見出し画像

「魂のタックル」対早稲田の「知恵」:11月23日 ラグビー早慶戦<2>

11月23日、ラグビー早慶戦。本格レビュー第1回ではキックについて分析したが、今日は慶応のディフェンスと早稲田の対応について。

「魂のタックル」というくらい、タックルは慶応ラグビーの代名詞だが、今年の慶応は特にタックルが低く、相手に突き刺さっていく。慶明戦の勝利は、強力なタックルなしにはあり得なかった。

画像1


「魂のタックル」 

 タックルにはいくつかの方法がある。肩に手をかけて相手を引き倒すタックルや相手の突進に合わせて腰を入れて止めるタックルもある。

 ただこれらは、体格に勝るチームのタックル。

 体格に勝るとは限らないチームの場合、低い姿勢で、頭を下げて相手にまっすぐ突き刺さっていくヘッドオンタックルが基本になる。

 ヘッドオンタックルは、タックラーが速く走るほど威力を増す。そのため、相手を待ってタックルに行くのではなく、積極的に攻撃側に接近してタックルに突っ込むのが基本になる。「詰め」のタックルと呼ばれる防御だ。

 この「詰め」を極端にして、スタンドオフのあたりでタックルしていくのがシャローディフェンス。アタックライン全体に渡って距離を「詰め」てパスの時間と空間を奪っていくのがラッシュアップディフェンスだ。

 この日の慶応は、試合開始から、スタンドオフから最初にパスを受け取るファーストレシーバーを狙いにして、「詰め」のタックルを仕掛けてきた。あえて分類すればシャローディフェンスといえるだろう。

画像2

 図では単純化して描いたが、実際にはダブルタックルで確実に止めてきた。

画像3

画像4


 これに対して、早稲田は4つの対抗策を講じた。

早稲田の対策1:早いサポート

 1つ目は、サポートプレイヤーの寄せを早くすることだ。
 タックルを受けたとしても、サポートが早く入れば、ラックにおけるターンオーバーを防げるし、チョークタックルの結果モール状態になり、ボールを出せずに相手ボールになってしまうことも防げる。

画像5

この日の早稲田は、とにかくサポートが早く、タックルを受けたボールホルダーが仰向けに倒されることも、チョークタックルのあとのモール状態も上手く防いでいた。

画像6

画像7


早稲田の対策2:スタンドオフとのクロスするような動き

 次に、タックルの目先を変えることだ。しばしばスタンドオフの吉村は、しばしば15番や12番とクロスするような動き(シザーズ)をして、パスの出所を幻惑した。

 そうなると、10番からパスが出ると見込んでファーストレシーバーに詰めていくようなタックルができなくなり、タックルの出足を止めることができる。

画像8

 この3枚の写真を見ると、吉村と河瀬のクロスによって、タックルの出足を完全に止められているのがわかるだろう。

画像9

画像10

画像11


早稲田の対策3: ハーフ団のラン

 もう一つは、ハーフ団がパスを出さずにランで攻めることだ。
 「詰め」のタックルを仕掛けてディフェンスラインが前に突っ込んでくると言うことは、後ろにスペースができると言うことでもある。

 そこで、アタックラインにパスを出すのではなく、9番小西、10番吉村が自分で前に抜けるという攻撃を仕掛けた。これで4分には小西が抜け、14分には吉村が抜けている。いずれもトライには結びつかなかったが、慶応のタックルの出足を牽制するには有効なプレーだった。

スライド9

以下の4枚は14分の吉村のラン。

画像12

画像13

画像14

画像15


早稲田の対策4:ダブルライン攻撃(次回に続く)

 そして最後の方法が、ダブルライン攻撃だ。ダブルライン攻撃については第1回でも話したが、この日の早稲田の3つのトライのうち2つはダブルライン攻撃が絡んでいる。

 逆に22mラインを越えてから攻撃が停滞した慶応は有効にダブルライン攻撃を仕掛けることができなかった。ダブルライン攻撃については、いずれマガジンの「ラグビー戦術入門」の方でも書こうと思っている(というかダブルライン攻撃について書くために「ラグビー戦術入門」を始めたようなものだ)が、早慶戦でどう使ったのか、次回話したいと思う。

(続く)

この記事が参加している募集

スポーツ観戦記