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プレー解剖 リコーのトリプルラインアタック:リコーブラックラムズ対キヤノンイーグルス<2>

 3月27日のリコーブラックラムズ対キヤノンイーグルスのマッチレビュー2回目。両軍4トライ、最終スコア31-28のナイスゲームだ。

 これまで、「今日の1シーン」としてどちらかのチームのアタック・ディフェンスを分析して来たが、きょうから「プレー解剖」に改名。なんか「今日の1シーン」って名前がいまいちだと思っていたので(笑)。

 この試合からはリコーのトリプルライン攻撃を取り上げたい。

 キヤノンもウイングを逆サイドに移動させ、フルバックをデコイに使ったり移動したウイング自体をデコイに使ったりという面白い攻撃をしているのだが、それはドコモ戦で既に一度取り上げている。また、キックの応酬も面白い(特に後半35-37分)のだが、それはまた別に機会があれば。

ユアボールスクラムから始まる37分のリコーの攻撃

 取り上げるのは前半37分の攻撃。

 まずキヤノンボールのスクラムからキヤノンのナンバーエイトがサイド攻撃。そこからの流れでキヤノンがノックオン。そのこぼれ球を見逃さず、リコースタンドオフのアイザック・ルーカスが飛びついてリコーボールのラックに。

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 リコーはそこからオープンサイド(左方向)にパスアウト。

 しかしボールを後ろ方向にファンブルして、10m程下げられたところでまたラックを形成。リコーがファンブルしたもののキヤノンはターンオーバーはできず。

 このラックの段階で、リコーはショートサイドに立っていたのはフルバックのマット・マッガーン1人。一方、同じサイドのキヤノンのディフェンスは3人。オープンサイド(リコーから見て右サイド)にはリコーは9人。ディフェンスは7人。リコーが数的優位ではあるがキヤノンも7人いれば十分スライドで対処できる状態。

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ターンオーバーからの移動攻撃

 ここでリコーは安全にオープンサイドにパスアウト(ショートサイドはリコー3人対キヤノン1人で攻めようがない)。9シェイプのフォワード3人でキヤノンのディフェンスに正面からクラッシュしてラックを作る。そしてこの瞬間、9人いたオープンサイドのアタッカーの内4人が左サイドに移動する。

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 つまりここで作ったラックは、移動攻撃のための時間を作るためのブレイクダウン。

 リコーのスクラムハーフ高橋敏也は、素早く左にパスアウト。しかし素直にスタンドオフに出すのではなく、飛ばしパス。

 飛ばしパスを受けた選手(テレビ画面からは識別できず)も、すぐ外にいたフランカー ジェイコブ・スキーンを飛ばして右サイドから移動してきた14番ヴァカヤリアにパス。飛ばしパス2回でディフェンスより外にボールを運び、ヴァカヤリアが突破する。

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 ヴァカヤリアはサポートに入ったスキーンにさらにパス、スキーンも前進するもののキヤノンディフェンスに捕まってラックになる。

次のフェイズでトリプルラインを形成

 ここでポジショニングを確認しておきたい。キヤノンのディフェンスラインは8人が立っていて数的には十分。リコーはオープンサイド(リコーから見て右サイド)に9人。

 9シェイプのフォワード3人がスクラムハーフからのパスを受けられる位置に並び、その後ろにスタンドオフ、スタンドオフの右側には4人並んでいて、その後ろにフルバックという形だ。

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 スクラムハーフ高橋はまず9シェイプにパスアウト。ここまでは前のフェイズと同じ。この時、スタンドオフの右に並んでいた4人が、2人ずつのユニットに分かれて外に広がっていく。それと併せて、フルバックも前進してくる。

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 この時、リコーのアタックラインは、9シェイプが1列目、スタンドオフとその横の2人が2列目、フルバックとその横の2人が3列目というトリプルラインの陣形になっている。

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フルバックにパスして突破

 ラックからのボールを最初にもらった9シェイプのフォワード3人は、前のフェイズと同じようにまっすぐ進んでクラッシュすると見せかけ、バックドアに当たる位置にいるスタンドオフのルーカスにパス。

 ルーカスは真横の選手(フォワード)にパスすると見せかけて少し溜めてからやはりバックドアに当たる位置にいるフルバックのマッガーンにパス。マッガーンも外に開きながらディフェンスを引きつけ、1人飛ばして一番端にいた12番濱野大輔にパス。濱野がゲインした。

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 実は濱野はまた捕まるが、そこから左方向に同じパターンの攻撃でリコーはさらにゲインする。

 そこでノックオンでこの場の攻撃は終わってしまうが、この日優位に立っていたスクラムではユアボールからアーリーエンゲージを勝ち取ってボールを奪回。

 そこからの連続攻撃+ペナルティ+タッチキック+ラインアウトからのキックパスで前半最後のトライを取る。

 その意味で、きょう分析した攻撃はトライに直接結びついたわけではないが、これと同じ、ラインが外に開き、フルバックが走りこむスペースを作っておいてフルバックを上手くバックドアに入れる形の攻撃でリコーは何回かゲインしている。

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判断力が問われるアンストラクチャーからの攻撃

 なお、この37分の攻撃は、マイボールから準備された攻撃を仕掛けたわけではない。発端はユアボールスクラムからのターンオーバー。そのアンストラクチャーの局面からの移動攻撃でのオープン展開、さらに反対方向への展開でのトリプルラインの形成、という形で、各選手の瞬間的な判断力が問われる形の攻撃で、見ていて非常に興味深かったので取り上げることにした。

 こうした臨機応変の判断ができるチームは見ていて面白い、もう一度みたい、と思っていたのだが、今週日曜、4月4日の秩父宮でのNEC戦は娘の塾があって見に行けない(涙)。トーナメントでなんとかもう一度見られれば、と思う。


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