 な もの に 酷似 し た 構造 物 へと 解消 さ れ かね ない。 言い換えれ ば、 彼ら には、 あらゆる もの を 包摂 する 情報 領域 ─ ─ そこ には、心 も 物質 も 情報 が とり うる 一 形態 として 含ま れる ─ ─ を 措定 し て、 位置づけ 問題 を 解決 しよ う と する きらい が ある の だ。 彼ら の 見解 は、 現実 の 物理学 に もとづき ながら も、 シェリング の 客観的観念論 の 最新 版 に 薄気味悪い ほど 似 て いる。(引用終わり)

最先端の物理科学の世界でも、本庶佑氏が述べているように「生命体のもっとも 高度 な 機能 で ある 精神 活動 も、 すべて 物質 を 基礎 に 置い た もの で ある こと は、 今日 ますます 明らか と なっ て き て いる。」とは断言していない。現象学のフッサールによれば、自然科学に関しては、重さ、硬さ、温度といった人間の感覚に相関する諸性質を、自然科学の方法ですべて客観的に数学化できるが、自然科学以外に関しては、これを厳密に、数学化することができない、と述べている。精神活動を、重さ、硬さ、温度といった人間感覚に相関する諸性質と同様に数学化できるのだろうか?

現代物理科学の最先端をゆく、ループ量子重力理論では時間も空間も量子化されていて、それ以上分割できない最小単位を想定している。それがプランク長さ(約10のマイナス33乗cm)となる。時間も空間も量子化(物質化)されているが、プランク長さ以下は無規定である。精神活動は時間、空間と共に流れているわけだから、当然、精神活動も無規定となる。つまり、精神活動も物質化を基礎に置いたとしても、その解明は困難となる。

現代物理科学では、宇宙に散らばっている物質で、解明されているのは、全体の5%程度で、残りは、名称として暗黒物質と暗黒エネルギーと名付けられているだけのようです。それと同じく、ゲノム情報の解析結果も全体の5%だという記事を見たことがあるので、物理科学、生命科学いずれも同じ程度の解明度ということになるのが興味のあるところです。以前、ゲノム解析が進むと、生命の実体が全て解明できるのだと、息まいていた記事を読んだことがあったので、それが、今でも、全体の5%に過ぎないと知り驚いた記憶があった。


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