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読書の記憶〜アン・タイラー

南北とわずアメリカの小説が好きなのだが、アン・タイラーは特にお気に入りの一人。
初めて手に取ったのは確か「ブリージング・レッスン」。アメリカの田舎で暮らすマギーが高校時代の友人の葬式に夫と車で出かけるのだが、数時間にわたる道中でこれまでの人生を振り返る…というストーリーだった。

アン・タイラーの小説に出てくるのはいわゆるダメなアメリカ人だ。職業も学歴もぱっとしないし、性格もどこかネガティブでルックスも普通。でも殺人やドラッグに手を染めるほど落ちぶれもしない。

そのせいか、どの小説でも生活の様々な場面が細やかに丁寧に描写される。朝ご飯に食べた卵料理の色、ガレージロッカーの扉のへこみ、古着屋で買ったスウェットに書かれた文字…。そんな日常生活の延長に、主人公は生きる意味を見出していく。

毎回、「普通の人」の「普通の生活」しか描かないのに、読ませる小説なんだよだなあ、と感心してしまう(なぜか上から目線)。スーパーヒーローの国アメリカで「普通」を生きるのはきっと苦しい事だろう。でもアン・タイラーの書く主人公達はそこから逃げない。ある意味、ピューリタン的なストイックささえ感じさせる奴もいる。

こういう小説を読んでいると、国や人種が違っても人間てそんなに変わらないんじゃないかと思えてくる。でも人に勧めてもあんまり「良いね」と言ってもらえないのが悲しいところ。勇気を持って普通を生き抜くヒーローの話、読み応えがあるんだけどなあ。

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