見出し画像

『幽霊物語』物語(続)

『幽霊物語』物語
https://note.com/hm_publishing/n/n9cea108fac29

『ロアルド・ダールの幽霊物語』がはるかな昔話になったころ、早川書房の雑誌「ミステリ・マガジン」で連載を担当しました。

ミステリ、ホラー、SFなどの研究者で翻訳者で編纂者でもあった仁賀克雄氏の連載を始めるにあたって、その担当を編集長から申しつかったのです。すでに仁賀氏とは顔なじみだったこともあっての任命でしたので、わりと気楽に引き受けた記憶があります。

連載は「仁賀克雄のできるまで」というタイトルで、ワセダミステリクラブの創立や、江戸川乱歩をはじめとする巨匠たちとの交流、石油会社勤めで海外赴任したおりの逸話などをまとめていく、いわば仁賀氏の回顧録。

原稿や掲載する写真などを受け取るために毎月1回、横浜市郊外の仁賀氏のお宅にうかがい、いろいろなお話を聞かせていただくのがけっこう楽しみでした。

むかし話だけではなく、最近の作品のあれこれ、ミステリからSFまでの仁賀氏の博識の一端に触れさせていただいたのは、いまから思えば貴重な時間でもありました(2009年から2010年に連載)

そんな中から生まれたのが『新・幻想と怪奇』というアンソロジーの企画でした。

画像1

ご存知の方も多いでしょうが、もともとの『幻想と怪奇』はハヤカワのポケミスで2巻が刊行された、怪奇小説の古典的短編を集成した名物アンソロジー。編纂は早川書房編集部とクレジットされていますが、同書の解説も執筆した都筑道夫氏があたったようです。

「緑茶」(シェルダン・レ=ファニュ)「上段寝台」(マリオン・クロフォード)「猿の手」(W・W・ジェイコブス)「ダンウィッチの怪」(H・P・ラヴクラフト)「開いた窓」(サキ)などなど、このジャンルの古典ともいうべき傑作が網羅されていました。

刊行は1956年8月。その後長く流通し、多くの読者に戦慄と忘れえぬ印象を残してきました。かく言う私もその一人でした。

画像2

この名アンソロジーにインスパイアされ、仁賀氏は1970年代にハヤカワ文庫で『幻想と怪奇』全3巻を編纂されました。ポケミス版『幻想と怪奇』のフォローアップを意図した企画で、こちらもロングセラーとなりました。

古典的作品を集めていたポケミス版にくらべると、レイ・ブラッドベリ、ロバート・シェクリイ、リチャード・マシスン、フィリップ・K・ディック、シオドア・スタージョン、クリフォード・D・シマック、フレドリック・ブラウン、エイヴラム・デイヴィッドスンら、ホラー、SF、サスペンス、ミステリ、そしていわゆる「異色作家」まで、当時(1975年~1978年刊行)の最前線の作家の作品を収集しています。

画像3

それから40年、その後に蒐集した短編を主に、さらなるフォローアップをめざしたのが『新・幻想と怪奇』でした。

過去のふたつの『幻想と怪奇』を愛読し、また仁賀克雄版『幻想と怪奇』の新装版編集も手がけていた私にとっては、願ってもない企画。

仁賀氏との雑談からいくらも経たないうちに企画書が出来上がり、割ととんとん拍子に設計図が完成しました。

幸いにも会社のゴーサインも出て、2009年5月に無事刊行されました。

ローズマリー・ティンパリー、ロバート・シェクリイ、リチャード・マシスン、ロバート・ブロック、レイ・ラッセルらの名前が並ぶ、その『新・幻想と怪奇』に収録する作品リストに「暗闇のかくれんぼ」がありました。

「13人の鬼遊び」「スミー」といった邦題で翻訳されたこともある作品で、その著者がA・M・バレイジでした。

ここで数十年ぶりでバレイジの作品を手がける機会が訪れたわけです。

といっても、このときは多くの収録作品のうちのひとつというだけのことでしたが、『新・幻想と怪奇』刊行後だったか、仁賀さんとその話をしているうちに、思わぬご提案をいただいたのでした。【続く】

『幽霊物語』物語(続々)
https://note.com/hm_publishing/n/ne6ef0f9818b6

ありふれた幽霊

『ありふれた幽霊』

A・M・バレイジ/仁賀克雄・編訳/フロントデザイン・石川絢士

amazon.co.jpにて販売中

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?