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キック戦術の熟成度の差:ラグビー 慶応対明治<1>(11月1日)

 11月1日の秩父宮はビッグマッチが2つあった。第1試合が早稲田対帝京、第2試合が慶応対明治。興行的には「もったいない」とも思うが、大学ラグビーは興業ではないので仕方ない。まあ、見る方としてはたいへんおいしいのだが。

 第1試合は早稲田が予想外の大勝。第2試合の慶明戦は、最近では珍しいほどのロースコアの凌ぎ合いになった。インジャリータイムのペナルティゴールで逆転した慶応が13-12で勝利。

 ボールがあまり継続されず、ぶつ切りのゲームだったので、私は速報レビューでは「凡戦」と書いた。

 さて、その印象は正しかったのか?と思いながらJSPORTSでビデオチェック。

 ビデオをただ見るだけでは能がないので、2つのデータを取ってみることにした。

慶応と明治のどちらがテリトリーキックを有効に使ったか?

 1つはキックの評価。意図的なタッチキックとグラバーキック、フリーキックは除き、ハイパントやテリトリーキックとして蹴られたキックについて、以下の5項目でカウントしてみた。

(1)キックを再確保してマイボールにできた。
(2)ボールは確保できなかったが、その後のプレーでボールを再奪取したり、相手にタッチキックを蹴らせてプレーエリアを前進できた。
(3)ボールを確保できず、相手の前進を許し、キックの地点より後退させられた。
(4)キックで蹴り返された(リターンキック)。
(5)フェアキャッチされた。

 結果は、驚くべきものだった。
  慶応
   再確保:1
   プレーエリア前進:8
   後退:2
   リターンキック:3
   フェアキャッチ:なし 
  明治
   再確保:2
   プレーエリア前進:0
   後退:5(79分のダイレクトタッチ含む)
   リターンキック:7
   フェアキャッチ:2

 なんと、慶応が14回キックを試み、そのうち再確保含めて9回前進に成功(64%)しているのに対し、明治は15回キックを試みたものの、前進に成功したのは再確保できた1回のみ(7%)で、3分の1はプレーエリアが後退させられている。
(なお、前半13分の明治のトライの時、慶応のパスをインターセプトして走り抜けていく途中でキックを使っているが、これはテリトリーキックとは性格が違うのでカウントには含めていない)

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 これを見ると、慶応がキックで効率よく陣地を確保した一方で、明治はキックが長すぎたり、チェイサーとの連携が上手く取れていなかったりでプレッシャーが甘く、ボールを生かされてしまっていることが分かる。つまり、慶応は戦術的にキックを有効に使えているのに対し、明治はむしろキックの結果ボールを失っているのだ。

3回しか22mラインを越えられなかった明治

 もう一つ取ってみたデータは、敵陣22mラインを越えて攻撃したとき、どのような形でボールをロストしているかだ。

 慶応は、22mラインを越えたのが9回。うちトライ1回、ペナルティゴール3回(うち1回失敗)。ノット・リリース・ザ・ボールでのボールロスト4回、ラインアウトでのロスト1回。

 明治は、22mラインを越えたのがそもそもわずか3回しかない。1回はラインアウトでのボールロストで、残りの2回はトライ。
 この2つのトライのうち、1つは慶応が攻め込んできたボールをインターセプトして奪って走って行ったもので、もう1つは自陣10mライン付近のスクラムからサインプレーで一気に慶応ディフェンスを突破したもの。つまり、明治がフェイズを重ねての攻撃で22mラインの向こうに侵入することはなかったと言うことだ。

キック戦術を熟成させた慶応と、未成熟の明治

 試合を見直してみると気づくことだが、ハーフライン付近から明治は再三キックを蹴り込んでいる。しかしながら、距離が長すぎてチェイサーが届かないところにボールが落ちてしまう。

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 そのため、慶応は余裕を持ってボールをキャッチし、リターンキックを蹴ることができた。明治が、22mラインを越えてボールを確保することができなかった大きな理由は、キックによる前進を再三試みたものの、それがほぼ失敗したことによる。

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 逆に慶応は、キックを使って効率よくテリトリーを稼ぎ、明治を自陣インゴールから遠ざけていた。慶応は元々ハイパント戦法の伝統があったこともあって、テリトリーキックを重視する栗原徹ヘッドコーチの戦略方針を上手く取り込んでいるように思える。逆に明治は、キックを戦術として消化するに至っていない。

 ここまでキックが上手くいかないのならば、明治としては、蹴るのではなくポゼッションしながらクラッシュを繰り返し、フェイズを重ねての攻撃で少しずつ前進した方が有効だっただろう。

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 ただし、明治のこの試合のキック戦術が、元々意図されたゲームプランなのかどうかは、観客として手に入れられる情報からは判断できない。

 試合前はポゼッション戦術で戦おうとしていたが、慶応のタックルが事前の予想よりも強力で、地上戦での前進は難しいと判断し、キックに切り替えた可能性もあるからだ。

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 こういった試合展開の中、明治の攻撃の中心となったのが、バックスだった。

(続く)

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