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花壇リハビリ紀行

特に何も勝ち取ってはいないが、Championのスニーカーを履き玄関を開け、外へ出る。

これまでに履いてきたコンバースやVANSなどの似たような形の靴よりも履き心地がよく歩きやすいと思っているが、この靴を履いて歩くようになってから脊柱管狭窄症を起因とするヘルニアや坐骨神経痛に悩まされることになってしまったので果たしてよい靴なのかどうかは読者の判断に任せる。

外へ出た目的は散歩という名の右足の筋力を戻すことを主目的としたリハビリだ。12月末現在、腰にも膝にも目立った症状は出なくなっているが、リハビリをサボればサボるほど再発のリスクが高まることをこの1年で実感したので、雨や雪でもない限りは寒さに負けず出来るだけ歩くことにしている。

一見、閑静な中流住宅街のように思える花壇という街だが、実際の所はトリカブト殺人犯などを輩出した闇もあり、現在も猫にまつわるご近所トラブルが裁判沙汰までに発展しているとかしていないとか。

乳製品やら食べかけのカップラーメンなどの生ごみが何者かの手によってトラブルを起こしている家の前にぶちまけられたりしているので、冷たく澄んだ冬の空気が甘ったるかったり二郎系ニンニク臭が漂っていていたりする時もあるとかないとか。

角を曲がると学生が多く住んでいそうなアパートがあるが、雪が降ると若者が雪かきをしないせいで、毎年のように路面が凍結してかなり危険な道と化してしまう。

元同級生の実家(豪邸)とやや治安の悪いマンションに挟まれた細い道を歩き広瀬川の河川敷へと向かう。

子供の頃は上記画像のような舗装された道や手すりなどがあるわけでもなく、ただの草むらが生い茂った崖のような場所だったと記憶している。野生の蛇やら怪しい植物やかっこいい虫などとの遭遇にワクワクしたり怯えたりしていたことを思い出す。俺はファーブル昆虫記が好きだった。蛇は今でも怖い。

向こう岸の追廻地区に目を向けると何やら黄色い物体が見えた。「この美しい世界は黄色だ」と歌ったオ〇ム真理教の村井の歌を思い出す。リンクは貼らないが気になる方は「味覚の歌」で検索してくれ。

黄色い物体に背を向け曲がるとこじんまりとした公園がある。15年ほど前に出勤するつもりがコンビニで500mℓの酒を2本買って気が付いたらこの公園のベンチに座っていた。深夜残業続きで精神的に破綻していた当時の俺は何の躊躇もせず酒を2本一気に飲んで携帯の電源を落としベンチから立ち上がり家に帰って布団に隠れるように潜り込んでいた。

そんな思い出深い公園のある道を抜けると自転車屋がある。今年の正月にマイナポイントを駆使して新しい自転車を買ったのはここだけの話だ。足腰に重大な爆弾を抱える自分にとってはそれまで乗っていた故障まみれで安定感のない古い自転車に乗り続けるにはリスクが大きすぎて、新品の自転車がどうしても必要だった。

大橋に目を向け、川内方面に歩くことも考えたが今はまだ早い。

坂を上ることにする。この坂を上る度に創元推理文庫やサンリオSF文庫などが充実していた尚古堂書店に思いを馳せてしまう。もっと真剣に通うべきだった。

坂を上りきると交差点の向こうにヤナセのショールームがある。子供の頃はよく親に連れて行ってもらってベンツなどの高級車に憧れを抱いたりもしたが、現実では数年前にHONDA製の軽自動車を廃車にして以来ほぼ車には乗っていないペーパードライバーに成り下がってしまった。たまたま運がよくゴールド免許ではあるが何度か逆走したりアレしたりしていたので運転は苦手だ。

自主制作風の神社の傍にある階段を下りて花壇・大手町方面へ戻る。この階段は段差や幅が不規則で手すりも壊れて安定感がないので、通っている整骨院の先生も足腰の悪い人に不親切な階段だとか苦言を呈していた。実際今日も下り辛かった。

階段を下りて帰路につく途中に映画「Drive My Car」のロケで使われたというかつどん家がある。映画鑑賞という行為が自分の身体に趣味として定着したことがない人間なので当然見ていない。

映画の効果で繁盛しているかのように思えるが、開店当時から昼間はタクシー運転手、夜は東北大学の運動部の学生に占拠されている人気店である。最近はご無沙汰だが10年程前はたまに行っていて梅じそ巻き定食をよく頼んでいた。

約2キロほどの道のりを歩き家の前に辿り着く。そこそこ疲れはあるが膝や腰に痛みや症状は出なかった。今年の7月頃は膝の激痛で自分の部屋を移動することもままならなかったことを思うと感動を覚えざるを得ない。

当たり前のことがストレスを感じずにできることが嬉しい….などと感慨に耽っていたが、ふと後ろを振り返ると自己主張の強いタワマンが俺を見下ろしていた。

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