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41点。天理の攻撃力:ラグビー大学選手権準決勝 明治対天理<2>

 2021年1月2日のラグビー大学選手権準決勝、明治対天理戦。前回は全体を見てみたが、今回は天理の攻撃を細かく見てみよう。

フィフィタをどう使うか

 天理の攻撃の看板はやはり13番フィフィタ。

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 スーパーラグビー、サンウルブズのメンバーにも選出され、日本代表としての将来が嘱望されている選手だ。となると、天理としてはどのようにフィフィタを使っていくか、対戦相手としてはどのようにフィフィタを止めるかがポイントとなるのは明らかだろう。

 天理の攻撃パターンを要約すると、フィフィタはトップスピードで走り込める位置に立ち、フィフィタのゲインによりディフェンダーを前に集めて(グルーピング)、ライン際にポジションを取るウイングに長めのパスを通してトライを狙う、というものだ。

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 それを前提に、天理は大きく分けると2つの攻撃パターンを見せた。1つはスクラムハーフの横に3人フォワードを並べ、スクラムハーフからのパスを受けてそのまま正面にクラッシュするパターン(いわゆる9シェイプ)だ。

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前半2分、天理のトライ

 ここでは試合開始早々、前半2分の天理のトライを見てみよう。

 まず、ラインアウトからの流れでできたラックから、天理スクラムハーフ藤原が、真横に立つ4番モアラにパスアウト。モアラはまっすぐ進んでクラッシュ、ラックを作る。

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 そのラックから右にパスアウト。そこには13番フィフィタが走り込んでくる。フィフィタは右にパス。右でパスを受けた選手(多分フランカーのどちらか?)もまっすぐ進んでクラッシュ。ラックを形成。

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 そこからスクラムハーフは逆方向(左側)にパスアウト。再び4番のモアラがパスを受けてもう一度まっすぐ縦に突進。少しゲインしてラック。

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 このラックの間に、先ほどと同様、フィフィタがラックの右側にポジションを取る。位置としてはスクラムハーフからのパスを直接取れる距離。つまりスタンドオフ的な立ち位置だ。

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 そして再びフィフィタにパスアウト。この時はフィフィタはパスではなくラン。まっすぐ縦に走ってクラッシュする。

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 上の写真のように、明治は箸本も加わるダブルタックルで止めたが、この時もゲインできており、明治のディフェンダーが寄ってきて前進を止めた。ただしその分、外側のディフェンスが手薄になっている。

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 この段階で、明治のディフェンスラインに並んでいるのは3人で数的劣勢。ただし、明治から見て左方向にスライドすれば、天理の攻撃をタッチラインに押し出すことは可能な状況だった。

 しかし天理はこのタイミングで、6番がまっすぐ走り込んでディフェンスを引きつけた。しかし6番はデコイ。スクラムハーフ藤原はバックドアに立つ10番松永拓朗にパスアウトした。この時、明治ディフェンダーは6番の動きに引っかかっていて、縦に走り出しておりもはや左方向へのスライドは不可能だった。

 それを見た天理スタンドオフ松永は14番の土橋に飛ばしパス。(写真右側のぼうっとした部分は前列の観客の頭です・・・・)

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 土橋の前にはスペースがあり、まっすぐ走り込んで先制トライ。

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 この攻撃は結局4番のモアラと13番のフィフィタを交互に突進させ、ディフェンダーを前に集めて(グルーピング)、外側のスペースを作り出したと言うことだ。そのためにフィフィタがスタンドオフ的な立ち位置に置かれたが、これはスタンドオフ的なゲームメイクが期待されてのことではなく、縦を突く(もちろん逆を突くためのパスもあり得る)ためにスクラムハーフからのパスを直接受けられるポジションにおいたということだろう。

後半7分、天理のトライ

 もう一つの攻撃パターンはスクラムハーフの斜め後ろに通常通りスタンドオフが立ち、スタンドオフが横方向に長めのパスを放り、そこにフォワードが走り込んできてラックを作るもの。後半7分のトライはこのパターンを繰り返して取っている。

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 この時は、スタンドオフが浅めに立つ一方、そこからやや下がった位置にフォワード3人が立つ。このフォワードたちはトップスピードで走り込んできてスタンドオフからのパスを受け、そのスピードのまま明治のディフェンスに当たり、ラックを作る。これを素早く繰り返して明治のディフェンスに「ずれ」を発生させていくというものだ。

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 前者のパターンは試合の序盤、後者のパターンは中盤以降によく見られた。いずれにしても、天理は縦方向にまっすぐクラッシュ、というのを何回か繰り返し、その都度ゲインしているので、明治のディフェンスはライン際にスライドしてウイングのスペースを潰すことができなかった。

 また、天理が素早くラックを再形成していく(リサイクル)のに対し、ディフェンダーの再ポジショニングが常に遅れ気味だった。そのため、箸本主将が試合後のインタビューで述べているようにノミネーション(=「誰が誰にタックルに行くのか」を決めること)が遅れたり、ラインオフサイドを犯すなど、明治は後手後手に回った。この繰り返しの結果、26点の差が付いてしまったと言うことだ。

明治の敗因は、どこに?

 ただ、明治の敗因は、41点取られたことではないだろう。15点しか取れなかったことこそが敗因であるように思える。そうだとすれば、やはり敵陣22mラインに進入してからの3回のハンドリングエラーが高くついたと言うことが言える。

 もう一試合の準決勝を見る限り、早稲田は、明治対帝京戦のスカウティングを通じ、帝京のほころびを見いだしていたように思われる。彼らはこの試合から何を見いだしたのか。それが11日の決勝戦で明らかになる。

(終わり)

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