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『幽霊物語』物語

いまからもう30年以上前の1988年、当時早川書房で編集者をしていた私は1冊のアンソロジーの編集を担当しました。

『ロアルド・ダールの幽霊物語』というタイトルが物語るとおり、『チャーリーとチョコレート工場』『あなたに似た人』などで知られるイギリスの作家ロアルド・ダールが編纂した短編集です。

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といっても、ダール本人の作品は「まえがき」以外には収録されていません。

この本は、ある依頼を受けたダールが作り上げたアンソロジーなのです。

その委細は「まえがき」で語られています。

ある時、ダールはテレビ会社のこんな依頼を受けます。

古今の幽霊物語を映像化したテレビシリーズを企画している。ついては、その原作となる幽霊物語を厳選してもらえないか。

張りきってこの依頼を受けたダールは、古今のあらゆる幽霊物語を読み漁ります。もともとダール本人も「短編の名手」であり、幽霊物語には一家言持っていたようです。

数えきれないほどの幽霊物語を読みとおした末、ダールは14編の幽霊物語を厳選しました。

残念ながら、テレビシリーズの企画は実現しませんでした。でもダールの手元には、厳選された珠玉のような幽霊物語が残りました。

その短編を集めて一冊にまとめたのが『ロアルド・ダールの幽霊物語』なのです。

ハヤカワ・ミステリ文庫から刊行された『ロアルド・ダールの幽霊物語』(乾信一郎・他訳)には原書と同様に14編の幽霊物語が収録されています。

さて編集作業を進めるうち、私の目を惹いたのが「落ち葉を掃く人」という短編でした。目を惹いたのはその著者名です。Ex-プライベート・Xというなんとも風変わりな名前でした。

『ロアルド・ダールの幽霊物語』の巻末には収録作品の著者紹介をつけるのですが、それを書くのは編集者の私の仕事でした。どうやって調べたか忘れましたが(当時はまだインターネットなんて便利なものはありません)調べているうちにこのEx-プライベート・Xというのはある作家のペンネームであることがわかりました。

その作家はA・M・バレイジで、彼の作品「遊び相手」もまた『ロアルド・ダールの幽霊物語』に収録されていました。

つまり、ダールの厳しい眼鏡にかなう作品を、2作もものにした作家だったのです。これはけっこう大変なことですね。

そんなこんなで、私の脳裏に「A・M・バレイジ」という名前がなんとなく刻み込まれたのです。

その後もいくつかのアンソロジーでこの名前を見たことはありましたが、けっきょくはそれっきりでした。

ところが、それから30年ほどたったころ、その名前がふたたび私の前に出現したのでした。【続く】

ありふれた幽霊

【2020年7月1日発売】

『ありふれた幽霊』

A・M・バレイジ/仁賀克雄・編訳/フロントデザイン・石川絢士 (the GARDEN)/Kindle版

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『幽霊物語』物語(続)
https://note.com/hm_publishing/n/n93f94c64d111

『幽霊物語』物語(続々)
https://note.com/hm_publishing/n/ne6ef0f9818b6

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